相次相続控除

公開:2025/12/12

Q: 短期間のうちに連続して相続が開始した場合、相続税の計算上一定の控除があると聞きました。 A: ご質問の控除は「相次相続控除」といいます。この控除は、10年以内に2回以上の相続が発生し、それぞれの相続において相続税が課された場合には、前回の相続において課された相続税額のうち一定額を、後の相続において課される相続税額から控除することとされています。 解説 (1) 相続税の計算における控除する順番 相次相続控除は、7種類ある相続税の税額控除のうち5番目に適用する税額控除となっています (相続税の計算における税額控除をする順番は、前記20(1)④及び後記24 (1)①参照)。 (2) 相次相続控除の概要 短期間のうちに連続して相続が発生した場合、同一の財産について重複して相続税の課税を受けることとなります。この場合、ある相続から次の相続までの期間が長かった人と短かった人との間で相続税の負担に差異が生じます。 相次相続控除とは、このような相続税負担の相違の調整を図るため、10年以内に2回以上の相続が発生し、それぞれの相続において相続税が課された場合,前回の相続において課された相続税額のうち一定額を後の相続において課される相続税額から控除し、その負担調整を図ることを目的とした制度です(相法20)。 (3) 適用要件 相次相続控除の適用要件は以下のとおりです。 ① 一次相続 ●二次相続の被相続人が、相続人として相続又は遺贈により財産(相続時精算課税適用財産を含む。)を取得していること。 ●一次相続によって取得した財産について相続税が課税されていること。 ② 二次相続 ●一次相続開始から二次相続開始までの期間が10年以内であること。 ●二次相続の相続人が相続又は遺贈により財産を取得していること。 ※相続を放棄した人及び相続権を失った人については相続人でないため、その人が遺贈により取得した財産があるとしても相次相続控除の適用はない。 (4) 控除額 以下の算式により計算した金額を、障害者控除(前記21参照)を控除後の相続税額から控除します。 (5) 申告書等閲覧サービス 相次相続控除は、一次相続の際の相続税申告書に記載された情報が必要となります。しかし、相続税申告書を紛失している場合もあるでしょう。このような場合には、一次相続の相続税申告書の提出先(後記24(3)参照)の税務署において、申告書等閲覧サービスを利用することにより、当時の相続税申告の内容を確認することができます。

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税額控除と制限納税義務者

公開:2025/12/12

Q:相続税の税額控除のうち、制限納税義務者が適用を受けられない規定はありますか。 A: 未成年者控除は、無制限納税義務者のみに適用があります。 障害者控除は、居住無制限納税義務者及び日本に住所のある特定納税義務者のみ適用があります。 解説 (1) 納税義務者の区分による税額控除の適用可否 (2) 未成年者控除 未成年者控除は、対象となる相続人及び受遺者が無制限納税義務者である場合に適用されます。 ただし、被相続人が米国籍又は米国国内に住所を有していた場合には、未成年者が制限納税義務者であったとしても、未成年者控除の適用を受けることができます。なお、その控除額については一定の調整計算が行われます(日米相続税条約4)。 (3) 障害者控除 障害者控除は、対象となる相続人及び受遺者が居住無制限納税義務者又は特定納税義務者である場合に適用されます。 ただし、被相続人が米国籍又は米国国内に住所を有していた場合には、障害者が居住無制限納税義務者以外である場合(非居住無制限納税義務者又は制限納税義務者)であったとしても、障害者控除の適用を受けることができます。なお、その控除額については一定の調整計算が行われます(日米相続税条約4)。 (4) 外国税額控除(相続税) 国をまたいだ相続においては、同一の相続及び相続財産について、2か国以上で相続税が課されることがあります。その場合の国際間の二重課税を避けるため、一方の国で課された相続税は、他の国の相続税の計算上控除することができます(相法20の2)。 なお、制限納税義務者については、日本に所在する財産のみが日本の相続税の課税対象となることから、外国税額控除の適用はありません。また、日本とアメリカの相続税及び贈与税については、日米相続税条約によって、両国間の二重課税を調整することとされています(日米相続税条税5)。 さらに、外国税額控除の適用に当たり相続税申告書の提出は要件ではありません。よって、外国税額控除を適用することにより、相続税の申告自体が不要となる場合もあります。 (5) 外国税額控除の計算 次のいずれか少ない金額を、算出相続税額(相次相続控除までの規定適用後の金額)から控除します。 ① 財産所在地国の法令により課された相続税相当額 相次相続控除までの規定、 ② 相次相控除までの規則適用後の算出相続税額 x 国外に所在する財産の価額/相続又は遺贈により取得した財産のうち 相続税の課税価格に算入された価額

