共同抵当

公開:2025/12/12

2024年4月1日、A会社はB銀行から弁済期を2026年3月31日として1億円の貸付けを受けた(利息等は割愛する)。この貸金債務を担保するため、同日、A会社の代表者Yが、自らの所有する不動産甲(評価額3000万円)およびY所有の不動産乙(評価額2000万円)に、Bのために第1順位の共同根抵当権を設定して、その旨の登記を経由した。2024年10月1日、XはAから弁済期を2026年9月30日として2000万円の貸付けを受け、この貸金債務を担保するため、Yは不動産甲にXのために第2順位の抵当権を設定して、その旨の登記を経由した。 その後、Aの経営は悪化し、BもXもAから全額の返済を受けていない。 (1) 2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に甲の売却代金3000万円を配当として受領した(Aへの配当額は0であった)。同年10月1日現在、Xは乙建物の競売を申し立てることができるか。仮にできるできる場合、板にできる場合、Xは配当手続においていくら受領できるか。 (2) 2026年12月1日、Bは、Yから7000万円の代位弁済を受け、Aは乙建物の乙上の抵当権につき、Yのための代位による抵当権移転登記をした。2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に甲の売却代金3000万円を配当として受領した(Xへの配当額は0であった)。同年10月1日現在、Xは、乙不動産の競売を申し立てることができるか。仮にできる場合、Xは、Bに対して何らかの請求をすることができるか。 ●解説● 1. 共同抵当における異時配当と後順位抵当権者の代位(小問(1)) (1) 問題の所在 Xは不動産甲上の後順位抵当権者であるので、抵当権の実行として乙不動産の競売を申し立てるためには、Xが乙の抵当権を取得していることが必要である。この他人の権利を行使できる地位にあることが必要である(厳密には、登記上の抵当権を執行すれば執行裁判所は開始決定をし(民執181条1項3号)、抵当権の不存在は請求異議の訴えで争われる(同法182条))。 2. 民法392条の適用範囲の限定 実際、共同抵当不動産の一つの不動産が物上保証人の所有の場合であっても、参考判例①は、民法392条1項の適用を認め、各不動産の価額に応じて債権の負担を按分し、物上保証人が所有する不動産から債務者が所有する不動産に求償できることを認める。 3. 経済の具体的な手順 それでは、XはどうすればBの優先弁済権を確保できるのか。Xはまず、甲の売却代金の配当期日Bの債権を留保したうえで(民執85条8項)、配当の変更の訴訟(同項)を申し立てるうえで、配当表の変更を求める訴訟を提起することができる。なお、配当異議の訴えが提起されると、配当異議の申出にかかる部分の配当が留保され、配当異議の申出があった部分の配当が実施されず、配当額は供託される(同法91条1項)。 4. 問題の本質** なお、仮にYのBに対する代位弁済があれば、Bの抵当権は、抵当権設定登記に付記登記がなされ、YからXに対する請求は認められない。 ●関連問題● 本問に記載された事実に加え、以下の(1)(2)のいずれかの事実が存在したとする。各場合について、2027年10月1日現在、XはBに対して1000万円の不当利得返還を請求できるか。 (1) 2026年12月1日、Yは乙を代金7000万円でZに売却し、同日、Zが代金7000万円をBに支払うとともに乙上の抵当権を放棄した。2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に3000万円を配当として受領した。 (2) 2026年12月1日、Yは乙を代金7000万円でZに売却し、同日、Yは乙を代金7000万円でZに売却し、その代金7000万円をBに支払い、Bはこの担保不動産競売を申し立てた。2027年2月1日、Bは甲の担保不動産競売を申し立て、同年10月1日に3000万円を配当として受領した。 ●参考文献● 清水元・百選Ⅰ 192頁 滝澤信彦・最判解平成4年度451頁

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ISBNコード: 978-4-7857-2991-2

共有物の管理・処分

公開:2025/12/12

A・B・C・Dは、等しい持分の割合で甲土地を共有している。なお、次の(1)〜(3)について、A・B・C・D間に特に合意はないものとする。 (1) 甲土地は、A・B・C・Dが通路として使用している。①甲土地の一部が陥没して通行に支障が生じている場合に、Aは、単独で、その費用で土砂の除去などの復旧をすることができるか。②甲土地は砂利道であるため、A・B・Cは舗装したいと考えているが、Dはこれに反対している。A・B・Cは、A・B・C・D間で甲土地を舗装する旨の決定をしたうえで、甲土地を舗装し、その費用の負担をDに求めることができるか。 (2) Dが亡くなった後に、以前、A・B・C・Dが協議により、Bが甲土地を農地として使用する旨の決定をしていた。ところが、最近、甲土地を駐車場として借りたいと希望するEが登場したことから、A・C・Dの賛成により、存続期間を5年と定めて甲土地をEに賃貸することに変更する旨の決定をした。A・C・Dは、この決定に基づいて、Bに対し、甲土地の使用の停止を求めることができるか。 (3) Bが甲土地を売却したいと考えており、C・Dもこれに同意しているが、Aは行方不明である。甲土地の売却を円滑にするために、Bはどのような目的をとればよいか。 ●解説● 1. 共有物の変更・管理・保存行為に関するルール 共有物の管理とは、目的物を使用・収益・改良することを含む広い概念の管理を指す。 共有者間に合意があるときは、その合意によって処理される。 たとえば、共有者間にAが建物を独占使用してよいとの合意があれば、当該共有者による独占使用が違法とは認められず、他の共有者は当該共有者に対して共有物の返還請求をすることはできない。 共有者間にどのような合意もない場合には、民法のルールが適用される。 民法は、共有物の管理について、①変更、②(広義の)管理、③保存行為のルールを定めている。 (1) 保存行為 共有物の保存行為は、各共有者が単独ですることができる(252条5項)。 共有物の修繕等、物の現状を維持するための行為がこれに当たる。 小問(1)①は、土地通路の現状を維持するための行為であるから共有物の保存行為に当たり、Aが単独ですることができる(252条5項)。 そして、修繕にかかった費用について、Aは、B・C・Dに対し、それぞれ4分の1ずつの負担を求めることも可能である(253条1項)。 (2) (広義の)管理行為 共有物に変更を加えるには、他の共有者の同意を得なければならない(251条1項)。 つまり、共有者全員の同意が必要である。 共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものを除き、共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決定することができる(252条1項前段)。 (3) 変更行為 共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決定することができる(252条1項前段)。 管理に含まれると解される事項は、①で述べたように、変更のうち、共有物の形状または効用の著しい変更を伴わないものである。 (狭義の)管理と共有物の性質を変更することなくその利用・改良を目的とする行為であり(103条2号参照)、共有物の賃貸借を締結することなどが典型例である。 2. 「特別の影響」を及ぼすべきとき A・C・Dの決定がBに「特別の影響を及ぼすべきとき」には、その決定はBの承諾を得なければならない(252条3項)。 Bの承諾を得ないA・C・Dの賛成による過半数での決定もなされず、Bはこれに従う必要はない。 それでは、Bに「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、どのような場合か。 「特別の影響を及ぼすべきとき」とは、共有物の管理に関する事項の決定が、①共有物の性質に応じて、A管理に関する決定をする必要性・合理性が高いかどうか、②共有物を使用している共有者の利益にどのような不利益が生じるかを比較して、その利益が③共有者が受けるべき利益を上回る場合をいう。 これに照らすと、小問(2)で、例えばBが農業で生計を立てており、その決定によってBが被る不利益(⑥)は極めて大きい。 変更の必要性・合理性(⑥)がよほど高い場合でない限り、Bの不利益は受忍限度を超えており、Bに「特別の影響を及ぼすべきとき」に当たるだろう。 この場合にはBの承諾が必要であるから、Bは、承諾せずに決定の効力を否定することができるが、Bが単に好まないことを理由に拒絶している場合には、特別の影響に当たるといえる(主観ではない)と解される。 3. 所在等不明共有者の持分の取得・譲渡 小問(3)では、Aが所在等不明共有者に当たると、甲土地の処分が妨げられる結果となる。 B・C・Dとしては、共有物分割によってAとの共有関係の解消を図ることも考えられるが(→問題Ⅲ)、そのためにはBの負担が重くなる(すべての共有者を当事者として訴えを提起しなければならない)。 そこで、裁判所の関与の下で、所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得することができる制度が設けられている。 すなわち、裁判所は、共有者の請求により、その共有者(B)に、所在等不明共有者(A)の持分を取得させる裁判をすることができる(262条の2第1項、87条参照)。 そして、持分取得の裁判によってBがAの持分を取得した場合には、Bは、Aに対し、Aの持分の時価相当額の支払を請求することができる(262条の2第4項)。 そこで、裁判所は、Bに対し、一定の期間内に、Aのための供託所が定める金銭を供託所が供託することなどを命じなければならない。 ●関連問題● (1) 小問(1)②において、A・Bは舗装しているが、Dは反対し、Cは土地の舗装を望む。 A・Bは、土地の舗装に賛成するため、どのような法的手段をとればよいか。 (2) 小問(3)において、Bが甲の売却を、単独で、第三者であるEに約束した場合に、どのような法的手段をとればよいか。

