換価分割
Q : 一人暮らしだった父が亡くなり居住用不動産を相続しました。相続 した居宅を売却し、その売却代金を兄弟2人で分割した上、納税資金に充 てたいと考えています。 A: 換価分割の対象となった不動産を売却した場合は、譲渡所得の課税の対 象となります。また、相続した不動産を売却するに当たり、「相続税の取得費 加算の特例」の適用を受ける場合、相続税の計算上,代償分割より換価分割の 方が有利となります。 解説 相続により取得した財産を譲渡し、相続人間でその代金を分配する場合、特 定の相続人がその財産の現物を取得し、その現物を取得した者が他の共同相続 人に対し債務を負担する「代償分割」のほか、共同相続人が相続により取得し た財産を売却して、その売却代金を分配する「換価分割」があります(家事事 件手続法194参照)。換価分割の対象となった不動産を売却した場合は、譲渡代 金の分配割合に応じて換価分割の対象となった不動産を取得したことになるた め、分配割合に応じて、譲渡所得の申告を要します。 (1) 相続登記と贈与税課税 相続した不動産を売却する都合上、まずはその不動産の名義を相続人名義に 登記しなければなりません。共同相続人のうち1人の名義に相続登記をした上 で換価し、その後、換価代金を分配することとした場合、贈与税が課税される か否かが問題となります。 この点、共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜的なものであり、その代金が、遺産分割協議の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはないとされています。 この場合、遺産分割協議書には、①対象不動産を売却しその譲渡代金を分割する旨、②譲渡代金につき相続人それぞれが取得する具体的な割合や代金が決められている旨、及び③売却する不動産について便宜的に共同相続人のうち1人の名義で相続登記を行う旨の記載を要します。 (2) 未分割の相続財産を換価したことによる譲渡所得の申告等 相続財産のうち分割が確定していない不動産を換価する場合もあります。この場合の譲渡所得の申告については、次のようになります。 ① 換価時に換価代金の取得割合が確定している場合 この場合には、(イ)換価代金を後日遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がないため相続人が各法定相続分に応じて換価代金を取得することとなる場合と、(ロ)あらかじめ換価時までに換価代金の取得割合を定めている(分割済)場合とがあります。 (イ)の場合は、各相続人が換価遺産に有する所有割合である法定相続分で換価したのですから、その譲渡所得は、所有割合 (=法定相続分)に応じて申告することになります。 (ロ)の場合は、換価代金の取得割合を定めることは、換価遺産の所有割合について換価代金の取得割合と同じ割合とすることを定めることにほかならず、各相続人は換価代金の取得割合と同じ所有割合で換価したのですから、その譲渡所得は、換価遺産の所有割合(=換価代金の取得割合)に応じて申告することになります。 ② 換価時に換価代金の取得割合が確定していないため後日分割される場合 遺産分割審判における換価分割の場合や換価代金を遺産分割の対象に含める合意をするなど特別の事情がある場合に、換価後に換価代金を分割したとしても、(イ)譲渡所得はその資産が所有者の手を離れて他に移転するのを機会にこれを清算して課税するものであり、その収入すべき時期は、資産の引渡しがあった日によるものとされていること、(ロ)相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し、その共有状態にある遺産を共同相続人が換価した事実がなくなるものではないこと、(ハ)遺産分割の対象は換価した遺産ではなく、換価により得た代金であることから、譲渡所得は換価時における換価遺産の所有割合(=法定相続分)により申告することになります。 ただし、所得税の確定申告期限までに換価代金が分割され、共同相続人の全員が換価代金の取得割合に基づき譲渡所得の申告をした場合には、その申告は認められます。 しかし、申告期限までに換価代金の分割が行われていない場合には、法定相続分により申告することとなりますが、法定相続分により申告した後にその換価代金が分割されたとしても、法定相続分による譲渡に異動が生じるものではないことから、更正の請求又は修正申告を行うことはできません。 (3) 具体的な計算例 兄弟それぞれ2分の1の割合で分割するとした計算例です。 ○相続財産の内訳 ・土地(相続税評価額1億円、換価の際の時価1億2,000万円,取得価額3,000万円) ・建物(相続税評価額200万円,換価の際の時価0円 取得価額不明) ・借入金(2,000万円) ・葬式費用(100万円) ・土地を売却するために支払った仲介手数料(330万円) ① 相続税の課税価格 兄及び弟は法定相続分により分割 兄(1億円+200万円-2,000万円-100万円)×1/2 弟(1億円+200万円-2,000万円-100万円)×1/2 ② 譲渡所得の計算 兄(1億2,000万円-3,000万円-330万円)×1/2-取得費加算額 弟(1億2,000万円-3,000万円-330万円)×1/2-取得費加算額 (4) 本事例の課税関係 まず、相続税の土地の評価において、一定の要件を満たす場合、小規模宅地等の特例(家なき子特例)を適用することができます。 なお、この場合、家なき子特例を適用するに当たっては、「相続開始時から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を有していること」との保有継続要件が課されていますので注意が必要です(前記19(3)③参照)。 次に、相続人が換価した居宅は、譲渡所得の基因となる資産に該当するため、譲渡益に対して所得税 (譲渡所得)が課税されます(所基通33-1)。本事例において、兄弟間の分割割合は不明ですが、仮に2分の1ずつの割合とすると所得税の計算は上記(3)のとおり、居宅の売却代金から取得費と仲介手数料などの譲渡費用を差し引いて計算します。この場合、相続人が相続によって取得した資産について譲渡所得を計算するときに控除する取得費は、被相続人の取得価額を引き継ぎます (所法60①)。なお、売却した土地建物が相当の年数を経るなど取得費がわからない場合は、売却代金の5%相当額を取得費とすることができます(措法31の4, 措通31の4-1)。 (5) 取得費加算の特例と代償分割 相続又は遺贈により取得した資産を相続の開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合には、負担した相続税額のうち譲渡した資産に対応する金額を譲渡資産の取得費に加算することができます(措法39) (後記57参照)。 