配偶者居住権の解除

公開:2025/12/12

Q :夫が亡くなり、居宅は長男に相続し、配偶者である私は配偶者居住権を設定し住んでいましたが、このほど老人ホームに入居するため、居宅を売却し、その売却代金を入居費用に充てたいと考えています。この場合、配偶者居住権の関係で課税されることはありますか。 A: 配偶者居住権を無償で解除した場合には、所有権者への贈与に該当し、ご長男に贈与税が課される可能性があります。また、有償で解除した場合には、譲渡に該当し、あなたに譲渡所得税が課される可能性があります。 解説 (1) 配偶者居住権とは 被相続人の配偶者は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、遺産分割協議により配偶者居住権を取得するものとされたときや、配偶者居住権が遺贈の目的とされたときは、その居住していた建物の全部について、無償で使用及び収益をする権利を取得します(民法1028)。この権利を、配偶者居住権といい、令和2年4月1日以後に発生した相続から新たに認められました。 (2) 配偶者居住権の存続期間 配偶者居住権の存続期間は、遺産分割協議又は遺言による別段の定めがない限りは、配偶者の終身の間となります(民法1030)。配偶者が死亡した際には配偶者居住権は消滅します。 (3) 配偶者居住権を取得するメリット 遺産分割協議の場面において、例えば法定相続分をもとに財産を分けようとする場合、配偶者が引き続き自宅に住み続けたい意向があるものの、自宅を取得することで、他の財産について取得できる金額が減少し、生活に必要な金銭を取得することができないという問題が生じることがあります。その点、配偶者居住権を取得することで、自宅の所有権は別の相続人が取得したとしても配偶者は引き続き自宅に住み続けることができ、さらに他の財産を取得することができるというメリットがあります。 また、相続税の申告においては、配偶者居住権とその目的となっている建物、配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供される土地の敷地利用権と敷地所有権とに区分し、それぞれ、前者は配偶者が、後者は所有権を取得した人が取得したものとして相続税額を計算します(相法23の2)。 配偶者が死亡した際には配偶者居住権は消滅することから、相続税額の計算においては、一次相続で配偶者居住権を配偶者が取得することでその財産について配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受け、納付相続税額を減少させ、二次相続では配偶者居住権は消滅するため、二次相続の相続財産として計上する必要がありません。その点で、一次相続と二次相続とを合わせて考えた際に、結果として相続税の節税効果があります。 なお、小規模宅地等の特例において、特例対象宅地等には、配偶者居住権は含まれませんが、配偶者居住権に基づく敷地利用権及び配偶者居住権の目的となっている建物等の敷地の用に供される宅地等は含まれます (措通69の4-1の2)。この特例の適用についても考慮するとよいでしょう。 (4) 配偶者居住権の解除 配偶者居住権が、被相続人から配偶者居住権を取得した配偶者とその配偶者居住権の目的となっている建物の所有者との間の合意若しくはその配偶者による配偶者居住権の放棄により消滅した場合又は民法1032条4項(建物所有者による消滅の意思表示)の規定により消滅した場合において、その建物の所有者又はその建物の敷地の用に供される土地の所有者が、対価を支払わなかったとき、又は著しく低い価額の対価を支払ったときは、原則として、その建物等の所有者が、その消滅直前に、その配偶者が有していたその配偶者居住権の価額に相当する利益又はその土地をその配偶者居住権に基づき使用する権利の価額に相当する利益に相当する金額(対価の支払があった場合には、その価額を控除した金額)を、その配偶者から贈与によって取得したものとして取り扱います(相基通9-13の2)。 したがって、配偶者居住権の解除に当たり、無償又は著しく低い価額の対価をもって解除した場合には、その建物等所有者に贈与税が課される可能性があります。 なお、配偶者居住権の解除に当たり、配偶者が対価の支払を受けた場合には、譲渡所得(総合課税)として、所得税が課される可能性があります(措通31・32共-1)。

Q&A 弁護士のための相続税務70

財産取得の時期

公開:2025/12/12

Q:私は、次男にマンションを贈与したいと考え、本年の12月末までには贈与契約書を作成する予定です。実際の引渡しは年明けとなる見込みです。次男は来年贈与税の申告を行う必要があるのでしょうか。 A: 贈与に当たり書面で贈与契約を交わした場合、契約をした本年中に贈与財産を取得したものとして、贈与財産を取得した翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告をします。なお、贈与契約の日付と贈与財産の引渡しが年をまたぐような場合には、じ後の税務調査に備え、公証役場で確定日付を取っておくことが望ましいといえます。 解説 贈与・対象財産が不動産の場合、贈与契約書を作成して贈与契約を交わした日を財産取得の時期とします。書面によらず契約を交わしたときは、不動産の引渡しを受けた日を財産取得の時期とすることになり、課税関係に影響しますので留意が必要です。 (1) 民法上の贈与 贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生じます(民法549) ので、この要件を満たせば、書面又は口頭のいずれであっても成立します。 なお、書面によらない贈与は、贈与者も受贈者も原則いつでも解除することができますが、履行が終わった部分については解除することができません(民法550)。また、書面による贈与は、原則として解除することができません。 (2) 相続税法上の贈与財産取得の時期 相続税法における贈与による財産の取得の時期は、上記民法の規定を受け、書面によるものについてはその契約の効力の発生した時、書面によらないものについてはその履行の時とされています(相基通1の3・1の4共-8)。 不動産など所有権移転登記等の目的となる財産について上述の取扱いにより贈与の時期を判定する場合、贈与契約書を作成していないなどその贈与の時期が明確でないときは、特に反証のない限りその登記等があった時に贈与があったものとされます(相基通1の3・1の4共-11)。 なお、「司法試験に合格したら1億円を贈与する」というような停止条件付の贈与は、上記によらず停止条件が成就した時に財産を取得したものとされます(相基通1の3・1の4共-9)。 (3) 贈与財産の取得時期の違いによる相続税額への影響 本事例のマンションの贈与のように比較的高額な財産を贈与により取得する場合、受贈者は、贈与者の相続開始時に相続財産に加算して相続税額を計算する相続時精算課税制度を選択するか、特に選択の手続を要しない暦年課税贈与により申告するかの判断を要します。 暦年課税贈与により申告した場合、贈与者の相続が開始した際、相続開始前の一定の期間内に贈与を受けた財産の価額は、相続税の課税価格に加算しなければならず、財産の取得時期は相続税額の計算に大きく影響します。このため、相続開始の日に応当する財産の取得時期の判定にあっては、贈与契約書の作成日や贈与財産の引渡日が重要な要素となります。 (4) 贈与税申告がない場合の贈与の事実の判断 暦年課税贈与において、贈与契約は交わしたものの、何らかの事情により贈与財産の登記や引渡しに時間を要するような場合には、贈与税の申告が行われ ないまま相続開始を迎えるというケースもあります。このような状況において、相続税に係る税務調査が行われた場合、贈与契約を交わした財産につき、贈与が成立しているか否か (被相続人 (贈与者)の財産となるか否か)、課税上の問題が生じます。この点、次の①及び②の裁決事例があります。 ① 公正証書に基づく贈与契約は成立していないとされた事例 請求人が相続開始前に公正証書に基づき贈与契約を交わした不動産は、相続人が被相続人から生前贈与を受けたものであり、相続財産ではない旨主張した事案で、審判所は次のように判断し、請求人の請求を棄却しました。 本件不動産の所有権移転登記手続及び使用収益の状況などに照らすと、被相続人は、本件公正証書に基づいて、孫らに対し本件不動産を真に贈与する意思を有していたとは認め難く、孫らも、本件不動産を取得したとする認識があったとは認められない。また、公正証書を作成した目的が、請求人が主張するように、孫らに対する相続税の節税のための生前贈与にあるとするならば、孫らの親権者である請求人を含めた当事者は、本件不動産についての贈与税の申告が必要であるとの認識を有していたとみるのが自然であるところ、本件不動産に係る贈与税の申告はされていない。そうすると、本件公正証書は将来の相続税の負担を回避するなど、何らかの意図を持って作成された、実態を伴わない形式的な文書であるとみるのが自然かつ合理的であり、本件公正証書によって被相続人と孫らの間に贈与の合意が成立していたものとは到底認められず、請求人の主張には理由がない。 ② 贈与契約の成立した日は公正証書が作成された日ではなく移転登記の日であるとされた事例 相続開始前に公正証書に基づき行った贈与契約につき、相続人が、公正証書による財産の贈与時期は、本件不動産に係る所有権の移転登記がされた日ではなく、公正証書が作成された日である旨主張した事案では、審判所は次のように判断し、税務署の処分は適法であるとしました。 贈与税課税の除斥期間が経過するまで所有権の移転登記がされていないこと、公正証書の作成目的が租税回避以外の必要性がないこと及び公正証書の記載内容と異なる行為が行われていることから、当該公正証書は実態を伴わない形式的な文書と認めるのが相当であり、これにより贈与が成立したとは認められない。したがって、本件不動産の贈与の成立した日は、第三者に対抗するための法律要件が成就した日(所有権移転登記が行われた日)と認めるのが相当であるから、本件決定処分は適法である。 (5) 本事例における留意点 本事例において、贈与契約書が実態を伴わない形式的な文書と認定されないためにも、契約書記載の引渡期日までに引き渡すとともに、第三者対抗要件である所有権移転登記を引渡日付で行いましょう。また、引渡日以後,受贈者(次男)が実際に使用収益しているという事実を残しておくことに加え、贈与税の申告も必要です。 (6) 所得税の収入金額の計上時期との相違 所得税法上,譲渡所得や山林所得の総収入金額の収入すべき時期は、その所得の基因となる資産の引渡しがあった日、あるいはその資産の譲渡に関する契約の効力発生の日のいずれかを納税者が選択できるとされています(所基通36-12)。 しかし、相続税法上、贈与財産の取得の時期を納税者が選択することはできません。