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申告スケジュール

公開:2025/12/12

Q: 相続税申告のスケジュールと留意点を教えてください。 A: 相続税の申告と納税は、相続人等が相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に終える必要があります。相続税計算上の各種特例の適用に当たり、遺産分割協議が成立していることを前提とするものも複数あることから、この期日までに遺産分割協議を成立させる方が好ましいといえます。 また、特別代理人や成年後見人の選任と相続税申告の両方が必要となる事案では、一連の手続に関するスケジュールがタイトになるため、相続税申告を担当する税理士との密な連携が大切です。 解説 (1) 相続税の申告書を提出すべき者等 ① 相続税の申告書の提出義務者(相法27①) 相続税の申告書の提出義務者は、次の三つの要件のすべてを具備する個人を原則とします。ただし、例外として、持分の定めのない法人、人格のない社団若しくは財団又は特定の一般社団法人等で個人とみなされて相続税の課税を受ける場合(前記17参照)には、これらも提出義務者に含まれます。 イ 人的要件 相続又は遺贈(死因贈与を含みます。)により財産を取得した人、その相続に係る被相続人から相続時精算課税贈与を受けた人であること。 ロ 遺産総額に係る要件 同一の被相続人から相続又は遺贈によって財産を取得したすべての人の相続税の課税価格(正味財産) の合計額が遺産に係る基礎控除額(※1)を超えている こと。この場合の相続税の課税価格には、相続開始前7年以内(令和5年12月31日までの贈与については3年以内) に贈与があった場合の贈与財産(生前贈与加算) 及び相続時精算課税贈与により取得した財産 (相続時精算課税適用財産。令和6年以後の贈与については同制度の基礎控除後の金額)の価額も含みます(前記12参照)。 ハ 各人ごとの相続税額に係る要件 相続、遺贈又は相続時精算課税贈与により財産を取得した人ごとに、配偶者に対する相続税額の軽減を除く税額控除(贈与税額控除・未成年者控除・障害者控除・相次相続控除・外国税額控除)のうち、適用を受けることのできる税額控除を適用してもなお納付すべき相続税額があること。 (※1) 相続税の基礎控除額は、以下の算式により計算します。 基礎控除額=3,000万円+600万円×相続税法上の法定相続人の数 この場合の、相続税法上の法定相続人の数は、民法第5編第2章(相続人)の規定による相続人の数とし、相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人の数によります。また、被相続人に養子がいる場合には、被相続人の実子の有無に応じ一定の養子の数の算入制限が設けられています(相法15) (前記 (2)②参照)。 (※2) 相続税の計算体系については、次ページの図のとおりです。 なお、適用を受けるためには相続税の申告が必要とされる特例(小規模宅地等の特例:前記19参照、配偶者に対する相続税額の軽減:前記20参照)の適用を受ける場合には、たとえ相続税額がゼロであったとしても相続税申告が必要となります。 ② 還付を受けるための申告書を提出できる人 相続時精算課税制度の適用を受けた受贈者で、次の算式に該当する場合には、贈与税の合計額が納付すべき相続税額を超える金額について還付を受けることができます(相法21の15③, 21の164, 273, 33の21)。 その人が納付すべき相続税額(贈与 税額控除(暦年) から外国税額控除 までの税額控除適用後の相続税額) < 被相続人から受けた相続時精算課税 贈与により納付した贈与税の合計額 還付を受けるための申告書は、相続開始日の翌日から5年を経過する日まで提出することができます(相基通27-8)。 なお、相続時精算課税贈与に係る贈与税額控除以外の相続税の税額控除 (暦年課税贈与に係る贈与税額控除、配偶者に対する相続税額の軽減等)について控除不足額が生じた場合には、このような相続税額の還付を受けることはできません。 (2) 相続税の申告期限 ① 相続税の申告期限 相続税の申告は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません(前記1参照)。 ② 相続の開始があったことを知った日 相続の開始があったことを知った日とは、自己のために相続の開始があったことを知った日をいいます(相基通27-4)。自己のために相続の開始があったことを知った日とは、自らが相続により財産を取得することを知った日と解されています(前記1(2)参照)。 (3) 相続税申告書の提出先 相続税申告書の提出先は、被相続人の住所が日本国内にあるか否かにより分かれます。 ① 被相続人の住所地が日本国内にある場合 被相続人の死亡時の住所が日本国内にある場合には、被相続人の死亡時の住所地の所轄税務署に相続税申告書を提出します(相法附則3)。 ② 被相続人の住所地が日本国外にある場合 被相続人の死亡時の住所が日本国外にある場合の相続税申告書の提出先は、次のとおりです。 イ 日本国内に住所を有する相続人等 相続人等の日本国内の住所地を所轄する税務署(相法62①)。 ロ 日本国内に住所を有しない相続人等 相続人等自らが納税地を定め、自らが定めた納税地を所轄する税務署(相法622)。 この場合、納税管理人の選任・届出が必要となります (通法117①)。一般的には、この納税管理人の住所地に合わせて納税地を定めます。 (4) 相続税の申告義務を負う者が死亡した場合 相続税の申告義務を負う者が相続税の申告期限前に死亡した場合(例: 被相続人の配偶者が相続税の申告期限前に死亡した場合)の申告をすべき人と申告期限は、以下のとおりとなります(相法27②)。 申告をすべき人 : 「死亡した人の相続人又は包括受遺者 申告期限:申告義務を負っていた人の相続開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 (5) 共同申告 相続税申告書は、相続人,受遺者及び相続時精算課税適用者のいずれか2人以上いる場合において、上記(3)の申告書の提出先が同一であるときには、各相続人等が個別に相続税申告書を提出するのではなく、共同して一つの申告書を提出することができます (相法27⑤)。ただし、この取扱いはいわゆる「できる規定」のため、例えば相続人間で争いがあるような場合には、別々に相続税申告書を提出することも認められています。 (6) 相続税の納税 相続税の期限内申告書を提出した人は、その申告期限までに相続税申告書に記載した相続税額を国に納付しなければなりません(相法33)。 (7) 特別代理人選任・成年後見人選任と相続税申告のスケジュール 特別代理人選任には遺産分割協議書案が、成年後見人選任については遺産分割未了の相続財産についての相続財産目録が、原則として必要とされています。 一方,相続税申告においては、各種特例適用等の観点から相続税の申告期限までに遺産分割協議を完了させることが望ましいといえます。 このため、特別代理人選任や成年後見人選任が必要であり、かつ、相続税申告も必要と見込まれる場合には、早い段階で相続税申告を担当する税理士と連携を図り、遺産分割協議書案や相続財産目録の作成,特別代理人選任・成年後見人選任と遺産分割協議までのスケジュールをすり合わせておく必要があります。

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遺産分割協議が整わない場合の申告期限

公開:2025/12/12

Q: 昨年父が亡くなってからまもなく9か月が経過しようとしています。相続税の申告は10か月以内に必要とのことですが、まだ遺産分割協議がまとまっておらず、申告期限を過ぎる見込みです。どうすればよいでしょうか。 A: 相続税の申告は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。これは遺産分割協議が整っていない場合においても同様です。各相続財産の取得者が決まっていない場合は、法定相続分で取得したものと仮定した申告書を作成し、申告期限までに申告・納税を行います。 解説 (1) 遺産分割協議が申告期限までにまとまらない場合 相続人間で話し合いがまとまらず調停や審判になるケースや相続人が所在不明で遺産分割協議が進まなかった場合など、相続の開始があったことを知った日から10か月以内に遺産分割協議がまとまらないこともあります。 このような場合には、民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って財産を取得したものとして相続税の課税価格を計算します(相法55)。 (2) 一部未分割の場合の課税価格の計算方法 遺産分割協議は、すべての財産について一度に分割する必要はなく、一部の遺産から分割することも可能です。また、一部の遺産については遺言によって取得者が指定されているケースもあります。 第5章 相続税の申告・納税 113 このような一部未分割のケースにおける課税価格の計算は、「積上げ方式」と「穴埋め方式」による計算が考えられますが、現在は「穴埋め方式」により計算するのが相当であるとされています。 ① 積上げ方式による計算 未分割財産について相続分や包括遺贈の割合に基づく計算を行い、分割済財産に加算する方法により課税価格を計算する方法です。 ② 穴埋め方式による計算 分割済財産を含むすべての相続財産に対する自己の相続分相当額から分割済財産の価額を控除して課税価格を計算する方法です。 (3) 申告期限後に遺産が分割された場合 遺産が未分割であることにより、民法に規定する相続分又は包括遺贈の割合に従って課税価格を計算して、相続税の申告を行っていた場合において、その後遺産が分割されたことにより、その分割に基づき計算した相続税額と当初申告で計算した税額が異なることとなった場合には、修正申告又は更正の請求を行うことができます。 修正申告は、遺産が分割されたことにより取得した財産に係る課税価格が、当初申告時の課税価格よりも増加した場合に行います。 これに対して、更正の請求は、取得した財産に係る課税価格よりも、当初申告による課税価格が過大となっている場合において行うことができる手続です。遺産分割により当初申告の課税価格と異なることを知った日から4か月以内に限り行うことができますので、期限の管理については注意が必要です。 なお、当初申告後に遺産分割が行われた場合において、分割後の相続税総額と当初申告の相続税総額に相違がない場合には、相続人間による税額の調整を行えば足りるため、必ずしも修正申告や更正の請求を行う必要はありません。