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相続財産の管理・処分

公開:2025/12/12

大都市近郊の旧街道沿いにある、江戸時代から300年余り続く和菓子店の13代目であるAは、80歳という高齢になったににもかかわらず、跡継ぎを決められていなかった。Aの主な財産は、店舗兼住宅である本件土地建物であった(いずれもA名義の登記がなされているが、Aの配偶者はすでに亡くなっており、Aには子B・C・Dがいたが、いずれも独立して別の場所で暮らしていた。Aとしては、子の誰かに和菓子屋を継いでほしいと考えていた)。 2023年5月、Aが危篤状態となり近所の病院に入院したため、Bは勤務する会社を休み、本件土地建物に泊まり込み、Aの身の回りの必要なもの等を病院に持参するなど熱心にAの世話をした。しかし、Aは入院から5日後に亡くなった。 その後、Aの葬儀を行うため、Bは本件土地建物に泊まり込みを続けていた。Aの葬儀後、BはAの遺品の整理等をし、また、和菓子屋を再開するという名目で、本件土地建物に引っ越して居住を始めた。なお、Bは和菓子を売った経験はなく、勉強や修行をしようとしているわけでもなく、それまでと変わらぬ生活を続けている。 Aの四十九日法要が終わり、B・C・Dは、Aの遺産分割を行うこととしたが、本件土地建物を売却して代金の3等分を主張するC・Dと、和菓子屋をいつか再開したいとして売却に強く反対するBとが対立し、遺産分割は遅々として進まない。C・Dは、本件土地建物を売却するために、まずBを立ち退かせるべきと考え、Bに対して、本件建物の明渡しを求める訴えを提起した。C・Dの請求は認められるか。 ●解説● 1. 共同相続財産の管理 相続人が複数存在する場合、被相続人が有していた財産(遺産)は、共同相続人の共有となる(898条1項)。この共有について、かつては合有と解すべきという見解もあったが、現在は、民法249条以下の共有(狭義の共有)と理解するのが判例・通説である。 共同相続財産の管理について、相続に特別な規定は存在しないことから、物権法の共有物管理規定に従ってなされる。したがって、本問は、基本的に共有関係として検討を行う必要がある。なお、遺言における各相続人の共有持分は、法定相続分または指定相続分が基準となる(888条2項)。 2. 共有物の明渡請求 共有は、各共有者が持分権という権利を有していることから、物権的請求権を行使することができる。したがって、共有持分権に基づく不動産の明渡請求も基本的には可能である。ところで、共有者間における不動産の明渡請求については、参考判例が併存する。その背景は、本問と同じく共同相続人間の紛争であり、多数持分権者から少数持分権者への建物明渡請求が問題となったところ、次のように判示されている。 共同相続に基づく共有者は1人である少数持分権者の、他の共有者の協議を経ないで当然に共有物を単独で占有する権限を有するものではない。しかし、多数持分権者は、共有物を現に占有する少数持分権者に対し、当然にその明渡しを請求することができるものではない。なぜなら、①各少数持分権者は自己の持分によって、共有物を使用収益する権限を有し、これに多額の費用をかけている場合もあるからである。 3. 明渡請求が認められない場合 本問のように、共有者間において共有物の利用に関する特別の合意の存在が認められる場合にも、本件土地建物をA・B・C・Dの4人が共有している場合において、法定相続分どおりとすると、A・B・Cの持分(合計4分の3)の価格の過半数を超えるので、C・Dの持分(合計4分の2)を併せても過半数に満たないから、A・Bの決定がなされ、C・Dの明渡請求は認められないこととなる。 4. 不当利得返還請求等 本問では問われていないが、C・DのBに対する明渡請求が認められない場合、また、明渡請求が認められる場合であっても明渡が遅れるまでの期間について、C・Dは、Bに対して賃料相当額の金銭の支払を求めることができるか。 参考判例③は、不動産の共有者の占有者に対して、明渡請求が認められない場合であっても、占有者が単数で占有することができる権限を主張しない限り、自己の持分割合に応じて占有部分にかかる賃料相当額の請求ができるとしている。 ●発展問題● Aの配偶者Bと居住する甲建物のほか、乙建物を所有し、いずれについても登記を備えていた。Aには子C・D・Eがいたが、特にEをかわいがっており、Eの結婚を機に、E家族を乙建物に無償で住まわせていた。 Aが死亡し、Aの財産はB・C・D・Eが共同相続し、甲建物および乙建物について、法定相続分に従った登記がなされていた(不動産登記法76条の2参照)。遺産分割協議はなされていなかったが、その登記がなされてから、C・D・Eの間で、Bが元気である間は、Bに配慮し、遺産分割協議はしないでおくという趣旨の了解があったためであった。 Aの死亡から5年後、Bが死亡し、C・D・Eの間で遺産分割をすることになり、紛争が生じた。その理由は、A・Bの主な財産は甲建物および乙建物のみであるところ、甲建物に比べると、Eの居住する乙建物の財産的価値が圧倒的に高いため、C・Dは甲建物および乙建物を売却し、その代金を3等分することを主張したのに対し、Eは乙建物に住み続けることを主張したからである。 C・Dは、遺産分割を円滑に行うためには、乙建物を売却することが必要であり、まずFを立ち退かせるべきであると考えた。C・D・Eは話し合いをしたが、C・Dは乙建物の占有者とするCを提案した。Eは反対したが、C・DはCを乙建物の占有者とすることを過半数により決定した。CはEに対して、乙建物の明渡しを求める訴えを提起した。Cの請求は認められるか。 ●参考文献● 片山直也・百選Ⅰ 150頁