なお、代償分割の方法により遺産分割が行われた場合において、その代償分割により代償債務を負担した相続人が代償金を支払って取得した相続財産を譲渡し、この特例の適用を受ける場合には、取得費に加算する相続税額は、次の計算式により、譲渡資産の相続税評価額を圧縮して計算されます (措通39-7)。そのため、換価分割において計算される取得費に加算する相続税額と比べ不利になるので注意を要します。 (6) 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例 相続又は遺贈により取得した被相続人の居住用家屋又は被相続人の居住用家屋の敷地等を売却し、一定の要件を満たす場合、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除(「空き家特例」)することができます(措法353) (後記58参照)が、上記の相続税額の取得費加算の特例と併用して適用できないことから、両者の特例のうち、いずれの特例を適用した方が有利になるのか判断します。 この点、空き家を相続したときは、一定の要件を満たす場合、家なき子特例の適用が可能であること、空き家特例の特別控除を適用すると、所得税の配偶者控除や扶養控除の判定の基礎となる合計所得金額の判定は空き家特例の特別控除前の金額であることなどの要素も踏まえて判断します。 これらの関係は次のようになります。
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相続財産の譲渡時の取得費加算
納税資金に不足が生じたため、父から相続した土地建物と上場株式を譲渡しました。 A: 土地建物及び上場株式を譲渡した場合には、他の所得金額と区分して税金を計算します。また、相続によって取得した土地建物及び上場株式の取得費については、被相続人の取得費及び取得時期を引き継ぐとともに、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算することができます。 解説 (1) 土地建物の譲渡所得の計算 土地や建物を売却したときの譲渡所得に対する税金は、事業所得や給与所得などの所得と分離して計算します(「申告分離課税」といいます。)(措法31,32,措令20)。また、譲渡所得の金額は、土地や建物を売却した金額から取得費と譲渡費用を差し引いて計算します(所法33)。 ① 取得費 取得費とは、売却した土地や建物の購入代金や、購入手数料などの資産の取得に要した金額に、その後支出した改良費、設備費を加えた合計額をいいます。建物の取得費は、所有期間中の減価償却費相当額を差し引いて計算します(所法38)。 また、土地や建物の取得費がわからない場合や実際の取得費が譲渡価額の5%よりも少ないときは、譲渡価額の5%を取得費(「概算取得費」といいます。)とすることができます(措法31の4、措通31の4-1)。 相続した土地建物を譲渡した場合は、先代が購入した実際の取得費を引き継ぐとともに、相続登記費用を加えることができます(所法60)。ただし、概算取得費を選択する場合は、相続登記費用を概算取得費に加えることはできません。 ② 譲渡費用 譲渡費用とは、土地建物を売却するために支出した費用をいい、仲介手数料,測量費,売買契約書の印紙代、売却するときに借家人などに支払った立退料、建物を取り壊して土地を売るときの取壊し費用などをいいます(所基通33-7)。 ③ 長期譲渡所得と短期譲渡所得 土地や建物を売却したときの譲渡所得は、所有期間によって長期譲渡所得と短期譲渡所得とに区分され,長期譲渡所得は税率15.315%(住民税5%),短期譲渡所得は税率30.63%(住民税9%)で課税されます。 長期譲渡所得とは、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年を超えるものをいい、短期譲渡所得とは、譲渡した年の1月1日において所有期間が5年以下のものをいいます。ここでいう「所有期間」とは、土地や建物の取得の日から引き続き所有していた期間をいい、相続により取得したものは、被相続人の取得した日から計算します。 (2) 株式等の譲渡所得の計算 株式等を売却したときの譲渡所得に対する税金は、「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に区分し、他の所得の金額と区分して税金を計算する「申告分離課税」とされ、両者は、それぞれ別々の申告分離課税とされているため、原則として、一方の譲渡損失の金額をもう一方の譲渡所得の金額から控除することはできません。 ① 上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算方法 (措法37の11) 上場株式等に係る譲渡所得等の金額 = 総収入金額(譲渡価額) - 必要経費 (取得費 + 委託手数料等) ② 一般株式等に係る譲渡所得等の金額の計算方法 (措法37の10) 一般株式等に係る譲渡所得等の金額 = 総収入金額(譲渡価額) - 必要経費 (取得費 +委託手数料等) (※) 総収入金額 (譲渡価額)には、償還、解約により交付を受ける金銭等の額を含みます。 (3) 相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得費加算の特例 相続税額の取得費加算の特例は、相続又は遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に適用することとされており、相続税額のうち一定金額が譲渡資産の取得費に加算されます(措法39)。 本特例は、譲渡所得のみに適用があるため、株式等の譲渡が事業所得及び雑所得に該当する場合は適用できません。 また、本特例は、譲渡した資産ごとに特例の適用前の譲渡所得の計算において、譲渡益 (売却利益)が生じている場合に限られ、土地建物の譲渡は取引ごと、株式の譲渡は株式の銘柄ごとに譲渡損益を計算し、その譲渡益の範囲内で特例適用額を計算します。 本特例の適用を受けるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。 ① 相続や遺贈により財産を取得した人であること。 ② その財産を取得した人に相続税が課税されていること。 ③ その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。 (4) 特例適用限度額の計算 土地建物は取引ごとに、株式は銘柄ごとに譲渡損益の計算を行い、その譲渡益が取得費加算の限度額となります。 ① 例1 譲渡価格(譲渡収入金額) 2,000万円 取得費及び譲渡費用の合計額 1,800万円 譲渡益 +200万円(=2,000万円-1,800万円) ⇒取得費に加算する相続税額は 譲渡益の200万円が限度です ② 例2 譲渡価格(譲渡収入金額) 2,000万円 取得費及び譲渡費用の合計額 2,500万円 譲渡損失 ▲500万円(=2,000万円-2,500万円) ⇒譲渡損失が生じているため 本特例は適用できません。