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遺産分割協議が整わない場合の特例適用

公開:2025/12/12

Q:相続税の申告期限までに遺産分割協議が整わなかった場合には、相続税の計算において適用のできない特例があると聞きました。 A: 遺産が未分割の場合には、配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられません。ただし、一定の手続を行うことで、遺産分割が行われた後に適用できることがあります。 解説 (1) 遺産が未分割の場合の特例適用 相続税の申告期限までに遺産が未分割である場合には、相続税額を大きく軽減できる配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例などの適用が受けられないこととされています。 (2) 特例の適用を受けるための手続 ① 申告期限後3年以内の分割見込書の提出 未分割申告後において各種特例の適用を受けるためには、当初の申告書を提出する際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書類を添付して提出することで、その後遺産が分割された場合に、各種特例を適用する旨の更正の請求を行うことができます。この書類の添付を失念すると、分割が確定した後に特例の適用を受けることができません。 「申告期限後3年以内の分割見込書」には、分割がされていない理由や今後の分割見込みの詳細について記載します。 ② 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書の提出 相続人間で争いがある場合などは、申告期限後3年以内に分割ができないこともあります。この場合には、その3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し承認された場合には、申告期限から3年を経過した後であっても特例の適用を受けることができます。 なお、やむを得ない事由については、以下の四つの事由が定められており (相令4の2①), これらの事由を証明する書類(事件係属証明書など)の提出も求められています。この場合、例えば、当事者間の不仲を理由とした申請は認められないものと考えられます。 イ 相続又は遺贈に関する訴えの提起がされている場合 ロ 相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合 ハ 遺産の分割が禁止され、相続の承認若しくは放棄の期間が伸長されている場合 ニ その他やむを得ない事由がある場合 (相続人が行方不明の場合など) (3) 配偶者に対する相続税額の軽減と小規模宅地等の特例 遺産分割後に適用を受ける特例等として、最も多いのが配偶者に対する相続税額の軽減及び小規模宅地等の特例です。 それぞれの特例適用に当たっての注意点は以下のとおりです。 ① 配偶者に対する相続税額の軽減 相続税法において、更正の請求の期限は、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内とされています(相法32①一)。 しかし、この特例については、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内と、国税通則法の規定による更正の請求期限である期限内申告書の提出期限から5年を経過する日のいずれか遅い日まで適用が可能となるため、適用期限についての注意を要します(相基通32-2)。 ② 小規模宅地等の特例 イ 調停等の途中で一部分割が行われた場合 調停が進められる中で、一部の財産について分割の合意がされることがあります。更正の請求期限は、遺産の分割が確定したことを知った日の翌日から4か月以内とされていますので、小規模宅地等の特例が適用できる土地等が調停の途中で分割された場合には、調停自体が継続していたとしても、その一部分割が行われた日の翌日から4か月以内に更正の請求をしなければなりません。 ロ 一部の遺産について分割が行われた状態で未分割申告を行った場合 未分割申告は、すべての財産が未分割の場合だけではありません。一部の財産について分割が行われた状態で申告を行うケースもあります。 特例対象の土地等について分割が行われていた場合、当初申告では特例の適用を行わず、将来遺産のすべてが分割された際に小規模宅地等の特例を適用する旨の更正の請求をしようと考えていても、その土地等については特例の適用を行うことはできません。これは当初申告において、その土地等について小規模宅地等の特例の適用を行わないと選択したものと考えられるためです。 (4) 関係者間の連携 前述のとおり、未分割申告後に各種特例の適用を受けるための手続には、一定の期限が設けられています。遺産が分割された場合には4か月以内に更正の請求を行わないと、小規模宅地等の特例の適用はできなくなるため、調停の依頼を受けた弁護士、申告業務の依頼を受けた税理士及び納税者が調停の進捗を共有しておくことが大切です。 上記(3)②イのとおり、分割協議や調停等の途中で特例対象の土地等が分割された場合、その分割日の翌日から4か月以内の手続が必要になりますが、この点は関係者に確実に説明をしておかないと共有漏れが起きやすくなります。そのため、一部分割であっても納税者、弁護士及び税理士の三者が進捗を共有できるよう連携を図ることが大切です。 また、上記(2)②で記載した、遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請を行う場合,申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に申請が必要であり、申請期限が非常に短くなっています。この申請は申請書の作成だけではなく、やむを得ない事由があることを証明する書類が必要であり、その書類の取得及び提出には三者間の連携が大切になってきます。