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非課税財産

公開:2025/12/12

Q:亡くなった夫から、独立した子へ、毎月20万円を生活費として子の預金口座に振り込んでいました。生活費なので贈与税は非課税として考えてよろしいですか。なお、子は安月給の会社員です。 A: 親から子への生活費の振込み(仕送り)は、同居・別居にかかわらず、通常必要と認められる生活費であれば、贈与税はかかりません。 ただし、生活費として渡したもののうち、残余がある場合には、課税関係に注意が必要です。 解説 民法では、両親や祖父母,子供,孫などの直系血族,兄弟姉妹,夫婦間についてはお互いに扶養 (扶助) 義務がある(民法8771, 752) とし、また、叔父や叔母などの三親等内の親族は、特別の事情があるときは家庭裁判所の審判によって扶養義務を負う (民法877②)としています。 一方、相続税法では、生計を一にしているのであれば、三親等内の親族は家庭裁判所の審判にかかわらず、扶養義務者になるとして、民法よりも広く解釈されています(相基通1の2-1)。夫婦や親子、兄弟姉妹などの扶養義務者相互間において、生活費又は教育費に充てるために贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるものの価額は、贈与税の課税価格に算入されません(相法21の3①二)。 (1) 生活費又は教育費の範囲等 生活費とは、通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除きます。)のことで、治療費、養育費なども含まれます(相基通21の3-3)。また、教育費とは、教育上通常必要と認められる学費、教材費、文具費等のことで、義務教育費に限られません(相基通21の3-4)。 なお、相続税法上の「通常必要と認められるもの」とは、被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案して社会通念上適当と認められる範囲の財産とされています (相基通21の3-6)。 (2) 贈与税がかからない生活費又は教育費 贈与税がかからない生活費又は教育費は、「必要な都度」、「直接これらの用に充てる」ために贈与する必要があります(相基通21の3-5)。 したがって、必要と認められる金額をまとめて1年分送金するような場合や、生活費や教育費の名義で取得した財産を定期預金や株式購入資金に充てるような場合には、その財産の帰属をめぐり税務当局と判断が分かれることが多々あります。つまり、贈与者と受贈者の間に贈与契約が成立し、贈与した財産が受贈者に帰属していれば贈与があったとして受贈者の贈与税の課税対象(贈与の成立時期によっては相続税の生前贈与加算の対象)となり、贈与が成立しておらず被相続人に帰属していると認められるのであれば被相続人の相続財産として相続税の課税対象となります。 (3) 妻名義の預貯金は夫の相続財産であるとされた事例 税務署が、税務調査において、被相続人の妻名義の預貯金等は被相続人に帰属するものと認められ、相続財産であるとして相続税の更正処分を行ったのに対し、相続人が相続人の固有財産であるとして、処分の取消しを求めた事案において、審判所は次のように判断し、相続人の請求を棄却しました。 妻に手渡された生活費の残余であるか否かは別問題として、被相続人の妻名義の銀行預金、郵便貯金並びに割引金融債券及び利付金融債券の原資は、被相続人が拠出したものであり、本件預貯金等の取得原資を被相続人が拠出していたことに加え、被相続人による管理及び運用の事実が認められることから、本件預貯金等は、被相続人に帰属していたことが認められる。 請求人は、本件預貯金等は被相続人から妻へ生活費等として生前贈与されたものを貯蓄して形成されたものであり、生活費の余剰金については、口頭による贈与契約があった旨主張する。しかしながら、仮に被相続人が妻に生活費として処分を任せて渡していた金員があり、生活費の余剰分は自由に使ってよい旨言われていたとしても、渡された生活費の法的性質は夫婦共同生活の基金であって、余剰を妻名義の預金等としたとしてもその法的性質は失われないと考えられるのであり、このような言辞が直ちに贈与契約を意味してその預金等の全額が妻の特有財産となるものとはいえないこと、生活費の余剰金が妻に贈与されたことを具体的に明らかにする客観的証拠はないことなどから、被相続人から妻への生活費の余剰金の贈与を認めるに足りる証拠は見当たらないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。 (4) 贈与税が非課税とされるもの 扶養義務者相互間における通常必要と認められる生活費又は教育費のほか、贈与税が非課税とされるものには次のものが挙げられます。 ① 障害者非課税信託 (相法21の4①) 障害者の生活の安定を図ることを目的とした信託契約の受益権について、贈与税が非課税となる上限金額は、特別障害者は6,000万円、特別障害者以外の障害者は3,000万円です。 ② 贈与税の配偶者控除 (相法21の6①) 婚姻期間が20年以上の夫婦の間での、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与について、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで課税対象から控除されます。 ③ 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税 (措法70の2①) 直系尊属からの一定の要件を満たす住宅取得等資金の贈与について、省エネ等住宅の場合には1,000万円、それ以外の住宅の場合は500万円まで非課税とされます。 5 適用期限は令和4年1月1日から令和8年12月31日までとされています。 ④ 教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税 (措法70の2の21) 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち一定の要件を満たすものについて、1,500万円まで非課税とされます。。 ⑤ 結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税 (措法70の2の31) 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち一定の要件を満たすものについて、1,000万円まで非課税とされます。 (5) その他贈与税がかからない財産 ① 法人からの贈与により取得した財産等 (相法21の3①一) 法人からの贈与により取得したもの(贈与税は個人から財産を贈与により取得した場合にかかる税金であり、贈与税ではなく所得税の対象)及び公益信託から給付を受けたもの(新公益信託法の施行の日から適用)。 ② 特定公益信託から交付される金品 (相法21の3①四) 奨学金の支給を目的とする特定公益信託や財務大臣の指定した特定公益信託から交付される金品で一定の要件に当てはまるもの(本取扱いは、新公益信託法の施行の日から「公益信託の受託者が贈与により取得した財産」となります。)。 ③ 心身障害者共済制度に基づき支給される権利(相法21の3①五) 地方公共団体の条例によって、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利。 ④ 選挙運動に関し取得した金品等 (相法21の3①六) 公職選挙法の適用を受ける選挙における公職の候補者が選挙運動に関し取得した金品その他の財産上の利益で、公職選挙法の規定による報告がなされたもの。 ⑤ 社交上必要と認められる香典等 (相基通21の3-9) 個人から受ける香典、花輪代、年末年始の贈答、祝物又は見舞いなどのための金品で、社会通念上相当と認められるもの。 ⑥ 相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産(相法21の24) 相続や遺贈により財産を取得した人が、相続があった年に被相続人から贈与により取得した財産の価額で相続税の課税価格に加算されるもの。 (6) 本事例の課税関係 本事例において、子が会社員として独立していても、月給が少ないために、資力に余裕がある親がその子に送金する生活費相当額については、基本的には贈与税はかかりません。また、祖父母が親に代わって孫に通常必要と認められる生活費を毎月送金するような場合でも贈与税はかかりません。 ただし、送金した金銭が子(受贈者)の貯蓄や証券投資などに充てられるなど生活費として費消されていない場合は、贈与税の課税対象となります。