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共有物の登記

公開:2025/12/12

Aは地方都市の資産家である。Aに配偶者はおらず、子X・B・C・Dがいる。 Aの子Bは、運送業をするなどして生計を立てていたが、賭博等により生活が乱れ、困ったあげく、2018年10月、中等学校の先輩であり、かつ、暴力団の副会長であるYから3500万円を借り入れた。 2021年9月9日に登記され、居宅が差押えされた。Aの死亡により、Aの唯一の相続財産であった本件土地は、Aの子X・B・C・Dが共同相続した。 Bは、2021年9月18日付けで、本件土地につき、同月9日相続を原因として、X・B・C・Dの持分を各4分の1とする所有権移転登記を行った。さらに、Yに対して、同月9日代物弁済を原因とするB持分移転登記が行われた。なお、本件土地のY持分の時価は約9億円であった。 2022年9月24日、BがAに対する殺人および現住建造物等放火の容疑で逮捕された。Bの供述によれば、動機は、返済に行き詰まったBが、Yから強要されたものであり、2020年10月頃、父A死亡によって法定相続された場合にBが取得する本件土地の持分を借入金の弁済に充てて弁済する旨の約定書類をあらかじめ準備していたとしていた。Bの刑事裁判は現在係属していない。なお、Bには子Eがいる。 Xは本件土地の共有持分権に基づいて、Yに対して、BからYに対する持分移転登記の抹消登記手続を請求できるか。 ●解説● 1. 共有者の1人による抹消登記手続請求 共有者の1人は、共有物について、共有持分権を有する。共有持分権は所有権の一種であることから、共有者は共有持分権に基づいて物権的請求権を行使することが認められる。 しかしながら、共有持分権に基づく抹消登記請求が認められるかという問題は、次の2点に留意して検討する必要がある。第1に、相手方が第三者であるか。それとも当該目的物の共有者であるか。第三者の登記原因として、その登記が無効であることと解されている。 第2に、共有者による登記原因として、その登記が無効であることと解されている。これによれば、共有者の1人は、登記原因が無効であることと解されている。 2. 本問における抹消登記手続請求 参考判例①からすると、本問におけるYは共有者の1人ではないため、共有者Xによる保存行為(252条5項)も、考慮するべきである。ただ、従来の判例によれば、抹消登記手続を請求した共有者は、他人名義登記によって自己の持分権を侵害されているという事情がある。これに対し、本問で登記手続請求を訴える者は、自己の持分権を侵害されているわけではない。なぜなら、共有者X自身は、自己の持分登記を備えているからである。そのため、Xは、自己の持分部分の抹消登記を請求することはできないのである。 しかし、参考判例③は、本問におけるXからの請求を認めた。その理由は、BからYへの不実の移転登記登記が、「共有不動産」に対する妨害状態を生じさせているから、とされている。共有者の1人は、持分権に基づき、物権的妨害排除請求権を行使できる。すなわち、不動産の共有者は1人でも、第三者に対して、物権的請求権(妨害排除請求)の行使として、自己の持分を超える部分について抹消登記手続を請求することができるわけである。この判例は、当該請求が物権的妨害排除請求権の行使であり、いわゆる保存行為(252条5項)に属するものであることを、請求の理論的根拠を表している。 3. 抹消登記請求権の根拠 参考判例①は、共有持分権に基づいて、共有物の妨害排除請求権の行使として、保存行為(252条5項)に属するものであることを、請求の理論的根拠を表している。 これに対し、参考判例②は、共有持分権と登記手続請求権を区別して、共有者の1人は、共有物について登記手続請求権を有しないと解するのが相当であると判示し、共有者の1人は、共有物について登記手続請求権を行使できないと解するのが相当であると判示した。 これによれば、共有者の1人は、共有物について、登記手続請求権を行使することができないと解するのが相当であると判示した。 共有者の1人による抹消登記手続請求が、保存行為という根拠を用いた理由の1つとして、第三者に対する場合に共有者の1人による抹使登記請求の理論的根拠を、第三者に対する場合に共有者の1人による抹消登記請求を認めるか。 4. 関連事案についての検討 共有者の1人が、第三者に対する抹消登記手続請求であれば、常に共有者の1人だけで請求が可能といえるか、という点である。 共有者の1人が、第三者に対する抹消登記手続を請求することができるわけではない。参考判例③は、X・A共有の不動産について、X・A・Yが、Yに対して抹消登記手続を請求することができるわけではないとした。 ●発展問題● Aは、長期で旅行した60代の女性。いろいろな社会事業を行っていた。Aは2022年10月27日に死亡した。Aの相続人は、妻のY、子のX・B・Cであった。長男のXは東京で生活していた。YはAの死亡後まもなく、本件不動産(土地・建物)について、相続を原因として、Y単独名義での所有権移転登記手続を行った。 ところが、Aは、2019年12月23日、XにB・C等の割合(各3分の1ずつ)で、本件不動産を遺贈するとの公正証書遺言をしていた。 Yが遺言書を偽造し、隠匿を原因とする上記所有権移転登記手続を行ったとして、Xは、Yに対して、本件不動産につき、Yへの所有権移転登記の全部抹消登記手続を請求できるか。 ●参考文献● 七戸克彦・百選Ⅰ 152頁 鎌田薫・リマークス29号(2004)14頁

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共有物の分割

公開:2025/12/12

甲土地と乙土地は、もとAが所有していた一筆の土地を分筆したもので、甲土地の東端と乙土地の西端とは隣接している。甲土地および乙土地は、各北端において幹線道路に面し、互いに交通至便な場所にあることから、周辺では収益物件の開発が進められている。甲土地および乙土地以外にも多数の財産を有していたAは、長男Bに甲土地を贈与してその旨の所有権移転登記手続を経由し、Bは甲土地を駐車場として使用収益している。乙土地はA所有名義のままで、その西側は遊休地となっており、東側3分の1部分には丙建物(1970年に新築された木造2階建)が存在している。丙建物の所有者名義人もAであり、次男Cが住宅として居住していた。 Aは、先立たれた配偶者との間にB、Cおよび長女Dの3人の子(いずれも成年に達している)をもうけたが、2023年5月1日、遺言をすることなく死亡した。 Bは、老朽化した丙建物を取り壊して乙土地全体を更地にし、甲土地および乙土地に賃貸マンション1棟を新築すれば一定の収益収入を得ることができるうえ、Cが上記賃貸マンションの1室に無償で住まわせて経済的に援助することもできると考え、乙土地全体の時価相当額の3分の1をCとDに支払ってBが乙土地を単独で取得する方向により乙土地を分割することを希望した。しかし、Cは丙建物の取壊しを名残惜しんで乙土地を持分3等分する方法により丙建物の敷地部分を現物で取得する分割を希望した。B、CおよびDは、乙土地・丙建物を含むA所有名義の不動産につき、2023年5月5日、相続を原因として持分3分の1とする各所有権一部移転登記を経た。その後、Cは遺産分割協議の申立ての時点で所在不明となり、遺産分割協議が調う見通しは立たなくなった。 ●解説● 1. 共同共有と共有物分割 E社は、乙土地および丙建物を前提に、CとDとの共有関係の解消を求めていることになる。CおよびDは、その相続分に応じてAの権利義務を承継した結果、乙土地および丙建物は、CおよびDの共有(持分各3分の1)となった(898条1項)。共有物の分割はいつでも請求できる(256条1項本文)ため、Dの申立ては共有者としての権利行使である。遺産分割の遡及効(909条本文)は共有物分割には適用されない。 2. 協議と裁判 共有物の分割は共有者間の協議によることが原則であるが、本問のように共有者間で協議ができないとき(Cが行方不明になっていることはこれに当たる)、裁判所に共有物の分割を求める訴えを提起することになる(258条1項)。遺産分割の協議後、裁判による分割、後者は各共有物分割(その結果は判決手続により、その効果を生ずるが、本問のように形成訴訟であり、判決において、その形成的な分割方法が定められる(訴訟形式)。 2021年改正民法は、民法258条を改正し、共有物の分割の方法として、「共有物の現物を分割する方法」(現物分割)と、「共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分を取得させる方法」(賠償による分割、いわゆる価格賠償)とを、並列的に、両者に優劣を設けない形で規定した。 3. 共有関係から生じる法律問題 本問では、BとC、Dとの共有関係が問題となる。乙土地および丙建物の分割を求める。Bの申し立てにより、地方裁判所による判決がなされ、共有物分割がなされることになる。 4. 本問の検討 本問のCは所在不明で、どのような分割方法を求めているか明らかでない。Dは、乙土地および丙建物自体に直接の利害を感じないのであれば、これらの価値の法定相続分に沿った額の金銭を遺産分割において支払いを求めることができることが確実である限り、現物取得自体にはこだわらないこともありうる。 他方で、Eが遺産分割において、遺産全体を一括して分割する必要がある。 ●関連問題● 本問の事実関係の下で、参考判例③の示した要件、特に、共有者間の実質的公平が害されないとの要件を満たすために、E社としては、どのような事情を裁判所に主張立証していく必要があるか。 ●参考文献● 本文中に掲げたもののほか、道野真弘・百選I 154頁 谷口賢彦・最判解平成25年度 547頁