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プロベート手続と申告期限

公開:2025/12/12

Q:米国籍を持つ米国居住の被相続人に相続が開始し、米国でプロベート手続を行っています。現地の弁護士によれば、日本の相続税申告期限までには手続が完了しないとのことです。 A: たとえプロベートが完了しなくとも、日本の相続税の申告期限が延長されることはなく、申告期限までに申告と納税を行わなければなりません。プロベートが完了しないと送金を受けられないケースが多いため、申告期限までに納税資金を用意できない場合には、換価猶予などの方法を検討する必要があり ます。 解説 (1) プロベートとは プロベートとは、主に英米法の国において、相続が開始した際に、一般的に行われる裁判手続です。これらの国では、相続が開始すると、被相続人の財産は、まず遺産財団 (Estate) に帰属し、裁判所の監督下で遺産財団が被相続人の債務を弁済し、各種租税公課を納付の上、残余財産を相続人へ分配します。 この一連の裁判手続を、プロベートと呼びます。プロベートは長ければ数年かかることもあり、日本の相続税の申告期限 (相続の開始を知った日の翌日から10か月)までに完了しないことも多々あります。 (2) プロベートが申告期限までに完了しない場合の問題点 国際相続であっても、日本の相続税の申告期限は、あくまで相続の開始を知った日の翌日から10か月です。この期限が延長されることはなく、申告期限内に、相続税申告書の提出と相続税の納税を完了しなければなりません。 税理士が相続税申告書を作成するに当たり、プロベートの裁判資料が参考資料として必要となりますが、日本の相続税の申告期限までにプロベートが完了しない場合には、相続税申告書の作成に必要な情報が入手できません。また、取り急ぎ入手可能な情報に基づき申告書を作成できたとしても、プロベートが完了しなければ相続人は相続財産の分配を受けることもできないため、納税資金がなく、相続税の納税ができないという問題があります。 (3) プロベートが申告期限までに完了しない場合の申告方法 日本国内のみで完結する相続であっても、相続税の申告期限までに遺産分割協議が確定しない場合には、未分割申告を実施し、遺産分割協議確定後に、修正申告又は更正の請求を行います。また、申告期限までに金銭一括での納税が困難である場合には、延納、物納、換価猶予といった手続を行うことが考えられます。 プロベートが完了しない場合の申告方法として、ひとまず、申告期限までに 入手可能な資料情報に基づき相続税申告書を作成し、期限内申告を行った後、プロベート完了後に、修正申告又は更正の請求を行う方法が考えられます。この場合、プロベートが完了していないことで、財産の分配が未だ確定していないと整理するのであれば、未分割申告を行います。なお、例えばトラスト(信託)内の財産や受益者の指定のある金融資産など、プロベートの対象外で分配が確定している財産があれば、一部分割の申告となります。 未分割申告を行う際の注意点として、相続財産が未分割である場合の課税価格は、民法の規定による相続人及び相続分に従ってその財産を取得したものとして計算しますが(相法55),被相続人が外国籍である場合には、被相続人の本国法の規定による相続人及び相続分をもととして計算することとなります (法の適用に関する通則法36)。 (4) プロベートが完了していない場合の納税手続 納税については、換価猶予を実施することが考えられます。一般的には納税資金捻出のための不動産の換価などを想定した手続ではありますが、プロベートでは、プロベートが完了するまで財産の分配を受けることができないため、送金が完了するまでの期間、納税の猶予を受けることを検討しなければなりません。 ただし、換価猶予には、原則として担保提供が必要であり、プロベート中の国外財産を担保に供することはできません。そのため、担保提供ができない状況で換価猶予を実施したい旨を、事前に所轄税務署へ相談することが望ましいといえます。 また、場合によっては、プロベートの完了前であっても、日本の相続税申告納税分の資金を先行して送金してもらえるケースもあるため、日本の相続税申告の仕組みについて現地の専門家の理解を得て対応してもらえるよう働きかけることも有効と考えます。 (5) プロベート完了後の対応 日本の相続税の申告期限までに未分割の期限内申告を行い、その後、プロベートが完了した際には、その分配に応じ、修正申告又は更正の請求を行います。その際、プロベート手続の中で、例えば外国の相続税に相当する税額の支払があった場合には、外国税額控除の適用も検討します。

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連帯納付義務

公開:2025/12/12

Q:弟がすべての不動産を相続し、私は現預金を相続する旨の遺産分割を行い、相続税の申告と納税を済ませたところ、このたび、税務署から「完納されていない旨のお知らせ」という書面が届きました。どうすればよろしいでしょうか。 A :弟様が相続税の納期限までに納付していない場合には、税務署から他の相続人(「連帯納付義務者」といいます。)に「完納されていない旨のお知らせ」が送付されます。これは、納税がなされていない事実を知らせるためのものであり、直ちに連帯納付義務者に納付を求めるものではありませんが、弟様が滞納を続けると、連帯納付義務者は、相続税の納付義務を負うことになります。 解説 (1) 相続税の連帯納付義務 相続税は、相続税を納めるべき各相続人が納付するのが原則ですが、自身の相続財産に課された税金を既に支払っていても、自身が相続で得た財産を上限に、滞納している相続人の負担分を納税する連帯納付義務を負います(相法34①)。 相続税の連帯納付義務は、相続税徴収の確保を図るため、各相続人に課された特別の責任であり、各相続人の固有の納税義務が確定すれば、法律上当然に生ずるものと解されています。(最判昭和55年7月1日(民集34巻4号535頁) ) なお、相続税の連帯納付義務の時効は、申告期限から5年間です。 (2) 相続税滞納から連帯納付義務発生の流れ 相続税を滞納している相続人に対し、税務署は申告期限から50日以内に督促状を発送します。そして、滞納している相続人へ督促状が送付されてから1か月経過しても完納されないときは、連帯納付義務者に「完納されていない旨のお知らせ」が送付されます。 相続税を納めるべき相続人がさらに滞納を続けると、連帯納付義務者に「納付通知書」が送付されます。納付通知書が届くと、記載されている納税額を納める義務が生じます。 (3) 連帯納付義務者の納付 連帯納付義務者は、納付通知書が送られてから2か月が経過する日か、督促状が送られた日のいずれか早い日までに相続税を納付しなければなりません。 なお、連帯納付義務者が連帯納付義務に係る相続税に併せて納付する延滞税については、一定の要件の下、延滞税に代えて利子税を納付します(相法51の2)。 (4) 連帯納付義務者が滞納した場合 納付通知書の送付から2か月しても連帯納付義務者が納付しない場合,督促状が送付されます。督促状が届いた後の期間は、原則年14.6%の延滞税が課されます。 なお、滞納が続くと差押処分の対象となります。 (5) 求償権の発生とみなし贈与 本来相続税を納付すべき相続人の代わりに相続税を納めた連帯納付義務者は、その相続人に対し、相続税や利子税の返還を求める求償権を取得します。 求償権は放棄することも可能ですが、この場合、連帯納付義務者が代わりに納税した金額は、本来相続税を納付すべき相続人に対する贈与とみなされます(相基通8-3)。したがって、贈与を受けた相続人(求償権の放棄を受けた相続人)は、贈与とみなされる金額が暦年課税贈与の基礎控除額を超える場合には、贈与税の申告と納税を行う必要があります。 (6) 贈与税の連帯納付義務 贈与税を納付すべき受贈者が贈与税を滞納した場合についても、贈与した財産の価額に相当する金額を限度に贈与者は連帯納付義務を負います(相法34④)。この場合、滞納から連帯納付義務発生の流れや延滞税の代わりに利子税を納付することなどは相続税と同様です。相続税と違うところは、贈与税の連帯納付義務の時効が原則6年という点です。 なお、不動産の贈与や自社株式の贈与を行おうとする場合、受贈者に納税資金の不足が見込まれるときは、納税資金に充てるための現金も併せて贈与することや相続時精算課税制度を利用することも検討します。