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空き家譲渡の特例
昨年、一人暮らしをしていた父が亡くなり、父の住んでいた居宅を 相続しました。現在この居宅は空き家となっており、今後住む予定がない ので売却しようと思っています。 A: 相続により取得したお父様の居宅を売却し、一定の要件に当てはまると きは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます。 解説 空き家特例は、次の趣旨から平成28年度税制改正により創設された制度です。 すなわち、周辺の生活環境に悪影響を及ぼし得る空き家の数は、毎年平均し て約6.4万戸のペースで増加していますが、そのうち約4分の3は昭和56年5 月31日以前の耐震基準(いわゆる「旧耐震基準」)の下で建築されており、ま た、旧耐震基準の家屋の約半数は耐震性がないものと推計されています。こう した空き家の発生を抑制することで、地域住民の生活環境への悪影響を未然に 防ぐことが課題となっています。 こうした状況を踏まえ、相続により生じた空き家であって旧耐震基準の下で 建築されたものに関し、相続人が必要な耐震改修又は除却を行った上で家屋又 は土地を売却した場合の譲渡所得について特別控除を導入することとされたも のです。 (1) 空き家特例の概要 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡し、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高 3,000万円まで控除することができます。 この特例のことをいわゆる「空き家特例」といいます。 (2) 空き家特例の対象となる家屋 空き家特例の対象となる家屋(以下「被相続人居住用家屋」といいます。) は、相続の開始の直前 (下記(3)参照)において被相続人の居住の用に供されて いた家屋で、次の要件のすべてを満たすものをいいます。 ① 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。 ② 区分所有建物登記がされている建物でないこと。 ③ 相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこ と。 (3) 被相続人が相続の開始直前に老人ホーム等に入所していた場合 令和元年度税制改正において、被相続人が相続の開始の直前に老人ホーム等 に入所していた場合であっても、次の趣旨から一定の要件の下で本特例を適用 できることとされています (措法35⑤,措令238 措通35-9の2)。 すなわち、本特例の対象となる被相続人居住用家屋は、相続開始の直前にお いて被相続人の居住の用に供されていることが要件とされています。しかし、 その人の身体上又は精神上の理由により介護を受ける必要があるため、老人 ホーム等に入所し自宅を離れることになる一方で、実際には、自宅を離れた後 も、一時的に元の自宅に戻り、又は元の自宅を家財置き場等として使用する場 合もあります。 こうした場合には、その人が老人ホーム等に入所しても一律に元の自宅から 生活の拠点を移転したとはいえず、元の自宅が空き家となったとは考えられな いことから、本特例を適用できることとされました。 (4) 空き家特例の対象となる敷地等 空き家特例の対象となる敷地等(以下「被相続人居住用家屋の敷地等」とい います。)とは、相続の開始の直前13において被相続人居住用家屋の敷地の用 に供されていた土地又はその土地の上に存する権利をいいます。 (5) 特例の適用を受けるための主な要件 ① 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋、又は被相続人居住用家 屋及び被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること(被相続人居住用家屋に ついて、譲渡の時から譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、耐震 基準を満たす必要があります。)。 ② 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋について、譲渡の時から 譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に全部の取壊し等をした後に被 相続人居住用家屋の敷地等を譲渡すること。 ③ 相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋を譲渡するか、被相続人 居住用家屋とともに被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡する場合で、相続の 時から譲渡の時まで事業の用 貸付けの用又は居住の用に供されていたこと がないこと。 ④ 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに 譲渡すること。 ⑤ 被相続人の居住の用に供していた部分の譲渡金額の総額(複数の者が共有 で取得し譲渡した場合や物件を分割して複数年で譲渡した場合は、それらす べての合計額)が1億円以下であること (措法357)。 なお、譲渡物件が共有や複数年等に分かれるケースでは、本特例を受けよ うとする相続人は、他の居住用家屋取得相続人に対し本特例を受ける旨の通 知をしなければなりません (措法35⑧)。そして、被相続人居住用家屋又は 被相続人居住用家屋の敷地等を譲渡した日から3年を経過する日の属する年 の12月31日までに残りの部分を自分や他の相続人が譲渡した結果、譲渡代金 の合計額が1億円を超えたときには、その譲渡の日から4か月以内に修正申 告書の提出と納税を行わなければなりません (措法35⑨)。 ⑥ 売却した家屋や敷地等について、相続財産を譲渡した場合の相続税額の取 得費加算の特例(措法39) や収用等の場合の特別控除など他の特例の適用を 受けていないこと(前記56(6)参照)。 ⑦ 同一の被相続人から相続又は遺贈により取得した被相続人居住用家屋又は 被相続人居住用家屋の敷地等について、この特例の適用を受けていないこと。 ⑧ 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないこと。 なお、「特別の関係」には、このほか生計を一にする親族、家屋を売却し た後その売却した家屋で同居する親族、内縁関係にある人、特殊な関係のあ る法人なども含まれます。 (6) 本事例における特例の適用の可否等 相談者が父親から相続により取得した土地及び建物について、一定の要件を満たす場合は、本特例の適用を受けることができます。 第11章 所得税課税 241 この場合、土地及び建物を相続又は遺贈で取得する必要があり、建物のみ、 又は土地のみの相続又は遺贈をしたときは本特例の適用はありません。 また、父親が要介護など一定の事由により老人ホームに入所していた場合に おいても、老人ホーム入所から譲渡までの間に、その居宅を貸付けや父親以外 の人の居住の用に供していないなどの要件14を満たすことにより、本特例の適 用を受けることができます。 (7) 改正空き家法の施行 改正空き家法15は、空き家の所有者に活用の意向がない、又は意向はあって も活用に向けた活動が行われていない空き家が放置され、防犯、防災,衛生面 等の観点から周辺環境に影響を与えることが懸念される状況を踏まえ、空き家 の①活用拡大、②管理の確保及び③特定空き家16等の除去等を3本柱に据えて 改正が行われ、令和5年12月13日に施行されました。 放置すれば特定空き家になるおそれのある空き家(管理不全空き家)に対し、 管理指針に則した措置をとり、市区町村長が指導・勧告を行い、勧告を受けた 管理不全空き家は、固定資産税の住宅用地特例 (6分の1等に減額)が解除さ れることとされています。
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国外転出(相続)時課税
父は、相続開始時点で1億円を超える有価証券を保有していました。 共同相続人のうち1名は国外に居住しています。 A: お父様が相続開始日時点において1億円以上の有価証券を保有しており、 非居住者である相続人がその有価証券の全部又は一部を取得した場合には、国 外転出(相続)時課税の適用があります。この場合、お父様が相続開始日時点 でその有価証券を譲渡したものとして、その非居住者である相続人は所得税の 準確定申告を行わなければなりません。 解説 (1) 国外転出(相続) 時課税とは 国外転出時課税とは、居住者が含み益の生じている有価証券等を保有したま ま出国し、キャピタルゲイン課税のない国で有価証券等を譲渡することで所得 税課税を逃れることを防止するための制度です(所法60の2)。 この制度は、相続により国内に居住する被相続人から国外に居住する相続人 へ有価証券等が移転した場合にも、適用されます(所法60の3)。 (2) 対象者 次のいずれにも該当する被相続人から、非居住者へ対象資産の移転があった 場合に、課税の対象となります。 ① 相続開始の時において、1億円以上の対象資産を所有していること。 ② 原則として相続開始日前10年以内において、国内に5年を超えて住所又は居 所を有していること。ただし、一定の在留資格をもって在留していた期間は含 みません。 なお、対象資産の価額の合計額が1億円以上となるか否かについては、非居 住者が取得する対象資産の価額のみでなく、被相続人が相続開始時に所有して いた対象資産の価額の合計額で判定することに注意が必要です。 (3) みなし譲渡所得課税の特例の適用対象となる対象資産の範囲 みなし譲渡所得課税の特例の適用対象となる「対象資産」は、有価証券等, 未決済信用取引等及び未決済デリバティブ取引で、以下のとおりです。 ① 有価証券等 みなし譲渡所得等の課税の特例の適用対象となる「有価証券等」とは、「有価証券」又は「匿名組合契約の出資の持分」をいいます(所法60の2①)。このうち、「有価証券」とは、金融商品取引法に規定する有価証券及び所得税法施行令に規定する有価証券に準ずるものをいい(所法2①十七,所令4),租税特別措置法上の「株式等」とは異なる点に注意が必要です。 ② 未決済信用取引等 みなし譲渡所得等の課税の特例の適用対象となる「未決済信用取引等」とは、国外転出の時において決済していない金融商品取引法に規定する信用取引又は発行日取引をいいます(所法60の2②)。 ③ 未決済デリバティブ取引 みなし譲渡所得等の課税の特例の適用対象となる「未決済デリバティブ取引」とは、国外転出の時において決済していない金融商品取引法に規定するデリバティブ取引をいいます(所法60の2③)。 (4) 所得税の準確定申告 国外転出(相続) 時課税の適用がある場合には、被相続人が相続開始時点で所有する有価証券等を譲渡したものとして、所得税の準確定申告を行う必要が あります。準確定申告の期限は、相続開始を知った日から4か月以内です(前 記54(1)参照)。 しかし、例えば遺言がある場合や、準確定申告の期限前に遺産分割協議が確 定した場合などで、非居住者がその対象資産を取得しないことが確定したとき には、国外転出 (相続) 時課税の適用はありません。準確定申告の期限までに 未分割であった場合には、非居住者も含め法定相続分で有価証券を取得したも のとして、準確定申告を行います。 なお、準確定申告において納付すべき所得税額は、被相続人の債務として、 相続税の計算上控除することができます。 (5) 納税猶予 みなし譲渡所得課税の特例の適用においては、未実現の含み益に対して課税 され、その含み益に見合う納税資金は実在しないことから、納税猶予の制度が 設けられています。 国外転出(相続) 時課税の申告期限までに、納税管理人の届出をするなど一 定の手続を行った場合には、本規定の適用により納付することとなった所得税 について、相続開始の日から5年4か月 (納税猶予期限の延長をしている場合 には10年4か月)を経過する日まで、納税を猶予することができます。ただし、 納税猶予期間中に対象資産を譲渡した場合や、猶予期間が満了した場合には、 猶予された所得税及び利子税を納付しなければなりません。 なお、猶予期間満了前に、納税を猶予されていた非居住者が日本に帰国した 場合には、国外転出(相続)時課税の適用がなかったものとして、課税の取消 しをすることができます。この場合、帰国の日から4か月以内に更正の請求を 行います(所法60の26 153の2①, 60の36. 153の3①)。
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プロベート手続での財産換価