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占有と相続

公開:2025/12/12

Aは所有する甲地(以下、「B」という)に、賃貸し、Bは甲地上に工場を建設して太陽光パネルの部品を製造していた。Bは甲の代表取締役であり、BはAの借入金会社に近い状況であった。 Bの経営が軌道に乗った1992年9月頃、工場を増築したため工場の敷地が手狭となった。そこでAは兄CにBの経営者の駐車場を探していると相談したところ、甲地に隣接するC所有の乙地について「大きなため池があって、ただ同然の土地だからお前の好きにすればよい」といわれた。Aは、ため池を埋めて駐車場として整備し、同年10月から乙地の大半をBに月極めで賃貸した(30区画)。乙地の駐車場収入は、月平均30万円程度であった。 2000年10月1日、Bが心筋梗塞で急死したことから、Aの1人息子で東京でサラリーマンをしていたDがBの代表取締役に就任し、Aの財産をすべて相続した。Aが死亡後、Dはめったに顔を合わせなくなり、2016年6月1日にCは病死した。 2020年7月末になって、Dは、長年の世話をしていたEから乙地の明渡しを求められた。Eは、2014年10月1日にCとの間で乙地につき贈与契約を締結したこと、同年10月15日付で贈与を原因としてCからEへ移転登記がなされていること、CがAに遊休地であった乙地を無償で貸与していたと主張している。しかし、Dは、CがAに乙土地を贈与してくれたと聞いていたことや、1989年度以降、乙地の固定資産税はAが死亡後のDが負担していたことから、2020年11月、Eに対して乙地の所有権移転登記手続を求めて訴訟を提起した。現時点は2021年10月とする。 ●解説● 1. 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求 Dは、乙地の登記名義人Eに対して、乙地の所有権が自己に帰属していることを根拠に、所有権に基づく妨害排除請求権を行使して、Dへの移転登記手続を求めることになる。これに対して、Eは、乙地の所有権が自分に帰属していると主張していることから、D・E間の争いは、乙地の所有権が自分に帰属していることを相手方に主張できるかという点にある。 本問では、Cが乙地の所有権をAに譲渡したと解する余地がある。しかし、Eは贈与を原因として移転登記を経由している。 2. 取得時効と登記 Dは相続を原因としてAの財産を包括承継しており、占有を相続した(187条)。Dは、Cの占有が開始した時点を、遅くとも1992年の10月である。非相続人の占有期間を通算すると、20年の非短期取得時効が成立するのは2012年10月10日となり、Eが完成後にCから贈与を受け、対抗要件を備えた第三者であり、Dは登記がなくとも、乙地の所有権を取得したことを主張できる。 3. 長期取得時効の主張と立証責任の構造 長期取得時効が成立するためには、20年間の、①所有の意思をもって、②平穏、かつ、③公然に、④他の物を占有していることが必要である(162条)。この要件のうち、今日では取得時効の対象は物の他人の物であることを要しないと判例・通説は解しており、③④については、民法196条1項によって、占有者は所有の意思をもって、善意(自分が本権者であると信じたこと)、平穏かつ公然に占有をなすものと推定されている。 4. 占有の二面性:相続は新たな権原か もっとも、Aの占有が他主占有であることをDが善意・立証したときには、相続人Dは、相続により占有の性質が変容したと主張することはできない。 5. 自主占有の主張と立証責任 相続人が自己の占有に基づき時効取得を主張する場合、相続人が被相続人の占有が他主占有であることを知りながら占有を開始した場合、相続人固有の現実の占有に三面性が認められるわけではない。相続人が占有について外形的な支配と意思に変化はない。相続人が引き続き占有を続けている点で自主占有から他主占有への転換を認める。 43 留置権の成立および効力 2024年4月1日、Xは、所有の甲建物を、Yに賃貸した。XとYの間の賃貸借契約では、賃料月額25万円、賃料の支払方法は、翌月分を当月末日までに支払うこと、賃貸期間は2年間であることが合意されていた。Yは、Xとの契約締結後、ただちに甲建物の引渡しを受け、居住を開始した。 その後、Yは、2025年2月分以降の賃料を支払わないので、Xが請求したところ、Yが賃料を減額してほしいというので、Xは、同月以降の賃料を月額20万円とした。しかし、Yは、同月以降の賃料を支払わないので、Xは、同月7月3日付けの催告で、同年7月15日までに、未払賃料6か月分を支払うように催告した。この催告は、内容証明郵便で、同月7日に、Yに到達した。 Yからの賃料の支払がないため、XはYに対し、2025年7月31日付け書面で、賃料不払を理由に、Yとの賃貸借契約を解除する意思表示をし、この書面は、同年8月1日、Yに到達した。 Yは、Xからの書面を受け取った後も、甲建物に居住し続けていた。同年8月末、台風に伴う豪雨のため、甲建物の屋根が損傷したので、Yは、A工務店に修理を依頼し、修理費用として、20万円を支払った。また、その頃、Yは、A工務店に依頼して、玄関に、システムキッチンの交換工事を行い、2025年9月20日、Yは、Aに工事費用50万円を支払った。 2025年10月10日、Yは、Xに対し、甲建物の明渡しを求めて訴訟を提起した。 この場合に、Yは、Xの明渡請求に対して、どのような反論をすることが考えられるか。そして、Yの反論は認められるか。 ●関連問題● Eが、DおよびBとCに対して土地の明渡しを求めて訴訟を提起した。本問と以下の点で異なる場合に、Eの請求は認められるか。現時点を2021年12月とする。 (1) Eは、2019年10月1日にCから乙地の贈与を受け、同年10月15日付でCからEに移転登記がなされた。 (2) Eは2020年12月に、乙地の回復請求訴訟を提起した。Eが訴訟を提起するまでに、AからもDからも乙地について移転登記を求められたことはなかった。 (3) CがAに乙地を贈与した事実も、AがCに乙地の利用について相談した事実も立証されなかった。しかし、2002年10月頃からAが乙地を利用していることはCは知りながらも異議を述べなかったこと、乙地の固定資産税については2010年度まではCが負担しており、Aが2011年10月1日に死亡後、2011年度からはDが負担していた。 ●参考文献● 満江春・民事法Ⅰ 281頁 菊川一、第一章・二、第二章・三 最判解民平成8年度91頁 中田裕彦・百選Ⅰ (2015) 130頁 大場浩之・百選Ⅰ 136頁