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名義財産

公開:2025/12/12

Q:私は20年前から毎年110万円ずつ孫に贈与を行っています。今では、 2,200万円が貯まっていますが、孫はまだ若いの で無駄遣いしてほしくな いと思い、通帳や印鑑等は私が管理しています。問題はありませんか。 A: あなたの相続が開始した場合、相続税の申告後の税務調査において、贈 与契約を交わさず、あなたが資金を拠出し、通帳や印鑑をあなたが管理してい たことが判明すると、あなたの名義財産と認定される可能性があります。名義 財産の判定は事実関係を総合的に検証した上で判断されることとなりますが、 税務当局から名義財産と認定される懸念がある場合には、その名義財産を 生前 に解消することを勧めます。 解説 (1) 名義財産とは 相続税申告の場面では、いわゆる「名義財産」が問題となることがあ ります。 名義財産とは、預金通帳や預金証書などに記載された名義は被相続人と異な るものの、実質的に被相続人に帰属する預貯金や有価証券などの財産であると 認定されるものを指します。代表的なものとして、被相続人が生前に 名義で 預金口座を開設し、その存在を本人に知らせることなく被相続人が管理してい た預金のようなものが挙げられます。 (2) 名義財産が問題となる場面 名義財産が問題となる場面としては、遺産確認訴訟のほか、相続税の税務調 査において、被相続人の名義財産として財産の計上漏れを指摘されるような場合が考えられます(後記58参照)。この場合には、相続財産の範囲が変わるだ けでなく、追加の相続税の本来のほか、ペナルティとして無申告加算税・過少 申告加算税、利息に相当する延滞税が課されます。 (3) 名義財産発生のメカニズム 贈与(民法549) は、財産を無償で与える旨の「合意」によりその効力を生 じます。例えば、先述の被相続人が孫にその存在を知らせることなく開設・管 理している孫名義の預金口座に対し、被相続人から入金が行われていた場合に は、孫による受諾がないことから同条に定める法律要件を満たさず、その効力 は生じません。この場合、預金口座の名義は孫の持ち物ではあるものの、実 質的に被相続人に帰属する財産として取り扱われることとなります。 また、相続税申告の実務では、被相続人の配偶者のいわゆるヘソクリ(被相 続人から配偶者に渡された生活費の余剰金が蓄積されたもの)が問題となるこ ともあります。ヘソクリの帰属について争われた平成19年4月11日裁決にお いて、次の2点の 内容が示されています。 ① 被相続人から配偶者へ生活費として渡された金銭の法的性質は夫婦共同生 活の基金であり、その余剰を配偶者名義の預金等にしたとしてもその法的性質 は失われない。 ② たとえ、生前に被相続人から生活費の余剰分は自由に使ってよい旨を言われ ていたとしても、それが直ちに贈与契約を意味する訳ではなく、その預金 等の全額が配偶者の固有の財産にはならない。 このような先例があるため、配偶者のヘソクリについてもその判断は慎重に 行う必要があります。 (4) 名義財産を把握する方法 では、このような名義財産はどのように把握するのでしょうか。実務上は、 相続人が、その形成過程を説明できない財産を所有している場合(次の①の金額 > ②〜④の合計額となった場合)には、名義財産の存在を疑います。 ① 相続開始時に相続人が所有する財産の額 ② 相続人固有の収入による財産の積み上げ額 (例:相続人自身の給与・公的年金・自身が所有する財産の売却代金等) ③ 相続人が被相続人以外の者から相続した財産 (例:被相続人の妻が自身の親から相続した財産) ④ 被相続人の生前に相続人が贈与を受けたことが明らかな財産の額 上記により名義財産の存在が疑われるケースでは、まず、贈与契約書のよう な直接証拠により法律要件を満たす具体的な事実があったかを確認します。 直接証拠による立証が困難な場合には、東京地裁平成20年10月17日判決で 示された判断の枠組みを参考にしつつ、以下のような間接事実に基づき民法 549条に定める法律要件を満たす具体的な事実がその当時においてあったか否 かを推認することとなります。 ・預金・証券口座の開設状況(誰が口座開設の手続をしたのか?) ・預金者や証券口座の名義人の住所地の状況(口座名義人の住所が金融機関への 届出内容と異なる場合に、合理的にその理由を説明できるか?) ・預金・証券口座への入金状況(誰がどこから何を原資に入金したのか?) ・通帳・印鑑等の保管場所の状況(誰が預金通帳や印鑑、ネットバンキング・ ネット証券のID・パスワード・ワンタイムキーや二段階認証のためのデバイ スを管理していたか?) ・口座の入出金・株式の売買の管理者の状況(誰が入出金・株の売買を実際に管理 していたのか?) ・収益の処分状況(利息、配当等は誰が得ていたのか?) (5) 名義財産を発生させないための対策 相続税の申告書作成や税務調査に備え、名義財産を発生させないためには、 法に定める要件を満たす具体的な事実があったことを確認できるようにしてお くことが大切です。その対策として、①贈与契約書の作成及び②保険料贈与スキームの2点をご紹介します。 ① 贈与契約書の作成 現預金等の贈与を行う際、贈与契約書を作成することにより、その当時にお いて贈与の法律要件を満たす具体的な事実があったことを示すことができます。 相続税の税務調査も意識する場合、次のような点に留意するとよいでしょう。 イ 贈与者・受贈者双方が「自署」する その当時において、確かに贈与者・受贈者による財産を無償で与える旨の合 意があったことを示すため、自署による契約書の方が望ましいといえます。 ロ 確定日付の付与を受ける 相続税の税務調査において贈与契約書を後日付で作成したものではないこと を示すため、公証役場で確定日付の付与を受けることも有効です。1件当たり 700円。付与を受ける時間も短時間で済みますのでぜひとも行いたい対策です。 ② 保険料贈与スキーム 名義財産対策として使われる保険料贈与スキームとしては、次のようなもの があります。 《設定する保険契約》 ・保険契約者・保険料負担者 : 子 ・被保険者 : 親 ・保険金受取人 : 子 毎年、親が子に現預金を贈与し、子はその現預金を保険料として保険会社に 支払いまず。子が贈与を受けた現預金により保険料を支払うという事実により、 その当時において財産を無償で与える旨の合意があったことを推認させ、これ により名義財産の発生を防ごうとするものです。 また、このようなスキームを組んだ場合、親が死亡した際に支払われる保険 金はみなし相続財産(前記8参照)としてではなく、相続人の一時所得として 所得税・住民税の課税対象となります。相続財産や保険の内容等にもより ますが、相続税課税ではなく所得税・住民税課税の方が税負担が軽減されるケース もあり、副次的にこのような効果も期待できます。