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負担付贈与の課税標準

公開:2025/12/12

Q:このたび、母からマンションの贈与を受けました。このマンションの時価は2,500万円で銀行からの借入金1,800万円が付されており、併せて私が引き受けました。相続税評価額は2,000万円,取得費は1,500万円とのことです。この場合、贈与税の課税対象はいくらになるのでしょうか。 A: 不動産を負担付贈与で取得した場合は、通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額が贈与税の課税対象となります。相続税評価額ではなく、時価評価になることに留意が必要です。 また 1,800万円の借入金があったお母様は、借入金相当額でマンションを売却したという扱いになり、取得費との差額について譲渡所得課税の対象になります。 解説……… (1) 負担付贈与 通常の贈与は、「当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える」(民法549) という片務契約ですが、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした贈与を行うこともできます。これを負担付贈与といいます。 負担付贈与については、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定が準用される(民法553) ことから、負担付贈与契約の締結後、相手方が負担を履行しない場合は契約を解除することができます。 本事例のように借入金の負担を受贈者に負わせることのほか、自身の身の回りの世話をさせるというような負担を負わせることもできます。 (2) 負担付贈与を行った場合の受贈者の課税関係 個人から負担付贈与により財産を取得した場合、贈与財産の価額から負担額を控除した価額に贈与税が課されます。 ここでいう贈与財産の価額とは、不動産以外の贈与財産については、財産の相続税評価額から負担額を控除した価額をいいます。これに対し、土地や借地権、家屋や構築物などの不動産については、贈与時の通常の取引価額に相当する金額から負担額を控除した価額をいいます(「負担付贈与通達」)。通常の贈与(負担のない贈与)の場合には、課税標準は不動産の相続税評価額となるところ、負担付きとしたために、かえって課税標準が高くなるおそれがあり、注意が必要です。 (3) 負担付贈与を行った場合の贈与者の課税関係 贈与者は、贈与した側なので贈与税は課税されませんが、負担付贈与によって贈与者に経済的利益が生ずる場合には、その経済的利益を収入金額とする譲渡所得が課税されます(所法33.36①)。受贈者に負わせる負担が借入金の場合、贈与者は借入金の返済を免れるので、借入金相当額が譲渡収入となります。 そして、この譲渡収入が取得費及び譲渡費用の合計額を上回る場合には、所得税の譲渡所得の課税対象となります。また、負担額 (債務の額)がその資産の贈与時における時価の2分の1未満であり、かつ、その資産の取得費及び譲渡費用の額の合計額に満たない場合には、その不足額 (譲渡損失)はなかったものとみなされます (所法59,所令169)。 (4) 受贈者が負担付贈与によって取得した資産を売却する際の取得費等 受贈者が、通常の贈与によって取得した不動産を売却した場合は、贈与者がその不動産を購入した際の購入代金や購入の際の手数料などの取得費用を引き継ぎ、その金額に基づき計算します(所法60①一)。また、贈与によって取得した資産の取得時期についても、贈与者の取得時期を受贈者に引き継ぎます(措令20③)。したがって、受贈者が贈与によって取得した資産を売却する際には、贈与者の取得時期に基づく所有期間により長期譲渡所得に該当するか短期譲渡所得に該当するか判断することとなります。 この所得税法60条1項1号にいう「贈与」には、贈与者に経済的利益を生ずる負担付贈与が含まれないと解されています。このため、経済的利益の生ずる負担付贈与では、受贈者は、その負担額 (債務の額)によってその資産を取得することとなり、受贈時が取得の時期になります10。 ところが、さらに、上記(3)の負担額 (債務の額)がその資産の贈与時における時価の2分の1未満である場合には、贈与者の取得費及び取得時期を引き継ぐこととなります(所法60①二)ので、この点に注意が必要です。 (5) 負担付贈与とならない敷金 賃貸不動産の所有者が賃借人に対して敷金返還義務を負っている状態で、この賃貸不動産を贈与した場合には、法形式上は、負担付贈与に該当しますが、この敷金返還義務に相当する現金の引継ぎを同時に行っている場合には、一般的にこの敷金返還債務を承継させる意図が贈与者・受贈者間においてなく、実質的に負担付贈与に当たらないとされています。この場合、贈与者から引継ぎを受けた敷金相当額については、贈与税の課税対象となりません。 (6) 本事例における受贈者の贈与税の計算 本事例では、マンションの時価相当額2,500万円から借入金相当額1,800万円を控除し、さらに暦年課税贈与の基礎控除額110万円を控除し、基礎控除後の 課税価格に贈与税の税率を乗じて税額計算をします。 相続税評価額が2,000万円であっても、時価相当額2,500万円を評価額とするところに注意が必要です。 【計算例】 (2,500万円-1,800万円-110万円)×20%-30万円=88万円 ※特例税率12に基づき計算 (7) 本事例における贈与者の譲渡所得の計算 本事例では、借入金相当額1,800万円から取得費1,500万円を控除して譲渡所得を計算します。そして、他の所得と合計せずに分離して税額を計算することとなり、税率は譲渡年の1月1日における所有期間が5年を超える不動産の場合,所得税15.315%(復興特別所得税を含みます。)及び住民税5%,5年未満の場合、それぞれ30.63%及び9%となります。 時価2,500万円のマンションを借入金相当額である1,800万円で低額譲渡した形となりますが、税務上は、借入金相当額を譲渡の対価として考え、対価を超える部分 (2,500万円-1,800万円=700万円)を贈与と考えます(上記(6)参照)。 【計算例】 (1,800万円-1,500万円) ×20.315%=609,450円 ※所有期間を5年超として計算