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留置権の成立および効力

公開:2025/12/12

2024年4月1日、Xは、所有の甲建物を、Yに賃貸した。XとYの間の賃貸借契約では、賃料月額25万円、賃料の支払方法は、翌月分を当月末日までに支払うこと、賃貸期間は2年間であることが合意されていた。Yは、Xとの契約締結後、ただちに甲建物の引渡しを受け、居住を開始した。 その後、Yは、2025年2月分以降の賃料を支払わないので、Xが請求したところ、Yが賃料を減額してほしいというので、Xは、同月以降の賃料を月額20万円とした。しかし、Yは、同月以降の賃料を支払わないので、Xは、同月7月3日付けの催告で、同年7月15日までに、未払賃料6か月分を支払うように催告した。この催告は、内容証明郵便で、同月7日に、Yに到達した。 Yからの賃料の支払がないため、XはYに対し、2025年7月31日付け書面で、賃料不払を理由に、Yとの賃貸借契約を解除する意思表示をし、この書面は、同年8月1日、Yに到達した。 Yは、Xからの書面を受け取った後も、甲建物に居住し続けていた。同年8月末、台風に伴う豪雨のため、甲建物の屋根が損傷したので、Yは、A工務店に修理を依頼し、修理費用として、20万円を支払った。また、その頃、Yは、A工務店に依頼して、玄関に、システムキッチンの交換工事を行い、2025年9月20日、Yは、Aに工事費用50万円を支払った。 2025年10月10日、Yは、Xに対し、甲建物の明渡しを求めて訴訟を提起した。 この場合に、Yは、Xの明渡請求に対して、どのような反論をすることが考えられるか。そして、Yの反論は、認められるか。 ●解説● 1. 賃貸不払による解除と明渡請求 賃貸借契約において当事者の一方が債務不履行をしたときには、相手方は、賃貸借契約を解除することができる。賃料の支払は、賃借人の義務であり、賃借人が賃料支払義務を履行しない場合には、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができる。2017年民法改正前の判例・学説においては、不動産賃貸借について、賃借人に賃貸借契約上の債務不履行がある場合でも、賃借人の行為が当事者間の信頼関係を破壊するに至らないときには、賃貸借契約の解除は認められないと考えられていた(信頼関係破壊の法理)。2017年民法改正後も信頼関係破壊の法理は否定されていないと考えられている。 本問では、賃貸人Xに対して相応の期間を定めて催告を行っているが、期間内にYは履行をしていないから、Xは賃貸借契約を解除することができる。そして、Yは、Xに賃料の減額を申し入れ、減額が認められても、6か月分の賃料を支払わず、賃料不払が継続するそれがあることを考慮すると、その信頼関係は破壊されているであろうから、契約の解除は否定されない。そうすると、Xによる契約の解除は認められることになる。賃貸借契約が解除により終了すると、賃借人は、賃借人に対し賃借物の目的物の返還を請求することができるから、本問のXのYに対する甲建物の明渡しを請求することができることとなる。 2. 留置権の成否 (1) 留置権の意義 たとえば、建物の賃借人が賃貸借契約期間中に賃貸人が負担すべき修理費用を支出しない(→賃貸人は、賃貸建物を修繕する義務(606条1項)を有する)場合に、賃借人は、賃貸建物に要した必要費の償還を請求できる。このときに留置権が成立する。 (2) 留置権の成立要件 民法295条1項によれば、留置権が成立するためには、①他人の物を占有していること、②その物に関して生じた債権を有すること(債権と物との間の牽連性)、③その債権が弁済期にないときは認められないこと(被担保債権の弁済期の到来)、④占有が不法行為によって始まった場合ではないことの4つが必要である。 (3) 被担保債権と物との牽連関係 留置権の被担保債権は、債権者が占有している「物に関して生じた」債権であることが必要である。この場合には、留置権が認められると、債権者は、目的物が弁済されるまで、その物を留置することができるのであるから、被担保債権と占有物の間に牽連関係があることは、重要な要件である。 (4) 不法行為によって占有が始まった場合 留置権は成立しない(295条2項)。Yの占有は賃貸借契約によって始まったものであり、権原のある占有であったから、占有が不法行為によって始まった場合に該当しないようにみえる。 ●発展問題● (1) Aは、自己の所有する甲土地をBに譲渡し、Bは甲土地の引渡しを受けた。Bが甲土地の所有権移転登記手続を行う前に、Aは甲土地をCにも譲渡し、Cは、Bよりも先に、甲土地の所有権移転登記を完了した。CがBに対して、甲土地の引渡しを請求したところ、Bは、Aの売買契約上の債務不履行によってAに対する損害賠償請求権を取得してこれを被担保債権に基づく留置権を主張したうえで、甲土地の引渡しを拒絶した。Bの主張は認められるか。 (2) Aは、Bに500万円を貸し付けたが、この間に、Bは、この貸金債務の担保として、B所有の甲建物をAに譲渡し、甲建物の所有権移転登記を経由した。甲建物のAへの譲渡後も、Bは、甲建物に居住していた。Bが、弁済期に貸金債務の弁済をしなかったのでは、譲渡担保権の実行として、甲建物をCに800万円で売却し、Cは甲建物の所有権移転登記を経由した。CがBに対して、甲建物の明渡しを請求したところ、Bは、Aに対する清算金請求権を有しており、この清算金請求権を被担保債権とする留置権を主張できることを理由に、Cへの甲建物の明渡しを拒絶した。Bの主張は認められるか。 ●参考文献● 古積健三郎・百選Ⅰ 162頁 道野真弘・リマークス20号(2000)14頁 鎌田薫=高見澤・民法Ⅰ 岡本裕樹・百選Ⅰ 山田卓生ほか『分析と展開・民法Ⅰ(第3版)』(弘文堂・2004)275頁 山田誠一・争点132頁

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動産質・権利質設定と転質

公開:2025/12/12

貴金属を営むAは、資金繰りに窮したため、2023年4月20日、店舗展示用の2000万円相当の宝石αを同業者Bに質入れし、返済期日を同年10月20日、利息月利1パーセント・遅延損害金月利1.5パーセントとして、500万円の融資を受けることとした。 (1) Bは、Aの承諾を得て宝石αを自己の店舗に展示していたところ、2023年5月25日、Aから、買物セールの展示用として宝石αを使いたいので、6月1日から2週間だけ返してほしいと懇願され、使用させることにした。ところが、2週間を過ぎても、Aは宝石αをBに返還しようとしない。BはAに対して宝石αの返還を請求することができるか。 (2) Bが宝石αをAの承諾を得て自己の店舗に展示していたところ、2023年5月25日、Aの元夫Cから、Aが買物セールの展示用として宝石αを使いたがっているので、6月1日から2週間だけ貸してほしいと懇願され、Bは、使わせることにした。同年5月30日、Bが宝石αをCに託した。ところが、そのような事実はまったくなく、騙されたと知ったBが、同年6月5日、Cに宝石αの返還を求めたところ、Cは、同月3日に同宝石を、事情を知悉した友人Dに500万円で売却し、同日Dに引き渡しがなされていた。BはDに対して宝石αの返還を請求することができるか。 (3) 2023年6月20日、BはAの承諾なしに、宝石αをさらに金融業者Eに質入れし、返済期日を9月20日、利息年利15パーセント、遅延損害金年利20パーセントとして、700万円の融資を受けた。同年9月20日、Bが返済を怠ったため、Eは、宝石αにつき動産競売を申し立てて、700万円および利息・損害金につき、弁済を受けることができるか。また、2023年9月20日、Aから500万円の弁済を受けることができるか。 ●解説● 1. 動産質権の設定、「引渡し」および「占有の継続」 動産質権の設定については、民法が、一方では、質権の効力において、質権設定契約の当事者による「代理占有」を禁止する(345条)一方で、質権設定の各則において、「占有の継続」がなければ、質権を第三者に対抗できないとの規定(352条)を置く。各規定の意味および相互の関係をどのように説明するか、民法解釈上の意見および近時の有力説は、占有担保の有する特徴的な機能にかかわっているからである。伝統的な通説は、「占有」要件を留置的効力に結びつけて説明する。すなわち、留置的効力を有する担保である質権の対抗効力として重視し、非占有担保である抵当権と区別する。これに対し、有力説は、「占有」要件を担保物権の価値と結びつけて説明する。すなわち、質権においても、優先弁済的効力が中核であり、留置的効力はそれを促進する補助的手段にすぎないとし、「占有」要件は、公示機能を補完するものとして対抗要件の枠組みが整理されている。 (1) 「引渡し」(344条) 目的物の引渡しが、物権としての質権の効力発生要件であることに争いがない。ただし、質権の設定においては、質権の設定者が本体とする占有の継続をすることができない。 (2) 「占有の継続」(352条) 民法352条は、動産質権について、「継続して質物を占有しなければ、その質権をもって第三者に対抗することができない」と規定する。 2. 動産質権に基づく返還請求 質権も、優先弁済的効力を有する価値支配権である点では抵当権と変わりはない。したがって、質権の担保価値の実現を妨げる妨害行為に対して妨害排除・予防請求をなすことができる。さらに動産については特定した上で、質権者は、質権占有を根拠とする占有訴権(201条)と質権に基づく物権的請求権(妨害排除・予防請求)の行使が可能である。ただし質権者は、不動産質権として(356条)、あくまでも留置を目的としたものであり(347条)、原状として、質権設定者の承諾がなければ保存行為を除いて使用収益権限は含まれない(350条による298条の準用)に注意を要する。 3. 転質の法律関係 質権も財産権(物権)であるから、仮に何らかの制約を伴うものではあるとしても、原則として、質権者はそれを処分することができ、その処分の効力として、質権(またはその目的物)を他の債権の担保に供することができる。質権は、自己の債権について質権を行使することができるのが規定(348条)とともに、質権設定の承諾がなければ質権を担保に供することができないとの規定(350条が準用する298条2項)が存在するために、解釈上の疑義が生じた。しかし、大審院連合部決定は、それまでの判例を変更し、質権者が質権設定者の承諾を得ないでなしに転質もなし得る(責任転質)。 ●関連問題● (1) 本問(3)において、主たるAの所有物ではなく、AがDから預かっていた宝石を質入れしていた場合は、AとDとの間の法律関係はどうなるか。 (2) 本問(3)において、AがBの質権設定につき、流質契約をしていた場合はどうなるか。 ●参考文献● 林良平『質権設定と代理占有』 林良平『物権法講義Ⅱ動産担保』(有斐閣・1989)130頁 伊藤進『質権』 石川浩平=加藤新太郎『新・註釈民法(2)物権⑵』(有斐閣・1979)161頁