Q&A 弁護士のための相続税務70

生前贈与

公開:2025/12/12

Q:私は2年前に父から預金の生前贈与を受けていたところ、このほど父 が亡くなりました。生前贈与は、相続税の計算に加算されますか。 A: 相続又は遺贈 (相続人からのみの死因贈与を含みます。以下、本項におい て同じ。)により財産を取得した者は、相続開始前7年以内に被相続人から 贈 与税の課税贈与により取得した財産がある場合、その財産は相続税の計算に加算さ れます。また、生前贈与について相続時精算課税制度を選択していた場合にも、 一定額は相続税の計算に加算されます。 なお、相続税の計算に加算された贈与財産について 贈与時に贈与税が課さ れている場合には、二重課税排除の観点から、相続税の計算においてその贈与 税額を控除(還付)することとされています。 解説:被相続人から受けた贈与財産のうち一定のものについては、「暦年課税贈与 に係る生前贈与加算」(相法19)又は「相続時精算課税制度」(相法21の9~21 の18) のいずれかの制度により、相続税の計算に加算されます。 民法903条の特別受益(後記65.2参照)と両制度を比較した場合、次のよう になります。 以下、それぞれの内容について解説します。 (1) 暦年課税贈与に係る生前贈与加算 ① 制度の概要 相続又は遺贈により財産を取得した人は、相続開始前7年以内(令和5年12 月31日までの贈与は3年以内)に被相続人から暦年課税贈与により取得した財 産がある場合、その財産は相続税の計算に加算されます (相法19)。また、相 続税の計算に加算された贈与財産について贈与時に贈与税が課されて いる場合には、二重課税排除の観点から、相続税の計算においてその贈与 税額を控除することとされています。 ② 加算対象者 民法では、特別受益の対象者は相続人に限られます(民法903)。 これに対し、暦年課税贈与に係る生前贈与加算の対象者は、相続又は遺贈により財産を取得した人であり、相続人に限定されません。なお、相続又は遺贈 により財産を取得しなかった場合でも、次の方については相続又は遺贈によ り財産を取得した人とみなされ、加算対象者とされます。 ・被相続人が保険料を負担した生命保険金等・死亡退職金のみなし相続財産・ みなし遺贈財産を取得した人 (相法3他) また、暦年課税贈与により生前贈与を受けた孫 (直系卑属)が代襲相続人となっ た場合、加算対象者とされます。 ③ 加算対象となる贈与 特別受益の計算では、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与が対象とな ります (民法903①)。これに対し、生前贈与加算ではその贈与の趣旨にかかわ らず、相続開始前7年以内に行われた贈与について、その贈与時の価額を相続 税の課税価格に加算します。 従来の加算期間は相続開始前3年間とされていましたが、令和5年度税制改 正によりこの加算期間が7年へと延長されました。なお、実際の加算期間は今 和5年度税制改正に係る経過措置により、次のとおりとされています (令5改 正法附則19②)。 相続開始日 加算対象となる贈与 令和6年1月1日〜令和8年12月31日 相続開始前3年以内の贈与 令和9年1月1日〜令和12年12月31日 令和6年1月1日〜相続開始日までの贈与 令和13年1月1日以後 相続開始前7年以内の贈与 ④相続税の計算に加算される贈与財産の価額 イ 加算される贈与財産 相続税の計算へ加算対象となる贈与財産は、贈与税の課税対象となる財産 に限られます。次ののような贈与税の課税が行われない財産は、その課税が 行われないことの趣旨に鑑み、相続税の計算についても加算対象外(すなわ ち、相 続税の課税も行われな い)となります。 ・贈与税の非課税財産(例:扶養義務者間での生活費・教育費に充てるためにされ た贈与財産等; 相法21の3、21の4) ・贈与税の制限納税義務者が取得した国外所在財産(例:贈与者・受贈者と もに 一度も日本に住んだことのない人が贈与により取得した国外所在不動産など; 相法1の4、2の2、10) ・「おしどり贈与」により贈与された居住用不動産又は居住用不動産購入資金 (相法19①2、21の6①) ・直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措法70の 2) ・直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措法70の2 の2) ・直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税 (措 法70の2の3) (※1) 教育資金の贈与を受けた年や相続税の課税価格の合計額によっては、非課税拠出額 から教育資金支払額を控除した残額のうち一定の計算をした金額がある場合には、そ の金額を相続税の計算に加算します。 (※2) 非課税拠出額から結婚・子育て資金支払額を控除した残額のうち一定の計算をした 金額がある場合には、その金額を相続税の計算に加算します。 ロ 加算される贈与財産の価額 相続税の計算に加算する贈与財産の価額は、相続開始時の時価では なく、相続開始前4年〜7年前に 行われた 贈与については、その贈与時の価額に相続税の課税価格に 加算されます。 暦年課税贈与について は、その総額から100万円を控除した残額が相続税の課税価格に 加算されます。 ⑤ 持ち戻し免除の可否 生前贈与加算については、民法903条3項に定める持ち戻し免除に類似する 規定はなく、加算対象となる贈与はすべて相続税の計算に加算されます。 ⑥ おしどり贈与の有無 配偶者の生活保障の観点から、相続税法においても民法903条4項に重畳し た制度として、贈与税の配偶者控除が あります。贈与税の配偶者控除は、婚姻 期間20年以上の配偶者間での居住用不動産そのもの又は居住用不動産購入資金 の贈与があった場合に、贈与税の計算において最大2,000万円を控除する制度 です(相法21の6)。 