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生命保険金等のみなし贈与

公開:2025/12/12

Q:保険会社から毎年100万円が私の口座に振り込まれてきます。母が私を受取人とする生命保険に加入したそうです。 A :保険料を負担していない人が生命保険契約の満期金や解約返戻金を受け取った場合、保険料負担者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税の課税対象となります(相法5)。 解説 (1) 相続税法上のみなし贈与 みなし贈与とは、民法上の贈与には当たりませんが、実質的に経済的利益を享受したのと同様な場合に税負担の公平を図るため税法上課税するというもので、保険料を負担していない人が生命保険契約の満期金や解約返戻金,死亡保険金を受け取った場合、保険料負担者からの贈与があったものとみなされ、贈与税が課税されます。 なお、生命保険契約において保険金が支払われる場合は、保険契約者,保険料負担者,被保険者及び保険金受取人の違いによって課税関係が異なります。 (2) 生命保険の保険金に贈与税がかかる場合 ① 死亡保険金を受け取ったとき 生命保険の死亡保険金を受け取った場合、受取人には相続税、所得税及び贈与税のいずれかが課税されます。死亡保険金に贈与税が課税されるのは、被保険者,契約者(保険料負担者) 及び受取人がそれぞれ異なるときです。被保険者が死亡したという事由により契約者から受取人に死亡保険金という財産が移転したと考え、贈与があったものとみなされて、贈与税が課税されます。 ② 満期保険金や解約返戻金を受け取ったとき 親が子を受取人とする保険に加入し、保険料を支払い、満期時あるいは解約時に保険金が子に支払われるとき、相続が発生していませんので相続税は課税されませんが、親が支払った保険料により子供が保険金という利益を受けます。このとき、親子の間に「あげます」、「もらいます」の意思表示がなくても、子が利益を贈与により受けたものとみなされ、贈与税が課税されます。 ③ 生存給付金を受け取ったとき 親が契約者兼被保険者となり、生存給付金が子に支払われるときも、相続が発生していませんので相続税は課税されませんが、子が親から利益を贈与により受けたものとみなされ、贈与税が課税されます。 (3) 贈与税の計算 みなし贈与の対象となる保険金を受け取った場合、受け取った保険金が暦年課税贈与の基礎控除額110万円以下であれば、贈与税は非課税となりますので、申告の義務はありません。 なお、保険金を受け取った年にその保険金以外に贈与により取得した財産がある場合は、その財産を合算した金額から基礎控除額110万円を控除した額が贈与税の課税対象となります。 (4) みなし贈与の対象とならない医療保険等 上記(2)のとおり、保険金の受取人が保険料の負担をしていなかった場合には、保険金の受取人は保険料の負担者から保険金を贈与によって取得したものとみなされ贈与税の課税対象とされますが、医療保険契約や傷害保険契約に基づき、被保険者の傷害、疾病その他これらに類する保険事故で死亡を伴わない事故によって支払を受ける保険金は、みなし贈与の対象となりません (相法5①)。 なお、これらの保険金は所得税の医療費控除の計算において、医療費を補填する保険金として支払った医療費から差し引きます。ただし、死亡したこと、重度障害の状態になったこと、療養のため労務に服することができなくなったことなどに基因して支払を受ける保険金、損害賠償金等は医療費を補填する保険金には当たりません (所基通73-9)。 (5) 本事例の課税関係 本事例の生命保険契約は、相談者の母を契約者(保険料負担者),相談者を受取人とする生存給付金付きの生命保険契約です。契約期間中、一定の時期に生存給付金受取人に一定額が振り込まれた場合は、振込のあった時が贈与のあった時となります。 本事例では、生命保険契約に基づく振込額が100万円ですから、その振込以外の贈与がなければ、暦年課税贈与の基礎控除額110万円以下であるため、贈与税の申告は必要ありません。

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債務免除とみなし贈与

公開:2025/12/12

Q: 私は事業資金として、伯母さんから2,400万円を借り入れ、月々20万円を返済する契約に基づき、返済を続けてきましたが、このほど残額を帳消しにしてもよいとの連絡を受けました。私が返済したのは月々8万円で、5年が経過したところです。贈与税等の対象となるのでしょうか。 A: あなたが伯母様から債務免除を受けた場合には、あなたにとっては債務が消滅することから、経済的利益を得ることになります。この経済的利益については、債務免除のもととなる借入金の性質、債務者の資力の状態などを確認した上で、みなし贈与課税に該当するか、所得税の収入金額に計上すべきか、また、所得税の課税対象となる場合はどの所得区分に該当するのか検討します。 解説……… (1) 債務免除 債権者がその権利を放棄することで債務者の債務が免除されることを債務免除といい、民法519条は、「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。」と規定しています。 債務免除が行われた場合、債務者が債権者へ弁済すべき価額分の消滅又は減少の効果が生じ、結果的に債務者が利益を享受することになります。 (2) 個人が個人から債務免除を受けた場合 個人が対価を支払わず、又は著しく低い価額の対価で債務の免除、引受け又は第三者のためにする債務の弁済による利益を受けた場合には、その利益を受けた個人は、債務免除が行われた時にその債務免除に係る債務の金額を、その債務免除をした人から贈与により取得したものとみなされます (相法8)。 例えば、債務免除の有無について争われた事案において、訴外Aからの借入債務は弁済したもので、債務免除の事実はない旨の納税者の主張に対し、裁判所は、 ①納税者の供述等を裏付ける客観的な証拠は存在せず、弁済時の供述は不自然かつ不合理であること、②弁済時期についての供述等の変遷があり、その理由は信用できないことから、弁済の事実はなく、本件債権放棄通知書によって、本件債務は、免除されたものと認めるのが相当であるとして、贈与税の決定処分は適法と判断しました13。 なお、債務免除が行われる状況は得てして債務者が既に債務超過の状態に陥り、今後も返済の見込みがない場合がほとんどです。このため、債務者が資力を喪失して債務を弁済することが困難である場合において、債務免除があったとき、又は、その債務者の扶養義務者によってその債務の引受け又は弁済がなされたときは、贈与により取得したものとみなされないこととされています(相法8但書)。 (3) 個人が法人から債務免除を受けた場合 個人が法人からの債務免除によって受けた経済的利益は、法人からの贈与により取得したものとみなされ贈与税の課税対象になるとも考えられますが、贈与税は相続税の補完税であるとの趣旨から、納税義務者である受贈者は原則として個人に限られます。また、「法人からの贈与により取得した財産」の価額は贈与税の課税価格に算入しない (相法21の3①一) と規定されています。 法人からの贈与により取得した財産は贈与税の課税価格に算入されないことから、債務免除を受けたことによる債務者の経済的利益は、所得税の課税対象となります。なお、法人からの贈与により取得する金品 (業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものを除きます。)は、一時所得に該当します(所基通34-1(5))。 また、債務免除を受けた個人が資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合は、その債務免除により受ける経済的な利益の価額については、各種所得の金額の計算上、総収入金額に算入しないこととされています(所法44の21)。 (4) 法人が個人から債務免除を受けた場合 法人は相続税の課税原因は発生しないことから、相続税の補完税としての贈与税が課税されることはありません。 会社役員(個人)が同族会社の経営状況に応じて金銭の貸付けを行い、結果的に貸付金を放棄する事例が多々見られます。このように法人が個人から債務免除を受けても贈与税の課税対象とはなりませんが、債務免除益に対しては法人税が課税されます。さらに、この貸付金の放棄によりこの同族会社の株式の評価額は値上がりし、その値上がりによってこの会社の株主が取得する経済的利益は贈与と同様の実質を有することから、貸付金を放棄した個人から株主に対し贈与があったとみなされます(相基通9-2(3))。 (5) 所得税の課税対象とされる債務免除益 所得税法では、買掛金その他債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額は、その年分の各種所得の金額の計算上、収入金額に計上されます(所法36①,所基通36-15(5))。 また、法人からの贈与により取得する金品のうち、業務に関して受けるもの及び継続的に受けるものについては、一時所得から除かれています(所基通34-1(5))。 この点、納税者(原告)が、農協から受けた借入金の債務免除益の全額を一時所得として確定申告したところ、農地の取得や農業用機械の購入に充てられた部分は事業所得、賃貸用不動産の取得に充てられた部分は不動産所得、それ以外は一時所得として更正処分を受けた事案 (課税庁はその後理由を差し替えて、一時所得に当たるとしたものは雑所得であると主張)において、納税者は、農地の取得は当初から農地転用等をして売却をする目的で、農業の用に供するためのものではなかったし、借入金の債務免除は農協が合併に向けて不良債権を処理する必要があり、借入金の一部を弁済するとともに残額を放棄するという偶発的な合意をしたのだから、一時的かつ偶発的な所得であり、一時所得であると主張しました。 裁判所は、不動産所得や事業所得には副収入や経済的な利益の付随収入等も含まれるから、借入金の目的に応じて不動産所得と事業所得に区分され、どちらにも該当しない部分は非継続要件と非対価要件を満たさないものとはいえ ないから、一時所得に該当すると判断しました。 (6) 本事例の課税関係 月々返済した8万円について、元本の返済であるのか利息の支払であるのか確認し、残債額を明らかにします。そして、元本の返済であると確認できた場合、月20万円から返済した8万円を差し引いた残金12万円について、債務として残っているのか、既に免除されていたのか確認します。 (5年後の残債) ① 債務として残っている場合:1,920万円 (2,400万円 8万円×12月×5年) ② 債務として残っていない場合:1,200万円(2,400万円 20万円×12月×5年) 次に、相談者が伯母から借り入れた事業資金について、所得税の事業所得の収入金額に計上すべきか否か、事業の取引上生じた買掛金その他の債務の免除を受けた場合に該当する事情があるか検討します。また、債務免除の連絡を受けた際に資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合に該当するか検討します。その結果、これらの事情が認められない場合には、みなし贈与課税の対象となると思料します。