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債権質・担保価値維持義務

公開:2025/12/12

A株式会社は、2021年11月1日、B社から、建物の事務所部分を期間2年、賃料月額600万円(支払期限は各前月末日)で賃借し、その引渡しを受け、Bに対して敷金として合計6000万円を差し入れた。2022年11月1日、Aは、C銀行に負担する一切の債務の担保(被担保額5000万円、元本確定期日2023年10月31日)として、AがBに対して有する敷金返還請求権に質権を設定し、Bは、確定日付のある証書により本件質権の設定を承諾した。なお、2023年2月20日の時点で、Aには1億円余の銀行預金が存在していた。 (1) (a) 2023年2月20日、BとDの間で、賃貸借契約を更新せずに、同年10月末日で終了させることとし、同時に敷金を1200万円に変更して、3月分以降の賃料を支払わず、敷金の差額(4800万円)の返還債権で相殺する旨の合意(本件合意ⓐ)をなした。同年6月20日、本件合意ⓐに気づいたCは、A・Bに対して、いかなる請求をなすことができるか。 (2) (a) Aが、2023年2月20日、BとDの間で、同年10月末日で賃貸借契約を更新せずに終了させることとし、敷金を未払賃料に充当する旨の合意(本件合意ⓑ)をなした。同年10月31日、本件賃貸借が終了し、本件敷金6000万円のうち5000万円が本件建物の修繕費に充当された。A・B間の賃貸借契約の終了および敷金充当を知ったC(確定した被担保債権は4000万円)は、A・Bに対して、いかなる請求をなすことができるか。 ●解説● 1. はじめに 債権質は、物ではなく債権(権利)を担保目的とするゆえに、設定者は、債権を放棄するなどによって容易に担保目的である権利を消滅・変更させることができる。そこで、判例は、質権設定者に対して、設定者は、債権の担保価値を維持すべき義務(担保価値維持義務)を負うとし、債権の放棄・免除・相殺・更改等当該債権を消滅・変更させるなど担保価値を毀損する行為を行うことは、同義務違反として許されないとする。 2. 担保価値維持義務 設定者が、自己の所有する物(不動産・動産)ではなく、自己の権利を担保価値の目的とする場合がある。民法は、権利質について「質権は、財産権をその目的とすることができる」(362条1項)との定めを置く。具体的には、債権質、特許権、信託受益権などであるが、その他、権利を担保の目的とする例としては、地上権・永小作権への抵当権の設定、転質・転抵当などが挙げられる。 これらを仮に「権利の担保」と称するならば、「権利の担保」においては、設定者が仮に「権利の担保」と称する利益を放棄するなど、設定者の意思によって、容易に担保目的である権利を放棄するなど、設定者の意思によって、担保価値が毀損されることを防止するために、権利を変更することができないこととなる。そこで、担保目的である権利を自由になしうることを前提としたうえで、担保権者に放棄を対抗できないとか、第三者の権利を害することができないとの規定(地上権・永小作権を目的とする抵当権につき398条、質権の承諾を得た場合における質権設定者の権利処分につき97条など)が置かれている。さらに、債権質や転質・転抵当については、条文は存在しないが、解釈論として、設定者は、質権者に質権を対抗できない(相殺を承認した参考判例①)、あるいは、原抵当権者は、原債務者と原抵当権を消滅させないなどとされた(これらは一般に「設定者の拘束」と呼ばれる(新田渉・「民法における権利拘束の原理」法学研究38巻1号(1965)221頁参照)。 3. 建物賃貸借における敷金返還請求権の基準 建物賃貸借において、敷金返還請求権は、賃貸借の終了後、建物の明渡しがなされたときに、賃貸借から生ずる一切の債務を控除した残額について発生する(最判平成22・9・6判時2096号66頁)。この敷金は、担保価値維持義務という視点から論ずることができるよう敷金返還請求権の性質を分析することが、敷金返還請求権を目的とする担保設定の法的問題を解明するうえで重要である。 4. 担保価値維持義務違反の効果 担保価値維持義務違反については、以下の効果が想定される。 ⓐ 設定者は、被担保債権の期限の利益を喪失する(137条参照)。 ⓑ 担保権者は、設定者に対して、増担保請求および代わる担保価値請求をなすことができる。 ⓒ 増担保請求については、債権者の意思表示により特定の対象物件についてただちに担保権が設定される(形成権説)のではなく、債権者が債務者に対して特定の対象物件につき増担保の設定を請求したならば、債務者は承諾するかまたは協議に応じる義務を負うにとどまる(請求権説)と解されている(東京高判平成19・1・30判タ1252号252頁)。