プロベート手続の中での換価 日本の居住者が国外財産を相続する場合において、プロベート(前記 27(1)参照)の中で、その国外財産の換価が行われることがあります。 プロベートが完了するまでは、対象となる財産は遺産財団に帰属し、相 続人への分配は行われません。つまり、プロベートが必要とされる国にお いては、売却の当事者は遺産財団であり、プロベートの過程で、例えばそ の国に所在する不動産や金融機関に預け入れている有価証券を売却したと しても、その換価代金は遺産財団に帰属します。この点、日本にはプロ ベートや遺産財団という概念がなく、プロベートを通して換価された場合 であっても、日本の所得税の課税対象となります。 一般的に国外の不動産や有価証券は、取得時と比べ、値上がりしている ケースが多く、プロベートの過程でその国の財産が売却されたときは、相 続人の所得として多額の所得税が生じる可能性があります。このため、国 際相続が発生し、国外財産を換価した場合には、相続税だけでなく、所得 税の納税資金についても確保する必要があります。 所得税の納税義務 日本の所得税の納税義務者は大きく居住者と非居住者に区分されますが、 そのうち、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続き1年以 上国内に居所を有する個人をいいます(所法2①三)。居住者である場合 国内外すべての所得 (全世界所得) に対して、所得税の課税対象と なることから、国外の不動産の譲渡についても所得税の課税対象となりま す。 プロベート手続の中での売却のタイミング 所得税の申告と納税の期限は、換価した年の翌年3月15日ですから、例 えば、遺産財団が12月に換価したような場合には、所得税の申告期限まで の期間が短く、申告と納税の準備に十分な時間を確保することが難しくな ります。プロベートの過程で換価される場合には、売却のタイミングを相続人側でコントロールすることが難しいと思われますが、このような場合、 遺産財団に対し、あえて売却を翌年に繰り延べることを働きかけることに よって、所得税の確定申告時期を1年間先延ばしにすることも考慮します。 また、プロベートの過程で換価された国外財産は、相続により取得した 資産の譲渡に該当しますから、相続財産を譲渡した場合の相続税額の取得 費加算の特例(措法39)の適用可否についても、検討する必要があります。 外国税額控除(所得税) 日本では、相続人それぞれが取得する財産の割合に応じて所得税の納税 義務が生じますが、国によっては、遺産管理者等が遺産から生じる所得に 対応する所得税をまとめて申告納税しています。この場合でも、申告する 所得が同一であれば、遺産管理者名義で納めた所得税に対して相続人が外 国税額控除の適用を受けることができるものと思われます。 外国での所得課税については、源泉徴収される場合と申告納税する場合 の2通りがあります。源泉徴収される場合には、資産の売却金額から源泉 徴収して納税されるため、売却した年の譲渡所得の申告時に、外国税額控 除を適用して日本の所得税を計算することができます。一方、外国で申告 納税を行う場合には、売却した年と外国で納税する年とがずれるため、日 本の所得税の申告時期の関係上、外国税額控除を適用する年にずれが生じ ることがあります。 控除できる外国税額には限度額や制限があり、国際間での二重課税を完 全には調整できないケースも生じるため、注意を要します。
Q&A 弁護士のための相続税務70
暦年贈与加算の改正
母は高齢となり、私への贈与を考えているようです。最近の税制改 正では、相続税の計算に足し戻される生前贈与について改正が行われたと 聞きました。 A: あなたが、お母様から相続,遺贈によって財産を取得した場合, からその相続開始前7年以内に暦年課税贈与によって取得した財産があるとき は、あなたの相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与時の価額が加算され ます(以下「生前贈与加算」といいます。前記12(1)参照)。 解説 生前贈与加算は、生前の分割贈与による相続税負担の軽減を図ることを防止 するための措置として設けられています。 令和5年度税制改正では、資産移転(贈与による移転・相続による移転)の 時期の選択により中立的な税制を構築する観点から、次の改正が行われました。 (1) 加算対象期間の見直し 被相続人からその相続開始前7年以内(令和5年度税制改正前は3年以内) に受けた暦年課税贈与が、加算対象となります(相法19①)。なお、この加算 期間の延長には経過措置が設けられており、実際の加算期間は次のようになります(令5改正法附則19②③)。 相続開始日 加算対象となる贈与 令和6年1月1日~令和8年12月31日 相続開始前3年以内の贈与 令和9年1月1日~令和12年12月31日 令和6年1月1日~相続開始日までの贈与 令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内の贈与 (2) 加算される財産の価額の見直し 相続開始前7年以内(令和5年度改正前は3年以内)に被相続人から受けた 贈与については、総額100万円までの金額は相続税の課税価格に加算されない 措置が設けられました (相法19①)。 (3) 暦年課税贈与に当たっての留意事項 暦年課税贈与の生前贈与加算の対象となる人は、被相続人から相続又は遺贈 によって財産を取得した人です。したがって、被相続人の子の配偶者や代襲相 続人ではない孫など、被相続人から遺贈を受けていない人は、生前贈与加算の 対象となりません。ただし、これらの人が遺贈やみなし相続財産・みなし遺贈 財産とされる生命保険金等や死亡退職金(前記8(2)(3)参照)などを取得してい る場合には、生前贈与加算の対象者となるため注意が必要です。 相続税の節税対策に当たっては、生前贈与加算の対象とならない人への贈与 の検討のほか、相続時精算課税制度(後記61参照)も踏まえ、制度の選択を考 慮します。 (4) 本事例における生前贈与 令和5年度税制改正を受け、生前贈与のプランニングは以下の要素をもとに 判断するとよいでしょう。母から子への贈与については、これらの要素を総合 的に判断しつつ贈与のプランニングを行うとよいと考えられます。 ・関係者の範囲及び各関係人の意向 ・贈与の目的 ・誰に贈与をするのか(推定相続人 ・受遺者,推定相続人 ・受遺者以外のいずれ に贈与をするのか) ・被相続人の有する財産の内容及びその額 ・相続開始が見込まれる時期までの年数 ・軽減される税額 (贈与税額と相続税額のトータルの税額) ・自社株式など継続して価値上昇が見込まれる財産の有無
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相続時精算課税制度の改正