Q&A 弁護士のための相続税務70

遺言の内容と異なる遺産分割

公開:2025/12/12

Q: 父が亡くなりました。父は、私(長男)に実家の土地建物を相続させる旨の遺言をしました。ところが、実家の土地建物には弟が住んでいて、今後も弟が実家に住む予定であるため、弟に実家の土地建物を取得させて。私は金融資産を多く取得したいと思います。 A: 遺言がある場合には、遺言は被相続人の死亡により直ちに効力を生じます。 このため、遺言どおりの遺産分割ないし遺贈の効果が発生しますが、相続人全員の合意があれば、遺言によらない遺産分割を行うことが可能です。 解説 (1) 相続人間の合意があれば遺言と異なる遺産分割協議は可能 遺言は、遺言者の死亡と同時にその効力を発生させ、特定遺贈についても特定財産承継遺言についても、直ちに受遺者・相続人にその財産が帰属すると解されています。 しかし、一般に、相続人間の合意があれば遺言と異なる遺産分割協議ができると解されています。ただし、遺言執行者(後記35参照)が指定されている場合には、後述のとおり、遺言執行者の同意が必要であり、遺言執行者は実質的に遺言者の意思に反するか否かを考慮して遺言と異なる遺産分割に同意するか否かを決するべきであると考えられています。 (2) 特定財産承継遺言の利益の放棄の可否 第7章遺言 遺言が特定遺贈である場合については、受遺者が遺贈を放棄し(民法986),遺贈の対象から外れて未分割の遺産となるため遺産分割協議の対象となると解することができます。 ところが、特定財産承継遺言については、令和2年民法改正の際の立法担当者は「遺言の利益」を放棄できないとの解釈を採用したと考えられます (このため、配偶者居住権の設定方法から特定財産承継遺言は除かれました。もっとも、特定財産承継遺言の利益の放棄の可否については、学説上は争いがあります。東京地裁平成31年4月25日判決は遺言の利益の放棄を認めています。)。 この立場からすると、特定財産承継遺言が行われている場合には、相続人の意思で遺言の利益を放棄することはできないことになり、遺言と異なる遺産分割ができる理論的根拠は必ずしも明瞭ではありません。 もちろん、遺言どおりの法的効果が発生した上で、遺産分割の名目の下で、私法的に財産を交換・贈与したものと解することは可能です(東京地裁平成13年6月28日判決は、遺言執行者を無視して遺産分割協議をした事案ですが、そのような立場に立つようです。)。 しかし、そのように解した場合には、税法上の問題が生じるおそれがあります。もっとも、税務当局は、特定遺贈を前提にした解釈のように思われますが、遺言の内容と異なる遺産分割について、贈与税が課されることはないとの立場を公表しています。 (3) 第三者に対する特定遺贈が行われている場合 遺言により第三者に特定遺贈が行われている場合には、相続人のみの合意では第三者に対する遺贈部分を含めて遺言と異なる遺産分割協議をすることはできないと考えられます。さらに、受遺者たる第三者と相続人全員が合意したとしても、受遺者たる第三者が遺贈を放棄したことを前提として遺言と異なる遺産分割協議をするならば、第三者は財産を取得できない(遺贈を放棄し、かつ、相続人ではない以上 遺産分割協議で財産を取得するべき理由がない。)と考えられます。 仮に第三者が財産を取得した場合には、相続人から贈与を受けた、又は、遺贈を受けた財産と交換した等の遺産分割以外の法律構成が必要になると考えられます。

Q&A 弁護士のための相続税務70

遺言執行者

公開:2025/12/12

Q:父の亡き後、私に自宅の土地建物とA銀行の預金を相続させ、弟にB銀行の預金を相続させる旨の公正証書遺言があることがわかりました。遺言執行者にはC信託銀行が指定されていました。 A: 遺言執行者が指定され、就任を承諾した場合、遺言内容は遺言執行者によって実現されます。ただし、遺言の内容どおりであれば、その利益を受ける相続人が自ら名義を書き換えることも可能です。 解説 (1) 遺言執行者 遺言で遺言執行者が指定されている場合(民法1006①), 指定された者が就任するか否かを決定します。 遺言執行者(に指定された者)が就任を承諾した場合には、直ちに任務を開始し(民法1007①), 遅滞なく遺言の内容を相続人に通知します(民法1007②)。 逆に、就任を承諾しなかった場合には、遺言執行者がいないことになりますので、利害関係人は家庭裁判所に選任を求めることができます(民法1010)。 なお、遺言執行者がいない場合にも、特に必要がある場合を除き、あえて選任を求める必要はありません。 遺言執行者は、遺言の内容を実現する権利義務を有し(民法1012①), 遅滞なく、相続財産の目録を作成し、これを相続人に交付し (民法1011①)、その後、名義書換などの遺言内容の実現行為を行います。遺言執行者は、相続人との関係で、委任契約における受任者に準じた義務(善管注意義務,報告義務,受取物の引渡義務等)を負担します(民法10123, 644,645~647)。 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為を行うことができず、そのような行為を行っても無効となります(民法1013①②)。 遺言執行者は、遺言で定めた報酬又は裁判所が定めた報酬を受け取ることができ(民法1018①), 執行に要する費用は相続財産の負担となります(民法1021)。 任務懈怠などの正当な事由がある場合には、利害関係人は裁判所に遺言執行者の解任を請求することができます(民法1019①)。 以上によれば、ご質問のように不動産、金融機関の預金について、相続させる旨の遺言がある場合には、その名義書換は遺言執行者によって行われることになります。ただし、遺言の内容どおりであれば、その利益を受ける相続人が自ら名義を書き換えることも可能です(民法1014②③参照)。 (2) 換価遺言が行われた場合 遺言によっては、遺言執行者が遺産を換価して、相続債務を弁済し現金を相続人や受遺者に配分するべきことを定めている場合があります。 この場合、①相続債務を負担したのは誰なのか、②遺産を換価することにより譲渡所得が発生した場合、その譲渡所得税を負担するのは誰なのかといった問題が発生します。 これらは、いずれも遺言の解釈により、私法上の法律関係を整理するほかないものと考えられます。 例えば、①については、相続人が法定相続分に従って相続債務を負担した上、換価代金から債務相当額を受領して弁済したという法律構成も考えられますし、包括遺贈ないし負担付遺贈により受遺者が債務を負担 (弁済) したという法律構成など、いずれの解釈の余地もあり得ます。 また、②については、(イ)遺産は相続人全員に共有されているため、その税金は相続人が法定相続分に従って負担すると解するのが素直な解釈であると考えられます。他方で、(ロ)遺言者が、換価前の財産について、換価代金の配分を受ける相続人や受遺者にその配分割合に従って共有させた上で、遺言執行者に換価させたもの(その上で配分割合に従って代金を配分させたもの)と解される場合には、配分割合に従った共有持分を相続人や受遺者が取得した上で換価したものですから、譲渡所得税はその割合に従って配分を受ける相続人や受遺者が負担することになります。このように、遺言の解釈によって結論が異なり得ると考えられます。 さらに、そもそも、換価代金の分配に与らない相続人がいる場合 (換価代金は別の相続人や受遺者に配分することが遺言で定められている場合)に、その相続人が換価前には法定相続分に従って共有していることを理由に譲渡所得税を負担することについては不合理であり、実質所得者課税の原則(所法12)に照らしても上記の結論は採用できないとして、常に(ロ)のように解すべきという考え方もあるようです。 (3) 遺言の内容と異なる遺産分割 遺言がある場合にも、全相続人の合意により遺言と異なる遺産分割ができると解されています(前記34参照)が、遺言執行者がある場合には、遺言の執行の妨害行為の禁止 (民法1013) との関係が問題となります。 遺言と異なる内容の遺産分割を行うと、遺言の内容を実現する遺言執行者の義務と衝突するため、遺言の執行を妨げる行為に当たり得るからです。遺言と異なる遺産分割を行う場合には、遺言執行者の同意を得ることが必要であるといわれており、遺言執行者は遺言者の生前の意向を斟酌しつつ、同意を行うか否かを決定すべきものといわれています。 もっとも、遺言執行者の同意を得ないまま、遺言と異なる遺産分割を行った場合の効果については、少なくとも私法上は贈与・交換の組み合わせとして有効であるものと解した裁判例があります。ただし、このような解釈に立った場合の課税関係については、交換については譲渡所得、贈与については贈与税が発生すると解することが可能になり得ますが、実際に課税された事例があるか否かは明らかではありません。