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物権的請求権と費用負担

公開:2025/12/12

Aは、田舎で週末を過ごしたいと考え、甲山にある、別荘用地に適成された乙地をBから購入して、そこに5年前にログハウスを建てた。 一方、Bも、少年時代に、自宅を建設するために、乙地の隣にあり、乙地より少し低い場所にある丙地を購入した。Bから丙地の建物を建てるという話を聞きつけたC社は、丙地が山の斜面に位置していたことから、大型のブルドーザーでかなりの深さまで丙地を掘り下げ、土砂を乙地との境界線にする丙地の西側の一面に高く積んだ。AはCの現場監督から、基礎工事が完了した後、この土砂の一部を埋め戻す予定であると説明を受けていた。 翌年、Aが別荘を訪れたところ、上記の土砂の一部が乙地に崩れ落ちており、Aは自動車の出入りができなかった。そこで、Aは、早速Cに連絡を入れたが、週末のせいか連絡がつかなかった。ところが翌週、地元の新聞報道で、Cが事実上、倒産したことを知った。困ったAは、Bに対し、乙地の土砂を除去すること、降雨の季節になり、このまま土砂の上に別の土砂を放置すると大量の土砂が乙地に流れ出るおそれがあることから、甲地にある土砂を埋め戻すとか、乙地に土砂が流入しないような対策を施すよう求めた。しかし、BはCの工事が原因であるとして、まったくAの請求に応じない。 また、丙地にある立木の枝が乙地に張り出しており、AはAに枝の切除を求めたが、これも応じなかった。Aはやむなく工務店に依頼してこれらの処置をしてもらい、その費用の返還をBに請求した。Aの請求は認められるか。 ●参考判例● 大判昭和12・11・19民集16巻1881頁 最判平成6・2・8民集48巻2号373頁 ●解説● 1. 所有権に基づく請求権とその相手方 乙地の所有者であるAは、丙地の土砂によって乙地の利用が妨げられている。このように所有権の侵害が侵された場合、所有権が円満に実現できるように、所有者には、所有権に基づいて妨害排除(物権的請求権)が認められている。明文の規定があるわけではないが、所有権は、物の価値を排他的に直接支配することができる権利であるから、それが妨げられた場合には、上記の請求によって保護される必要があると解されている。 ①物の占有を喪失している場合には、所有権に基づく返還請求権、②物の占有が奪われていないが、占有以外の事由によってその支配が妨害されている場合には、所有権に基づく妨害排除請求権、③物の妨害のおそれが大きい場合には、所有権に基づく妨害予防請求権がそれぞれ認められている。もちろん所有権が侵害ないし侵害されるおそれがある場合には、不法行為に基づく損害賠償請求権や差止請求権が認められる余地があるが、所有権に基づく請求権(物権的請求権)は、所有者が妨害状態にあることを主張・立証すれば足り、相手方の故意・過失の主張・立証を問題とすることなく、現実の所有権を侵害している者、またはそれをおそれさせている者に対して認められることになるから、きわめて強力な救済手段となる(最判名義人であるAも、請求の相手方となるかについては、末尾の関連問題参照)。 本問では、①乙地への妨害ないし妨害のおそれは存在している、②乙地はCから丙地を譲り受けている、③AはCに対して不法行為に基づく損害賠算請求ないし差止請求権、所有権に基づく妨害排除請求権・妨害予防請求権を主張できるだけでなく、土砂の所有者Bに対しても土砂の除去や今後の予防措置を講じるように請求できるかが問題となる。 2. 行為請求権に対する批判 妨害物ないしそのおそれがある土砂の所有者がBであることから、土砂の除去や今後の予防措置を講じるように請求できるとする考え方は、学説上、行為請求権説と呼ばれている。上記の見解につき、妨害排除ないし妨害予防のために一定の行為を講じる債務負担なしに妨害しなければならないことになる。しかし、侵害行為に直接関与しているわけでもないBに、なぜこのような費用負担を求めることができるのだろうか。また、乙地に流入した土砂に着目すると、土砂の所有権はBにあることから、BはAに対して所有権に基づく返還請求権を根拠に、土砂の引渡しを請求してくることが考えられる。行為請求権説によれば、AがBに土砂を引渡すように求める請求権を行使すると、Aの費用で土砂をBに引き渡すように求めることかできうることになり、Aが土砂を除去してBに返還する費用を負担しなければならないことになる。このように所有者に物権的請求権が認められているといっても、このような内容の請求権であるのならば、必ずしも明らかではない。 そこで、所有権に基づく請求権は、所有権の実現が侵害されている状態から所有者を解放することを請求する権利であると考えるべきであるから、費用負担については、妨害請求権を行使する者がさしあたりは負担すること、侵害行為者が所有者の故意・過失によって生じている場合には、妨害請求権を行使する者の不法行為責任を追求することによって、費用負担を侵害として相手方に請求するべきであるとする見解が登場することになった。このような見解を忍容請求権説と呼んでいる。 3. 衝突が定量的に妨害の除去を不可能にする場合 侵害者が自発的に妨害の除去をしないとき、実質の除去は代替執行の方法によって行われる(414条1項、民執171条)。したがって、侵害行為者が侵害者の故意・過失によって生じている場合、妨害請求権を行使してその費用を自分で負担しえたうえで、相手方にその賠償を請求すること(414条2項)、相手方の費用で除去行為の請求を求めることは実質的には大きな違いはないように思われる。問題は、本問のように、第三者の行為によって侵害行為が生じたような場合に、自己の費用で妨害の除去を行うのが、侵害行為が侵害者の故意・過失によって生じているわけではない場合である。 4. 枝の切除権と費用負担 立木の枝についても、Aは、Bに対して枝の除去を請求できる(233条1項)が、理論的には土地所有権に基づく妨害排除請求権が根拠となる。Aは、Bに枝の切除を催告し、相当の期間(竹林の所有権者が自ら切除するために必要な期間は2週間程度と考えられている)が経過した場合、Aに切除権が認められる(同条3項)。Aが自ら切除する行為は、Bの所有権侵害となる可能性があるが、①Bの木の枝によって、Aの所有権が妨害されている点と、②Bの費用で切除する場合の、Aの所有権が妨害されているからといって、無制限に費用負担を相手方に求めることができるとは考えにくい。この場合には、妨害請求権の相手方のみが費用を負担するという結論が適切なのかどうかについても検討の余地があるように思われる。 このような考えに基づくと、台風、集中豪雨、地震などの自然現象が加わる場合には、いかなる意味で相手方の行為に基づいたといえるか、債権者、債務者、連帯保証人、物上保証人、担保不動産の第三取得者との間での費用負担について、債権者には、債権保全のための費用を請求できるか。 5. まとめ 客観的に違法な状態として、Aに所有権に基づく妨害排除請求権だけを認める(物的請求権)とともに、①Aに特別の権限を付与し、自主的救済を一定の要件の下で認める、②切除行為が正当行為・やむを得ない行為を認めたものと解される。Aは、Bに切除行為の費用を請求して訴訟を提起しているが、前述したように、所有権に基づく請求権をBに通告して判断の機会に与えて、Bが切除すべき行為をAが肩代わりしたことになるから、AからBに対する費用の返還請求が認められるものと解される。 なお、越境した根については設問の除去を請求できるとする規定が置かれていない。これは、隣地に侵入した根は土中に癒着しており、隣地の所有権(本問ではAの所有権)の一部であり(86条)、隣地所有者は竹木の根の切り取りができるからである(233条4項)。根の除去を自己の処分と捉えるか、切除費用を竹林の所有者に請求できない可能性があるが、所有権による越境行為によって隣地所有権が負担を強いられた財産権を侵害されたと考えれば、この場合にも、民法709条に基づいて損害賠"償請求権を行使することができるものと解される。 ●関連問題● 本問において、Aは、Bに対して乙地の土砂を除去せずに乙地をCに売却し、AはBとCとの間で乙地の紛争があることを知ったBがAとの間の問題を処理するまで丙地の移転登記に協力しない旨を主張している。BとDへの請求権の行使は完了しているが、丙土地の所有者はDであると主張して、Aからの請求を拒むことができるか(参考判例①および参考文献参照)。 ●参考文献● 奥田昌道・法教198号(1997)7頁 山木和雄・争点89頁 米倉明・百選Ⅰ102頁 鎌田薫・平成6年度判例68頁 横山善廣・石黒一憲・物権と担保物権(有斐閣、2005年)23頁