なお、おしどり贈与の適用を受けた贈与財産については、加算されません (相法19①3)。これは、贈与税の計算上において最大2,000万円を控除したこ と もあ り、同制度の適用を受けた財産が相続税の計算に加算され、相続税の課税 が行われてしまっては、控除の効果が減殺されてしまうためです。 ⑦ 財産が滅失した場合の取扱い 民法においては、相続開始時を基準時点に特別受益の計算を行い (民法903 ①)、受贈者の行為による贈与財産の滅失・価額の増減があった場合のみ、相 続開始時において原状のままであるものとみなして、計算することとされてい ます(民法904)。 一方、生前贈与加算においてはこのような取扱いはなく、相続開始時の財産 の状況にかかわらず、贈与時の相続税評価額を相続税の計算に加算します。す なわち、贈与後における財産の価値の上昇や下落、災害による財産の滅失等は 一切考慮されずに相続税の計算に加算されることとなります。 ⑧ その他 被相続人からの贈与財産のうち相続税の計算に加算された贈与財産に 対 す る贈与税額は、その贈与を受けた相続人・受遺者の相続税額から控除します。 なお、控除しきれない贈与税額がある場合、その控除しきれない金額は切捨て となり、還付はされません。この点は、相続時精算課税制度の贈与税額控除と 異なり、注意を要します。 (2) 相続時精算課税制度 ① 制度の概要 イ 適用を受けるための要件 対象者 適用要件 贈与者 贈与年に1月1日において、原則として60歳以上であること。なお、この制度の適用を受ける贈与者を「特定贈与者」といいます。 受贈者 贈与年に1月1日時点において18歳以上かつ贈与者の直系卑属である推定相続人又は孫であること。 ロ 贈与税の計算 令和6年以後の相続時精算課税贈与については、以下の算式により計算しま す (後記61参照)。 (贈与により取得した財産の価額 (*1) - 暦年贈与の基礎控除額110万円(*2)) - 特別控除額2,500万円(*3)) × 20% 二 相続税の計算 (相続時精算課税制度の贈与税額控除) 毎年の相続時精算課税贈与の基礎控除額110万円を超える金額を、相続財産 の価額に加算します。また、加算された財産の価額に係る贈与税がある場合に は、財産の価額を加算された人の相続税額からその贈与税額を控除します。相 続税額から控除しきれない金額については還付されます。 ② 相続財産への加算対象者 特定贈与者からの贈与について、相続時精算課税制度の適用を受けた受贈者 が、加算対象者となります。暦年課税贈与に係る生前贈与加算と異なり、相 続・遺贈により財産を取得しているかは問わず加算対象者となります(相法21 の15.21の16)。 なお、相続時精算課税制度の適用を受ける年分の前に、その特定贈与者から 暦年課税贈与により取得した財産があるときは、相続税法19条1項(相続開始 前7年以内に贈与があった場合の相続税額)の規定の適用があり、その財産の 価額は相続税の課税価格に加算することとなります。 ③ 相続財産への加算対象となる贈与 相続時精算課税制度の適用を受けた時以後の、特定贈与者からの贈与財産の うち基礎控除額(原則110万円)を超える額が相続財産の加算対象となります。 生前贈与加算と同様、婚姻・養子縁組・生計の資本としての贈与といった贈与 の趣旨は問わず加算対象となります。 ④ 相続税の計算に加算される贈与財産の価額 生前贈与加算と同様、贈与税が課税されない財産(前記(1)④参照)は、相続 税の計算に加算されません。また、加算される金額は以下のとおりとなります。 贈与の時期 相続税の計算に加算される金額 令和6年1月1日以後の贈与 贈与時の相続税評価額から、相続時精算課税贈与の 「基礎控除額(原則110万円)を控除した残額を加算 令和5年12月31日までの贈与 贈与時の相続税評価額を加算 ⑤ 持ち戻し免除の可否 生前贈与加算と同様、被相続人からの贈与について持ち戻し免除の意思表示をすることはできません。相続時精算課税制度を選択した時以後のすべての 贈 与財産の価額(令和6年以後の贈与については基礎控除額110万円を控除した 残額)を、相続税の計算に加算します。 ⑥ おしどり贈与の有無 相続時精算課税制度において、おしどり贈与の制度はありません。相続時精 算課税制度は、特定贈与者の直系卑属のみが制度の対象となっているためです。 ⑦ 財産が滅失した場合の取扱い 相続時精算課税贈与により取得した財産が滅失したとしても、原則として、 その滅失を考慮せずに贈与時の相続税評価額を相続税の計算に加算します。 ただし、相続時精算課税贈与により取得した土地又は建物が令和6年1月1 日以後に災害により一定の被害を受けた場合には、その被害額を控除した残額 を相続税の計算に加算します(後記61(3)参照)。 ⑧ その他 イ 制度選択の撤回 相続時精算課税制度は、一度選択すると撤回をすることはできません。この ため、同制度の選択に当たっては、贈与者の年齢・所有資産の内容及び金額・ 関係者の意向等を踏まえ、慎重に検討を行う必要があります。 ロ 相続時精算課税贈与と暦年課税贈与の基礎控除の重複適用 相続時精算課税制度は、贈与者ごとに選択する制度となります。このため、 父からの贈与については相続時精算課税贈与、母からの贈与については暦年課 税贈与といった形での贈与も可能です。また、このように制度を選択すると、 1年当たり、相続時精算課税贈与の基礎控除額110万円+暦年課税贈与の基礎 控除額110万円の合計220万円の控除を受けることが可能です。 ハ 贈与税額控除(相続時精算課税制度) 相続時精算課税制度においても、生前贈与加算と同様に、相続税の計算にお いて過去に支払った贈与税を控除する制度(贈与税額控除)があります。 控除の対象となる金額は、特定贈与者からの贈与財産に対応する贈与税額で す。なお、控除しきれない贈与税額がある場合、その控除しきれない金額は 還 付されます。この点は、暦年課税贈与の贈与税額控除と異なります。