Q&A 弁護士のための相続税務70

遺言の検認

公開:2025/12/12

Q: 父は、自筆証書遺言を残しました。私にすべての遺産を相続させるというものですが、弟は、遺言書を作成した当時、父は認知症であったので、遺言は無効と主張しています。家庭裁判所で検認を受けることができましたので、弟の主張には理由がないと考えてよろしいでしょうか。 A :遺言書の検認は、遺言書の現在の状態を確認して記録に残すものであって、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。 解説 (1) 遺言書の検認 遺言については、公正証書遺言及び自筆証書遺言書保管制度を利用した場合(民法1004②,法務局における遺言書の保管等に関する法律11)を除き、家庭裁判所の検認の請求をしなければなりません(民法1004①)。遺言書が封印されている場合には、その開封も検認手続の中で行われます(同③)。なお、検認の手続を怠った場合には、過料に処する旨規定されています(民法1005)。 遺言書の検認手続は、具体的には、家庭裁判所に申し立てると、相続人に検認期日が連絡され、その期日において、出席した相続人又はその代理人の前で、裁判官が遺言書を開封して確認し、出席者に被相続人の筆跡と一致するか否かの一応の意見を求めて、遺言書の状況とともに記録に残すという方法により行われます。なお、申立人(ないしその代理人)は検認期日に出頭しなければなりませんが、他の相続人は欠席しても構いません。 検認終了後,「検認済証明書」を申請して、証明書付きの遺言書を受け取れば手続は完了です。通常、検認済証明書がないと、金融機関などで名義書換を行うことや不動産についての相続登記を行うことができません。 家庭裁判所に検認を申し立ててから、手続が終了するまでは、通常は1か月程度かかります。ただし、裁判所が混雑する時期には2か月以上かかる場合もあります。 (2) 検認を行う際の注意点 自筆証書遺言を保管、発見した場合には、検認を受ける必要がありますが、検認は遺言書の現在の状況 (形状や加除訂正の状態、日付、署名など)を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続であって、遺言の有効・無効を判断するものではありません。したがって、遺言の有効・無効については、無効確認訴訟等により、その効力について確定することになります。 大審院大正4年1月16日は、「遺言書ノ検認ハ・・・・・・遺言書ノ状態ヲ確証シ後日ニ於ケル偽造若クハ変造ヲ予防シ其保存ヲ確実ナラシムル目的二出ルモノナルヲ以テ検認ノ実質ハ遺言書ノ形式態様等専ラ遺言ノ方式ニ関スル一切ノ事実ヲ調査シテ遺言書其者ノ状態ヲ確定シ其現状ヲ明確ニスルニ在リテ遺言ノ内容ノ真否其効力ノ有無等遺言書ノ実体上ノ効果ヲ判断スルモノニアラス」と判示しています。 (3) 課税上の留意点 遺言としての有効・無効は、家庭裁判所の検認を受けるか否かでは定まりません。また、検認を受けずに遺言を開封したとしても、これにより遺言が無効になるわけではありません。 したがって、遺言書がある場合には、遺言が無効であるとの前提に立つ場合を除き、検認を受けていない場合であっても、遺言書に基づく相続税の申告を行う必要があります。