私は、節税対策のため、長女と孫に贈与を続けてきました。長女と 孫は暦年課税贈与として申告していましたが、今後,相続時精算課税贈与 を選択することはできるでしょうか。 A: あなたから財産を贈与により取得したご長女様やお孫さんは、暦年課税 贈与に代えてその方々の選択により、相続時精算課税制度の適用を受けること ができます(相法21の9~21の18;前記12(2)参照)。 解説 贈与税については、相続税の補完税として生前における贈与を通じた相続税 の課税回避を防止するという側面と、所得税・相続税に類する機能として無償 の財産移転に対する利得に担税力を見出し負担を求めるという複数の機能を併 せ持っている税として構成されています。一生に一度課税される相続税と比べ て暦年に分割できる贈与税は、相続税と比べると基礎控除は小さく、税率の累 進度は急になっていました。 一般に、親から子への資産移転に係る税負担は、生前に贈与をする方が相続 より重いことから生前贈与に対して禁止的に作用してきました。 この結果、①高齢化の進展に伴い相続による次世代への資産移転の時期が大 幅に遅れてきていること、②高齢者の保有する資産の有効活用を通じて経済社 会の活性化に資することを踏まえ、生前における贈与と相続との間で資産の移 転時期の選択に対する課税の中立性を確保する観点から、平成15年度税制改正 において相続時精算課税制度が創設されました。 さらに、令和5年度税制改正では、資産移転(贈与による移転・相続による 移転)の時期の選択により中立的な税制を構築する観点から、相続時精算課税 制度のより一層の利用促進のために、次の見直しが行われました。 ① 令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税贈与における贈与税の計 算において年間110万円の基礎控除が新設。相続時精算課税贈与であっても、 毎年110万円までの贈与であれば贈与税の申告と納税は不要に。 ② 令和6年以後に行われた相続時精算課税贈与について、相続財産に加算され る相続時精算課税適用財産の価額は、基礎控除額110万円を差し引いた後の価 額を加算。 (1) 相続時精算課税贈与に係る贈与税の基礎控除の新設 令和6年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税贈与の贈与税の計算において毎年110万円までの基礎控除が新設されました(相法21の11の2,措法70 の3の2①)。改正前の相続時精算課税贈与に係る贈与税の計算においては、このような基礎控除はなく、たとえ少額の贈与で贈与税が生じなくても贈与税の申告が必要であり、制度普及の障害になっているとの指摘がありました。 この基礎控除の新設を受け、年間110万円までの相続時精算課税贈与であれば贈与税の申告・納税が不要となります。なお、相続時精算課税贈与の基礎控除の留意点としては、次の2点があります。 ① 相続時精算課税贈与の基礎控除は暦年課税贈与の基礎控除と重複して適用することが可能。このため、相続時精算課税贈与と暦年課税贈与を併用することにより年間220万円まで無税で贈与を行うことが可能に。 (※)相続時精算課税制度を選択した贈与者と暦年課税贈与の贈与者が異なる場合 ② 複数の特定贈与者から相続時精算課税贈与を受けた場合には、相続時精算課税贈与に係る贈与税の基礎控除額110万円を贈与税の課税価格で按分。 (2) 相続財産に加算される相続時精算課税適用財産の価額の改正 相続財産に加算される相続時精算課税適用財産の価額は、基礎控除(原則110万円)を差し引いた後の価額とされました(相法21の15,21の16,措法70の3の2②)。 これまで、相続時精算課税贈与により取得した財産については、どんなに少額の財産であったとしても相続財産への加算が必要でした。しかし、令和6年1月1日以後の相続時精算課税贈与からは年間110万円の基礎控除が新設され、この基礎控除相当額の範囲内の贈与であれば相続財産への加算が不要となります。
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所得税関係の届出書
Q: 被相続人の事業を承継する場合に、改めて青色申告承認申請書などを提出する必要はありますか。また、減価償却費の届出など、他に必要な手続を教えてください。 A: 青色申告承認申請書の効力は相続人には引き継がれないため、相続人は改めて申請書を提出する必要があります。所得税に関する手続としては、その他,青色事業専従者給与に関する届出書、棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書などの提出が必要か否かを確認の上、提出漏れのないよう注意しましょう。 解説 (1) 相続の一般的効力 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますが、被相続人の一身に専属したものは、この限りではありません(民法896)。 税法上の各種申請について、その効果は、被相続人の一身専属のものであり、相続により相続人へその効力が引き継がれるものではないため、相続人は相続開始後に、必要に応じて改めて各種申請書を提出しなければなりません。
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消費税関係の届出書
Q:消費税の適格請求書発行事業者の登録を受けていた父が亡くなり、事業を承継しました。必要となる手続等について教えてください。 A: 適格請求書発行事業者の登録を受けていなかった相続人が事業を承継した場合には、一定の期間まで、その相続人は適格請求書発行事業者とみなされ、消費税の課税事業者となります。一定の期間以後も適格請求書発行事業者であるためには、相続人が自身で適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要があります。 解説 免税事業者である相続人が、被相続人の事業を相続により承継した場合、相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円を超えるときは、相続があった日の翌日からその年の12月31日までの間の納税義務は免除されません。また、相続があった年の基準期間における被相続人の課税売上高が1,000万円以下である場合は、相続があった年の納税義務は免除されます(相続人が消費税課税事業者選択届出書を提出している場合及び適格請求書発行事業者の登録を受けていた場合を除きます。)。 なお、被相続人が提出した消費税課税事業者選択届出書,消費税課税期間特例選択・変更届出書又は消費税簡易課税制度選択届出書の効力は、被相続人の事業を承継した相続人には及びませんので、相続人がこれらの規定の適用を受けようとする場合は、新たにこれらの届出書を提出しなければなりません。 適格請求書発行事業者の登録を受けていた被相続人から事業を引き継ぐ場合の取扱いは、次のとおりです。 (1) 適格請求書発行事業者の効力の引継ぎ 令和5年10月1日以後に開始した相続において、被相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けており、適格請求書発行事業者の登録を受けていない相続人が、被相続人の営んでいた事業を承継する場合には、一定の期間について「みなし措置」が設けられており、被相続人の登録番号を相続人の登録番号とみなすこととされています(消法57の3③)。 