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親族からの借入

公開:2025/12/12

Q:私(70歳)は、長女(40歳)から1,000万円を借り入れ、孫2人に 対しそれぞれ500万円ずつ教育資金として贈与をしようと考えています。 長女から借り入れた1,000万円は相続財産へ債務計上できますか。 A:ご質問は、ご長女様から借り入れた1,000万円の、相続税の計算におけ る債務控除の可否についてのものと思われます。一般的には、被相続人の債務 は相続税の計算において債務控除の対象となりますが、あなたとご長女様の間 での資金の移動は通謀によるもので金銭消費貸借契約が成立したとは認められ ない場合には、ご質問の1,000万円について債務控除を行うことは認められな いものと考えられます。 解説 (1) 相続税の債務控除(無制限納税義務者の場合) 次の要件を満たす場合には、相続税の計算において被相続人の債務を控除し ます(相法13.14) (納税義務者については前記5(1)参照)。 ① 相続人又は包括受遺者として財産を取得していること。相続人,包括受遺 者以外の人が特定遺贈により財産を取得している場合には、債務控除の適用 を受けることができません。 ② 相続開始時に現に存在する被相続人の債務であり、確実であると認められ ること。なお、確実であると認められる債務について、必ずしも書面の証拠 は必要とされません (相基通14-1)。 しかし、親族間の借入については、次のような事実の有無を認定し、消費貸 借契約(民法587) が成立していたか否かを検証します。 ・借入の経緯 ・親族が貸し付けた金銭の原資 ・契約書の有無 ・利息の支払や元金の返済の事実の有無 (2) 被相続人の債務に該当するか否か 相談者が長女から借りた1,000万円が債務に該当するか否かについては、金 銭消費貸借契約の成立可否を考えます。通常、長女から長女の子へ贈与を行う ことが自然であるところ、あえて長女から相談者に金銭を貸し付けて債務を作 出する一連の行為は、税務当局から相談者と長女が通じて行った虚偽の意思表 示(民法94)に該当するとして、金銭消費貸借契約は無効であると認定される 可能性があります。 この場合、長女からの借入金1,000万円の債務控除は認められないと判断さ れることに加え、仮装行為として重加算税の課税対象とされるおそれがありま す。税務当局に対し、金銭消費貸借契約を交わしたことについて合理的な説明 を行うことができないならば、このような契約は行わないことが賢明です。

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所得税の還付金の還付請求権

公開:2025/12/12

Q:父が9月に死亡しました。長男の私は所得税の準確定申告書を12月 に提出し、その年の7月に既に納付した予定納税額のうち一部の還付を受 けました。この還付金は相続財産となるのでしょうか。 A :予定納税額の還付金及び還付加算金は、被相続人の死亡後、相続人につ いて発生するものですが、所得税の準確定申告に係る還付金は、被相続人の相 続財産であり、相続税の課税価格に算入しなければなりません。 解説 (1) 所得税の準確定申告 被相続人が年の中途に死亡した場合は、その人の1月1日から相続開始の日 までに確定した所得金額及び税額について、相続人は、その相続の開始があっ たことを知った日の翌日から4か月以内に、所得税の準確定申告書を提出しな ければなりません(所法125②)。 (2) 所得税の還付金の還付請求権 還付金の還付請求権は被相続人の本来の相続財産であり、相続税の課税の対 象となります。還付金の還付請求権は、被相続人の相続開始時点において発生 しておらず相続財産に含まれないとの見方もできますが、被相続人の生存中に 潜在的な請求権が被相続人に帰属しており、これが被相続人の死亡により顕在 化したものと考えられます。 したがって、還付金の還付請求権に基づいて還付金を取得した場合は、相続 税の課税の対象となります。 (3) 還付申告書の提出 確定申告の必要がない人の還付申告は、還付申告をする年分の翌年1月1日 から5年間行うことができます。したがって、これまでに所得税の確定申告書 を提出していなかった場合、例えば、令和元年分については、令和6年12月31 日まで申告することができます。同様に、令和5年分については、令和6年1 月1日から令和10年12月31日まで申告することができます。 準確定申告の申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か 月以内ですが、この期限を過ぎても、還付を受けるために準確定申告を行おう とする場合、5年以内であれば還付申告を行うことは可能です。 ただし、還付金は相続税の課税対象になるため、相続税の申告が必要と見込 まれる場合には、相続税の申告期限 (相続の開始があったことを知った日の翌 日から10か月以内)までに、還付申告を完了させておくことが望ましいといえ ます。相続税の申告期限後に還付金を受け取った場合は、修正申告を行う必要 がありますので注意が必要です。 (4) 過納金の還付請求権 相続人が、その母の死亡により相続した財産に係る相続税の申告をしたとこ ろ、母が生前に提起して相続人が承継していた所得税更正処分等の取消訴訟に おいて同処分等の取消判決が確定したことから、過納金が還付され、所轄税務 署長から過納金の還付請求権は相続財産を構成するとして相続税の更正処分を 受けたため、還付請求権は相続開始後に発生した権利であるから相続財産を構 成しないと主張して、同処分の一部の取消しを求めた事案があります。 この点、被相続人が、所得税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分に基 づき、所得税、過少申告加算税及び延滞税を納付するとともに上記各処分の取 消訴訟を提起していた場合において、その係属中に被相続人が死亡したため。 相続人が同訴訟を承継し、上記各処分の取消判決が確定したときは、上記所得 税等に係る過納金の還付請求権は、被相続人の相続財産を構成し、相続税の課 税財産となると解するのが相当であると判断されています。 (5) 還付加算金 還付加算金は、相続人が確定申告書の提出によって原始的に取得するもので、 被相続人からの相続によって取得するものとは認められないため、相続人の所 得税(雑所得)の課税対象となり、相続税の課税価格には算入されません。 相続人などの責任に基づいて納付したり、徴収されることになった延滞税や 加算税などは遺産総額から差し引くことはできませんが、このことと同様の考 え方といえます。

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法人等への遺贈

公開:2025/12/12

Q:遺言では個人以外に対しても財産の遺贈ができると聞きましたが、その個人以外に対しても相続税が課税されるのでしょうか。 A:遺言では、国・地方公共団体や法人など、あらゆる者に対して財産を渡すことができます。ただし、相続税は個人を納税義務者としているため、個人以外の者は原則として相続税の納税義務者にはなりません。 解説 (1)原則 相続税の納税義務者は、住所地や国籍等に応じた「個人」とされています (相法1の3)。したがって、国や地方公共団体を含むすべての「法人等」については、相続税の納税義務者にならず、遺贈により財産を取得した場合においても、原則として相続税の申告を行う必要はありません。 なお、この取扱いは、贈与税の納税義務者についても同様です。 (2)例外 上記(1)のとおり、原則として相続税の納税義務者は「個人」とされていますが、一定の法人等については、その法人等へ財産を移すことで、相続税の課税を逃れ、その財産を私的に利用できる状態になる可能性があります。そのような租税回避を抑止するために、以下の法人については、個人とみなして相続税の納税義務者とされます (具体的な課税関係は後記16以下参照)。 ① 人格のない社団等 ② 持分の定めのない法人のうち一定の場合 ③ 特定の一般社団法人など

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