Q&A 弁護士のための相続税務70

特定遺贈と包括遺贈

公開:2025/12/12

Q:父が亡くなり、公正証書遺言を開封したところ、内縁の妻に5,000万円、長男の私に2,000万円と不動産のほか残りの財産を相続させる旨の内容でした。葬式費用200万円は内縁の妻が負担しました。内縁の妻にも財産を相続させないといけないでしょうか。 A: 内縁の奥様はあなたと同様に相続税の申告と納税が必要ですが、その計算上葬式費用は債務控除の対象とはなりません。また、内縁の奥様は相続税額の2割加算が適用されます。公正証書遺言における内縁の奥様に対する特定遺贈は有効と思われます。なお、法定相続人があなた1人である場合、「不動産のほか残りの財産」の時価が3,000万円未満であるときは遺留分侵害額請求の検討が可能と思料します。 解説 被相続人(遺言者)が、遺言により、自己の意思に沿って遺産を承継させる方法としては、大きく分けて、遺贈と特定財産承継遺言 (いわゆる「相続させる」旨の遺言)があります。 さらに、遺贈は特定遺贈と包括遺贈に分かれます(民法964)。遺贈により財産を受ける受遺者は、相続人に限らず第三者でも差し支えありません。 また、遺言者は遺産分割の方法を定めることができる(民法908①) とされており、この遺産分割方法の指定として、遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言のことを、特定財産承継遺言といいます(民法1014②)。 遺言により特定の財産を承継させるという意味で、特定遺贈と特定財産承継遺言は機能が類似しますが、特定遺贈の受遺者は相続人でも第三者でもあり得るのに対し、特定財産承継遺言は遺産分割方法の指定であるため、財産を承継する主体は相続人でなければなりません。 もっとも、相続人以外に対して「相続させる」旨の遺言がされた場合には、多くの場合は遺言者の真意は遺贈であったと解して、遺贈としての効力を認めることになるものと考えられます。 (1) 特定遺贈 特定遺贈は、遺言により目的物を特定して財産を受遺者(「特定受遺者」といいます。)に承継させるものです。特定受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも遺贈を放棄することができます(民法986①)。遺贈が放棄された場合、その効果は最初からなかったものとされることから、遺贈の対象であった財産については、共同相続人の遺産分割協議により帰属者を定めることになります(民法995)。 相続税の申告後において、遺贈の放棄があり、受遺者がこれを理由として更正の請求を行った場合、遺贈の放棄によって利益を受けた共同相続人に対しては、その更正の請求のあった日から1年間について、更正又は決定処分ができることとされています(相法35③)。なお、特定受遺者は遺言により特定された財産を取得することができますが、それ以外の財産については取得することができません。また、借入などの債務については、遺言で負担として指定されない限り、負担することはありません。 不動産の特定遺贈の場合には、受遺者と相続人すべて (登記義務者)の共同申請により登記を行うことが原則です(不動産登記法60)が、受遺者が相続人である場合には、受遺者が単独で登記を申請することができるとされています(同法63③)。 (2) 包括遺贈 包括遺贈は、遺言により債務も含めて包括的に遺産の遺贈を行うものです(民法964)。遺産の全部を包括遺贈することもできますし(「全部包括遺贈」といいます。),一定割合(例えば、遺産の3分の1)として包括遺贈することもできます(「割合的包括遺贈」といいます。)。 このため、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するものとされています(民法990)。包括受遺者が遺贈による権利義務の承継を阻止するためには、相続人と同様に、熟慮期間中の相続放棄の手続が必要となります。 割合的包括遺贈の場合には、受遺者は相続人と同様に、他の相続人と協議して遺産分割の内容を定める必要があります(協議がまとまらない場合には調停・審判となることも同様です。)。 受遺者が第三者である場合には、包括遺贈はいわば相続人を増やすに等しい効果があります。受遺者が相続人である場合には、相続分の指定なのか、包括遺贈なのかはっきりしなかったり、また、債務の負担がある場合にも、包括遺贈とは限らず負担付特定遺贈である可能性もあるなど、必ずしも明瞭ではない場合も考えられますが、最終的には、遺言者の意思=真意の解釈によるものと考えられます。 なお、相続や包括遺贈では不動産取得税は「非課税」となりますが、相続人以外の第三者への特定遺贈は不動産取得税として不動産評価額に対し一定の税率が課税されます。この不動産評価額とは固定資産税評価額のことで、税率は「3%」(土地や住宅用の建物) 又は 「4%」(店舗や事務所)となります。 (3) 特定財産承継遺言 特定財産承継遺言が行われた場合には、遺言者の死亡により、その相続人が当然にその財産を取得し、遺産分割協議を経ることなく、取得者は単独で不動産の登記や預金の払戻しを行うことができます。 特定財産承継遺言では不動産の登記について取得者が単独で申請できる(不動産登記法63②) 点で、特定遺贈と異なるとされてきましたが、上記(1)のように受遺者が相続人である場合には受遺者が単独で登記申請できることになったため、その差は狭まりました。 (4) 内縁とは 内縁とは、事実上の婚姻ではあるものの、婚姻届を欠く場合をいい、法律上の婚姻とは認められません。 法律婚と内縁の違いの一つは、内縁の場合には、お互いがお互いを相続しないということです。このため、内縁の配偶者に遺産を残すためには、遺贈(包括遺贈又は特定遺贈) によることになりますが、以下の点に注意が必要です。 ① 相続税の計算における基礎控除 遺贈も相続と同様に「人の死亡が起因」となるため、相続税が課税されます。相続税は、「課税遺産総額」から「基礎控除額」を差し引いた価額に対して課税され、この基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」により計算します。 受遺者は基礎控除額の計算における「法定相続人の数」には含まれません(なお、受遺者が法定相続人である場合には、受遺者としてはカウントされませんが、法定相続人としてはカウントされます。)。 また、受遺者が法定相続人以外の人である場合、相続税額の2割加算が適用されます。 ② 債務控除等 相続税法において債務を差し引くことができる人は、相続人及び包括受遺者(相続時精算課税の適用を受ける贈与により財産を取得した人を含みます。)に限られます。特定受遺者が債務を負担するのは負担付遺贈の場合と考えられ、このような場合は、その財産の価額から負担額を控除した価額を課税価格とします(相基通11の2-7)が、特定受遺者が葬式費用などの債務を負担しても相続税の計算上、債務控除を行うことはできません(相法13)。 ③ 登録免許税の税率 遺贈によって法定相続人以外の受贈者が不動産を取得した場合、相続登記の 際に課税される登録免許税の税率が高くなります。 相続の場合や遺贈を受けた人が法定相続人であれば、登録免許税の税率は「登記時点の固定資産税評価額の0.4%」ですが、遺贈を受けた人が法定相続人以外の人であれば、「登記時点の固定資産税評価額の2%」です。 (5) 本事例の課税関係 内縁の妻は民法上の相続人とはならないことから、相続税法上の法定相続人の数には含まれません。そのため、相続税の基礎控除額の計算における法定相続人の数に含まれないこと、配偶者に対する相続税額の軽減を受けられないことなど課税上の利益を受けることができません。遺言は「内縁の妻に5,000万円を相続させる」旨の内容ですが、内縁の妻への遺言は特定遺贈と解されます。 よって、内縁の妻の相続税の計算上、葬式費用を控除することはできません。 内縁の妻と相談者の関係にもよりますが、総体としての相続税額の負担を軽減させるなら、葬式費用の支払者を相談者とすることも選択肢の一つです。 (6) 本事例における遺留分侵害額の計算 法定相続人が相談者 (長男) 1人である場合の遺留分は法定相続分の2分の1となり、遺留分侵害額の計算は次のように行います。 【計算例】 ① その他の財産が3,000万円の場合 ・相談者の相続分 2,000万円+3,000万円=5,000万円・・・・・・イ ・相談者の遺留分額 (5,000万円 (内縁の妻の相続分) +イ) ×1/2=5,000万円……………… ・遺留分侵害額 ローイ = 0円 ② その他の財産が1,000万円の場合 ・相談者の相続分 2,000万円+1,000万円=3,000万円・・・・・・イ ・相談者の遺留分額 (5,000万円(内縁の妻の相続分) +イ) ×1/2=4,000万円………………口 ・遺留分侵害額 ローイ = 1,000万円

Q&A 弁護士のための相続税務70

配偶者に対する相続税額の軽減

公開:2025/12/12

Q: 配偶者は、遺産を取得してもほとんど相続税がかからない制度があると聞きました。 A: ご質問の制度は、「配偶者に対する相続税額の軽減」といいます。この制度は、被相続人の配偶者について一定額までは財産を取得しても相続税がかからないようにするための相続税の税額控除をその内容とします。 この特例は、未分割の財産に対して適用できないことから、申告期限までに遺産分割が行われない場合には、一定の手続を行うとともに、未分割の財産が分割された場合には、期限内に更正の請求の手続を行うことに注意を要します。 解説 (1) 相続税の計算の仕組み 相続税の計算は、大きく以下の四つの段階に分けて行います(後記24(1)①参照)。 ① 各相続人・受遺者ごとに取得した財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産や、相続時精算課税適用財産・暦年課税贈与の生前贈与加算を含みます。)や負担する債務・葬式費用を集計し、各人ごとの正味の財産(課税価格)を合計して、課税価格の合計額を計算します。 ② ①で計算した課税価格の合計額から基礎控除額を差し引いて、課税される遺産の総額を計算し、各相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものと仮定して求めた各相続人ごとの取得金額に税率を乗じて各相続人ごとの税額を計算します。 ③ ②で計算した各人の相続税額を合算して相続税の総額を計算し、各人ごとの正味の財産の比率に応じ、相続税の総額を配分します。また、財産を取得した者の中に被相続人の孫や兄弟姉妹など、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の人がいる場合には、相続税額の2割加算が行われます。これは、偶然性の高い財産の取得は、より担税力が高いこと等を鑑みた措置となっています。 ④ ③で配分された各人ごとの相続税額に対し、適用できる相続税の税額控除がある場合には適用します。税額控除は、二重課税の排除や各人ごとの担税力に応じた税負担額に調整することを目的としています。税額控除は、以下の順番に従い適用することが定められています。 ・贈与税額控除(暦年課税贈与) ・配偶者に対する相続税額の軽減 ・未成年者控除 ・障害者控除 ・相次相続控除 ・外国税額控除 ・贈与税額控除(相続時精算課税贈与) (2) 配偶者に対する相続税額の軽減 配偶者に対する相続税額の軽減とは、被相続人の配偶者が相続又は遺贈により取得した相続税を計算する上での正味の財産額が、次のいずれか多い金額までは、配偶者に相続税がかからないようにするための相続税の税額控除です ・1億6,000万円 ・配偶者の法定相続分相当額 (3) 配偶者に対する相続税額の軽減の注意点 ① 相続税の申告書の提出が必要 配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けるためには、相続税額がゼロとなる場合であっても、相続税の申告書の提出が必要となります。なお、申告書については、期限後に提出する申告書や従前に提出した相続税申告書の修正申告書等も含まれます (相法19の23)。 ② 二次相続の相続税額も考慮 前述のとおり、配偶者に対する相続税額の軽減を適用することにより相続税の納税額は減少します。しかし、税額軽減があるからと配偶者に多くの財産を取得させると、残された配偶者に二次相続が発生した場合に、配偶者固有の財産に相続等により取得した財産が上乗せされ、多額の相続税額が課されることもあります。相続税の納税が見込まれる場合、配偶者が相続等により取得する財産の額については、一次相続と二次相続を通して検討することが好ましいといえます。 ③ 未分割の財産がある場合 配偶者に対する相続税額の軽減は、配偶者が相続又は遺贈により取得することが確定した財産の額をもとに計算します。このため、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象となりません (相法19の2②)。 相続税に関する特例は、相続税の申告期限までに遺産分割の内容が確定していることを要件とするものが複数あります。相続税の申告期限までに遺産分割の内容が確定しない場合、各種特例の適用を受けることができず、一時的であっても多額の相続税の納税が必要となる場合もあり注意を要します。 ④ 未分割の場合に必要とされる手続 相続税の申告期限において財産が未分割の場合、一定の手続を経ることにより、財産の分割が行われた際に配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けることができます(手続については後記26(2)参照)。 ⑤ 未分割の財産が分割された場合の更正の請求の手続 未分割の財産が分割された場合には、更正の請求を行うことにより配偶者に対する相続税額の軽減を受けることができます。なお、その請求には、一定の期間が定められていることから、適用期限を徒過しないよう注意を要します (後記26(3)①参照)。