「みなし措置」とは、適格請求書発行事業者でなかった相続人が、適格請求書発行事業者であった被相続人の事業を相続により承継した場合、次のいずれか早い日までの期間(「みなし登録期間」といいます。)まで、相続人を適格請求書発行事業者とみなすというものです(消法57の3②③)。 ① 死亡日の翌日から4か月を経過する日(消費税準確定申告期限) ② 相続人が適格請求書発行事業者の登録を受けた日の前日 「みなし措置」を受けた場合には、消費税法9条1項(小規模事業者に係る納税義務の免除)の規定の適用を受けないことから、相続人は消費税の申告と納税の義務を負うこととなります。 (2) 「みなし登録期間」 経過後の手続 「みなし措置」を受けた相続人が、「みなし登録期間」以後も適格請求書発行事業者であるためには、相続人が自身で適格請求書発行事業者の登録申請を行う必要があります。 このとき、例えば事業用賃貸不動産から生じる賃貸収入については、その不動産に係る遺産分割協議が成立するまでの期間において、消費税の課税売上げは相続人が法定相続分に応じて申告する必要があることから、相続人全員が適格請求書発行事業者の登録申請を行わなければなりません。
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評価の時期
Q: 父が亡くなりました。父の相続財産は、自宅、預貯金などがありま す。相続税の申告に当たり、相続財産を評価する必要があると聞きました。 A: 相続税は申告納税方式が採用されており、納税者が相続財産の価額を評価し、相続税の基礎控除額を超過する場合には、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に申告と納税を行う必要があります。また、相続財産の価額の評価の時期は、相続の開始日とされています。 解説 (1) 相続税法における評価の原則 相続税法22条(評価の原則)は、「特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」と規定しています。 ここでいう特別の定めのあるものとは、地上権及び永小作権、配偶者居住権等,定期金に関する権利、立木の評価に関する評価方法がこれに該当します (相法23,23の2,24,25,26)。 したがって、これらを除く財産は、その財産の取得の時における時価により評価することとなりますが、時価の具体的内容は法解釈に委ねられています。 (2) 財産評価基本通達の定め 相続税の課税の対象となる財産は、土地、家屋等の不動産をはじめ、動産、有価証券など多種多様であり、これら各種財産を納税者自身が的確に把握し評価することは必ずしも容易ではありません。 第10章 財産の評価 199 このため、国税庁は財産評価基本通達を定め、各財産の評価方法に共通する事項や財産の評価単位ごとの評価方法などを具体的に定め、国税内部の統一的な処理を行うとともに、これを公開し納税者の便に供しています。 (3) 相続財産の価額の評価の時期 相続税法22条における「時価」の評価とは、いつの時点の評価になるのか、財産の取得の時とは、いつのことなのかは、財産評価基本通達第1章総則1(2) (時価の意義)において、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(・・・・・・)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」と定めています。つまり、時価とは、課税時期(相続、遺贈の場合の取得時点とは、被相続人の死亡の日)の時価とされています。 したがって、相続財産の評価は、課税時期の現況による時価で行うこととなります(評基通1)。 (4) 相続税の申告に向けたアドバイス 相続税の申告期限は、前記1のとおり、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内となっています。相続人自身がこの短い期間内に相続財産を把握し、各々の相続財産を法令・通達に当てはめ評価額を計算しようとすると、時間と手間がかかるケースが大半です。 したがって、相続税の申告の相談があった場合には、相続税申告書の作成等を専門としている税理士に依頼するようアドバイスするとよいでしょう。
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不動産の評価
Q:相続税の申告に当たり、土地や建物の評価方法がよくわかりません。 財産評価基本通達で評価すると、土地の場合は時価の8割、建物の場合は時価の6割と聞きます。 A: 相続税及び贈与税の申告に当たって、宅地の評価額については、路線価方式又は倍率方式で評価し、時価の概ね80%とされています。また、建物の評価額については、固定資産税評価額に基づき算定し、時価の50~70%とされています。 解説・ (1) 財産評価基本通達の定め 相続税法は申告納税制度が採用されていることから、取得財産の価額の時価を納税者が評価し申告を行います。 相続税法22条では、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によると規定されています。 ただし、一般的に、相続税又は贈与税の課税対象となる土地、家屋等の不動産の時価を的確に把握することは困難といえます。 このため、前記48のとおり、国税庁では、財産評価基本通達第1章総則1(2) (時価の意義)において、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期(………………)において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による。」(下線は筆者)と定めています。 (2) 土地の評価額の主な算定方法 土地の価格には、相続税法における相続税評価額のほかに、①売買実例価額(土地の売買契約の成立した価額)、②地価公示価格(国土交通省が公表する毎年1月1日時点の主要な土地の価額),③固定資産税評価額(市区町村等の固定資産課税台帳に記載されたその土地の評価額),④鑑定評価額(不動産鑑定士が行う実際の売買を想定した鑑定価額)などがあります。 (3) 相続税法における土地の財産評価 相続税の計算において、宅地の評価方式は、市街地的形態を形成する地域の宅地を路線価方式、それ以外の宅地を倍率方式で評価することとされています(評基通11)。このため、評価しようとする宅地が路線価方式又は倍率方式のいずれで評価をする宅地に該当するか確認します。具体的には、全国の各国税局2で定める財産評価基準書が国税庁ホームページで公開されているので、これらをもとに評価します。 (4) 財産評価基準書の土地の評価水準 土地の固定資産税評価額は地価公示価格の70%が目途となっていますが、相続税法の財産評価基準書は地価公示価格の80%を目途に定められていますので、時価(地価公示価格) の概ね80%の評価となっています。 (5) 家屋の評価方法 家屋の評価方法は、①売買実例をもとに評価する売買評価比較法,再建築価格から経過年数、破損などの減価を控除する再建築費基準法,③賃貸収入から一般経費を控除した残額を一定の金利で還元する収益還元法等がありますが、相続税法における財産評価基準書においては、倍率方式によって評価する旨定められています。 倍率方式とは、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算する方式のことをいい、家屋の評価倍率は「1.0」 倍と定められています(評基通89)。 なお、建物の固定資産税評価額は、市区町村から通知される固定資産税の納付書に添付されている課税明細書で確認することができます。 (6) 家屋の評価水準 家屋の固定資産税評価額は各自治体が決定します。土地の固定資産税評価額の水準の目安は、毎年1月1日に定められる地価公示価格の70%ですが、建物の場合は、再建築価額の約70%,工事請負契約の場合は50~70%が目安です。したがって、建物の相続税評価額については、時価の50~70%が目安といわれています。
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マンションの評価
Q: 私(長女)は近郊都市のマンションに母と2人で住んでいます。母の相続開始に備えマンションの評価方法を知っておきたいと思います。 A: 一般的に、土地は国税庁が発表する標準的な宅地の1㎡当たりの価格を示した路線価方式に基づき評価し、家屋は評価対象家屋の固定資産税評価額に1.0倍を乗じて計算した金額で評価しますが、マンションについては、マンション通達に基づき、これらの評価額に一定の率を乗じるなどして計算します。 解説… (1) マンション通達が適用されるマンション マンション通達は、都心、三大都市圏及び地方にかかわらず、次の①及び②の要件を満たすマンションで、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得したものに適用されます(後記62(2)参照)。 ① 3階建て以上の区分所有マンション 専有部分の数が3室以下の二世帯住宅,オフィスビル、区分所有者が存しない賃貸マンションは適用対象外 ② 評価水準が1を超えるか、又は0.6未満であるマンション (2) 評価水準 マンション通達でいう評価水準とは、算式1で求めた値をいい、評価水準を求めるための評価乖離率は、算式2で求めた値をいいます。 【算式1】 評価水準=1+評価乖離率 【算式2】 評価乖離率 =A+B+C+D+3.220 上記算式において、「A」, 「B」, 「C」及び「D」は、それぞれ次によって計算します。 A=一棟の区分所有建物の築年数×△0.033 B=一棟の区分所有建物の総階数指数×0.239 C=一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階×0.018 D=一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度×△1.195 (※) 1 「築年数」は、建築の時から課税時期までの期間とし、その期間に1年未満の端数があるときは、その端数は1年とします。 2 「総階数指数」は、総階数を33で除した値 (小数点以下第4位を切り捨て、1を超える場合は1とします。)とします。この場合において、総階数には地階を含みません。 3 「専有部分」がその一棟の区分所有建物の複数階にまたがる場合には、階数が低い方の階を「一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階」とします。 4 「専有部分」が地階である場合には、「一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階」は、ゼロ階とし、Cの値はゼロとします。 5 「一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度」は、一室の区分所有権等に係る敷地利用権の面積を一室の区分所有権等に係る専有部分の面積で除した値(小数点以下第4位を切り上げます。)とします。 (3) 一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額 評価水準が1を超えるか0.6未満である場合の一室の区分所有権等に係る敷地利用権の価額は、「自用地としての価額」に、次の算式による区分所有補正率を乗じて計算した価額を当該「自用地としての価額」とみなして、財産評価基本通達を適用して計算した価額によって評価します。ただし、評価乖離率がゼロ又は負数のものについては、評価しないこととされています。 また、一室の区分所有権等に係る区分所有権の価額についても、「自用家屋としての価額」に、次の算式による区分所有補正率を乗じて計算した価額により求めます。 【算式】 ① 評価水準が1を超える場合 区分所有補正率=評価乖離率 ② 評価水準が0.6未満の場合 区分所有補正率=評価乖離率×0.6 (※) 区分所有者が次のいずれも単独で所有している場合には、「区分所有補正率」は1を下限とします。 イ 一棟の区分所有建物に存するすべての専有部分 ロ 一棟の区分所有建物の敷地 (4) 計算例 本事例において、仮に次のようなマンションにお住まいの場合のマンションの評価額の計算は、次のように行います。 マンションの築年数15年 総階数9階 所在階9階 専有部分の面積70㎡ 敷地の面積2,800㎡ 敷地権の割合(7,300/530,000) 一室の区分所有権等に係る敷地利用権 (土地部分)の価額 630万円 一室の区分所有権等に係る区分所有権 (建物部分)の価額 600万円 ① 一室の区分所有権等に係る敷地利用権(土地部分)の価額 8,667,540円(=6,300,000円×1.3758) ② 一室の区分所有権等に係る区分所有権(建物部分)の価額 8,254,800円(=6,000,000円×1.3758) ③ マンションの評価額 16,922,340円(=①+②) (※) マンション通達適用前の評価額(令和5年12月31日まで)は、12,300,000円(=6,300,000円+6,000,000円)となります。 ④ 小規模宅地等の特例の適用 母親と生計を一にしていた相談者(長女)がそのマンションを 取得するということですので、特定居住用宅地等に該当し、土地の評価額から80%を減額することができます。 1,733,508円(=①×(1-0.8))
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