Q&A 弁護士のための相続税務70

未成年者控除・障害者控除

公開:2025/12/12

Q:未成年者や障害者は、相続税の計算上、一定の控除があると聞きました。 A:ご質問の控除は「未成年者控除」、「障害者控除」といいます。この制度は、未成年者については18歳に達するまでの年数×10万円を、障害者については85歳に達するまでの年数×10万円(特別障害者は20万円)を控除することとされています。 これらの控除は、配偶者に対する相続税額の軽減と異なり、財産が未分割であったとしても適用を受けることができます。 なお、未成年者自身又は障害者自身が財産を取得しない場合は、この控除を受けることができません。 解説 (1) 相続税の計算における控除する順番 未成年者控除及び障害者控除は、7種類ある相続税の税額控除のうち3番目と4番目に適用する税額控除となっています。相続税の計算における税額控除をする順番は、前記20 (1)④及び後記24(1)①を参照してください。 (2) 未成年者控除 ① 未成年者控除の概要 未成年者が相続又は遺贈により財産を取得した場合、その後の養育費等の負担を考慮し、相続開始時から18歳に達するまでの年数1年当たり10万円を相続税額から控除します (相法19の3)。 ② 適用要件 未成年者控除は、次の3点を適用要件とします。 ・相続又は遺贈により財産を取得した個人で、居住無制限納税義務者,非居住無制限納税義務者又は特定納税義務者(※1)であること。 ・民法第5編第2章の規定による相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。 ・相続開始時において18歳未満(令和4年3月31日以前は20歳未満)の人であること。 (※1) 居住無制限納税義務者・非居住無制限納税義務者については前記5 (1)を、特定納税義務者については後記23を参照。 ③ 控除額 次の算式により計算した額を、未成年者の相続税額から控除します。 未成年者控除額=10万円×〔18歳(※2) - 相続開始時の年齢(1歳未満切捨て)〕 (※2) 令和4年3月31日以前開始相続に係る未成年者控除額の計算においては20歳です。 ④ 未成年者控除の注意点 イ 未成年者自身が財産を取得する必要があること 未成年者控除の適用を受けるためには、未成年者自身が相続又は遺贈により財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産を含みます。)を取得する必要があります。 したがって、例えば遺言により未成年者が財産を一切取得しないような場合には、未成年者控除の適用を受けることはできません。 ロ 適用を受けるための相続税申告書の提出は不要 未成年者控除は、配偶者に対する相続税額の軽減とは異なり、その適用を受けるために相続税申告書を提出する必要はありません。このため、未成年者控除を適用した結果,相続人・受遺者全員の相続税額がゼロとなる場合には、相続税申告は不要です。 ハ未成年者自身の相続税額から控除しきれない場合 未成年者自身の相続税額から控除しきれない未成年者控除額がある場合(未成年者控除額>未成年者自身の相続税額の場合),未成年者の扶養義務者5の相続税額から、控除しきれない未成年者控除額を控除します。 二 未成年者が従前に未成年者控除を受けている場合 未成年者が、従前に他の相続で未成年者控除の適用を受けている場合,一定の未成年者控除額の調整計算を行います。 (3) 障害者控除 ① 障害者控除の概要 障害者控除は、被相続人の死後に残された障害者の生活の安定に資する見地から、相続開始時から85歳に達するまでの年数1年当たり、一般障害者については10万円を、特別障害者については20万円を相続税額から控除します(相法19の4)。 ② 適用要件 障害者控除は、次の3点を適用要件とします。 ・相続又は遺贈により財産を取得した個人で、居住無制限納税義務者又は特定納税義務者(※3)であること。 ・民法第5編第2章の規定による相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。 ・相続開始時において、85歳未満の障害者であること。 (※3) 居住無制限納税義務者については前記5 (1)を、特定納税義務者については後記23を参照。 ③ 控除額 イ 一般障害者の場合 障害者控除額=10万円×〔85歳-相続開始時の年齢(1歳未満切捨て)〕 ロ 特別障害者の場合 障害者控除額=20万円×〔85歳-相続開始時の年齢(1歳未満切捨て)〕 ④ 障害者の定義 イ 一般障害者の定義 (相基通19の4-1) ・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が2級又は3級である人 ・身体障害者手帳の障害等級が3級から6級までである人等 ロ 特別障害者の定義 (相基通19の4-2) ・精神障害者保健福祉手帳の障害等級が1級である人 ・身体障害者手帳の障害等級が2級以上の人 等 ⑤ 障害者控除の注意点 イ 障害者自身が財産を取得する必要があること 障害者控除の適用を受けるためには、障害者自身が相続又は遺贈により財産(みなし相続財産・みなし遺贈財産を含みます。)を取得する必要があります。 したがって、障害者自身が財産を一切取得しないような場合には、障害者控除の適用を受けることはできません。 ロ適用を受けるための相続税申告書の提出は不要 障害者控除は、配偶者に対する相続税額の軽減とは異なり、その適用を受けるために相続税申告書を提出する必要はありません。このため、障害者控除を適用した結果、相続人 受遺者全員の相続税額がゼロとなった場合には、相続税申告は不要となります。したがって、相続人の中に年少の障害者がいるような場合には、障害者控除によりそもそも相続税申告が不要となる場合があります。 ハ相続開始時に障害者手帳の交付を受けていない場合 相続開始時において精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていない人、身体障害者手帳の交付を受けていない人等であっても、相続税の期限内申告書を提出する時において、これらの手帳の交付を受けているか又はこれらの手帳の交付を申請中であり、かつ、一定の資格を有する医師の診断書により、相続開始の時の現況において明らかにこれらの手帳に記載される程度の障害があったと認められる場合には、相続税の障害者控除の適用を受けることができます(相基通19の4-3)。 二 障害者が未成年者である場合 障害者が18歳未満(令和4年3月31日以前開始相続においては20歳未満)である場合には、未成年者控除と障害者控除の重複適用が可能です。 ホ 障害者自身の相続税額から控除しきれない場合 障害者自身の相続税額から控除しきれない障害者控除額がある場合(障害者控除額>障害者自身の相続税額の場合)、障害者の扶養義務者の相続税額から、控除しきれない障害者控除額を控除します。 へ 障害者が従前に障害者控除を受けている場合 障害者が、従前に他の相続で障害者控除の適用を受けている場合、一定の障害者控除額の調整計算を行います。

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