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物と添付

公開:2025/12/12

2024年6月10日、レストランを開業する目的で、B所有の飲食店用の甲建物を期間5年、賃料月額30万円でBから賃借し、甲建物の引渡しを受けた。甲建物の間取りはあまり十分な設備が備わっていなかったので、Aは、Bの承諾を得たうえで、厨房に調理台とオーブンを備え付け、より大容量の電気と水道が使えるようにするために電気・水道の引込設備を新たに設置した。 Aのレストランは好評で、開業してから半年後には多くの客が訪れるようになった。そこでAは、甲建物の客席部分を増築して客席を10席程度増やしたいとBに申し入れたところ、Bから承諾を得られたので、そのための工事を建築業者に依頼し、客席部分の増築工事を完了した。 その後、Aは有名レストランで修行するため、A・B間の甲建物の賃貸借契約は更新されず、期間の満了により終了した。Aは、この間の設備の設置や増築工事にかかった費用について、Bに支払を求めたと考えている。AのBに対する請求は認められるか。なお、A・B間には、この点について特に合意はなかったものとする。 ●参考判例● 最判昭和44・7・25民集23巻8号1627頁 ●解説● 1. 問題の所在 賃借人が費用を支出して賃借物に附属させた場合に、賃貸借契約が終了したとき、その費用ないし附属物をめぐり、賃貸人と賃借人との間の法律関係はどうなるだろうか。この問題は、賃貸借契約に関するルールのうち、賃借人が賃貸人に対して必要費および有益費の償還を請求しうること(608条)、賃貸借契約終了時に賃借人は賃借物に附属させた物を収去する義務を負う(および附属物を収去する権利を有する)こと(622条・599条1項・599条2項)などがかかわる。他方で、B所有の甲建物とA所有の各種の物が結合している点では、不動産の付合(242条)の場面である。これらのルールの絡み合いをどのように整理するかが、本問のポイントである。 (1) 附属物が賃借物の構成部分となった場合(付合) 賃借人が費用を支出して賃借物に附属させた場合に、附属物が賃貸借の目的物に付合したときは、賃貸借終了時に、附属物が賃借物に付随したまま、その附属物を収去する義務を負うのが原則である(622条・599条1項本文)。 しかし、壁紙や床板の張替えのように、附属物が賃借物と一体化(強い付合)してこれを分離することができないか、または、附属物を分離することができない状態あるいは分離するのに過分の費用を要する状態に当たるときは、賃借人は、その附属物を収去する義務を免れる(622条・599条1項ただし書)。この場合には、賃借人は附属物を収去する権利も有しない(622条・599条2項)。 これを所有権の帰属の観点からみると、附属物が賃借物と一体化し(強い付合)、両者が合体して一つの物となったと評価されるので(243条)、不動産の所有者である賃貸人が、附属物の所有権を取得する(242条本文、不動産の所有権が毀損されるような場合は「強い付合」とされ、同条ただし書の適用はない)。権原を有する者が物を附属させても附属物の所有権を留保することはできないと解されている。 以上の場合には、賃借人は、附属物を収去する義務も権利もない代わりに、賃貸人に対し、支出した費用か増加益のいずれかについて費用償還請求権を行使する(608条)。付合の観点によれば、賃借人は民法248条に基づいて賃貸人に対し償還請求権を行使することも考えられるが(608条と248条では償還額の内容や行使期間に違いがあり、248条は賃貸借における当事者間の利害調整を踏まえた特別に設けられた規定であるから、賃貸借契約の当事者間ではもっぱら同条が適用されると解されている)。 (2) 附属物を賃借物から分離することが物理的に経済的にも容易な場合(弱い付合) 附属物が、原則どおり、賃貸借終了時に附属物を収去する義務を負うとともに、附属物を収去する権利を有する(622条・599条1項・599条2項)。所有権の帰属からみると、この場合は「主として付合した」(242条本文)ものとみることはできない。この場合は、附属物の所有権は賃借人のまま変わらない。そして、収去を前提とすると、賃借人の賃貸人に対する費用償還請求権は生じない。 以上の民法のルールを修正するのが、造作買取請求権である。造作とは、「建物に附属した物」に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるもの」をいう(最判昭和29・3・11民集8巻3号672頁)。この定義にあるように、造作は建物に附属させることでその効用が十分に発揮されるが、建物とは独立して賃借人の所有の対象となる(⒝に含まれる)から、賃貸借終了時には収去の対象となる。しかし、このような造作の収去を強いれば、建物のために投下した資本の回収を図ることができず、また、建物の社会的経済的価値も減少してしまう。そこで、借地借家法33条1項は、賃貸人の同意を得て建物に付加した造作について、賃貸人は、期間満了または解約申入れによって賃貸借が終了するときに、賃借人に対し、その造作を時価で買い取るべきことを請求することができるとした。賃借人が造作買取請求権を問題とすることなく、現実に他人の所有権を妨害している者、またはそれをおそれさせている者に対して認められることになるから、きわめて強力な救済手段となる(最判名義人であるAも、請求の相手方となるかについては、末尾の関連問題参照)。 (3) 附属物がものとの中間的な状態の場合 近時の学説は、建物の附属には①の中間的なものがあると考え、所有権の帰属も必ずしも一義的・明確には決まらないことから、第三の類型を認めている。これによると、収去可能な附属物を収去するのに過分の費用を要するため、収去すると附属物の価値を減少させてしまい、収去は経済的に無意味になる場合がある。この場合、賃借人は、収去請求権と費用償還請求権とを選択的に行使することができることになる。すなわち、賃借人は、賃貸借終了時に、①と同様に附属物を収去して所有権を収去するか、あるいは、⑥と同様に附属物の収去義務を免れつつ、賃貸人に対して費用償還請求を行うのが原則である。これが付合の観点からみれば、附属物には建物の不動産に「主として付合した」が、附属物の構成部分になっていない状態(弱い付合)といえよう(独立した)。賃借人が権原(賃貸借契約に基づき所有権を留保して附属物を所有権の客体とすること、そして、賃借人は、附属物の所有権を留保して附属物の所有権を行使することができるが、一方で、附属物の所有権を留保して附属物の所有権を賃借人に取得させることによって、附属物の効果を生じさせることもできる。 このように解すると、従来の付合によって所有権の帰属・消滅を論ずることが⑤の場合にも広がる結果、⑥の場合(実は収去の対象となり費用償還請求の対象とならない)に認められる造作買取請求権を適用する必要がなくなってしまう。 3. 同時履行の抗弁権と留置権の可否 AのBに対する費用償還請求が認められる場合には、賃貸借契約の終了に基づきBが甲建物の返還を請求してきても、Aは、Bからの費用償還があるまで、その返還を拒むことができる。費用償還請求権は甲建物に関して生じた債権に当たり、Aは甲建物について留置権を有するからである(295条1項本文)。ただし、Bの請求により、有益費の償還について裁判所が相当の期限を許与したときは(608条2項ただし書)、有益費償還債権の弁済期が到来していないことから、Aは留置権を主張することができない(295条1項ただし書)。 これに対して、Aが造作買取請求権を行使した場合には、Aは、Bから造作代金の支払があるまで、甲建物の返還を拒むことはできない。造作代金債権は(甲建物ではなく)造作に関して生じた債権であるため、甲建物について留置権の成立が認められず、また、造作代金債務と建物返還債務は発生原因が異なる対価的な牽連関係が認められないため、同時履行の抗弁権(533条)も認められないからである。 4. 賃借人が建物を増築した場合の法律関係 賃借人が建物を増築したうち、賃借人が増築した部分については、以下の点に注意を要する。 増築部分が建物に付合することか否かを判定し、増築部分を独立の所有権の対象とすることと、建物の一部について、建物とは独立の所有権の対象とすることを区別する。しかし、これを区別すれば、排他的支配を配慮できる地盤の範囲が不明確となり、取引の安全を害する。そこで、判例は、増築部分に構造上・利用上の独立性(区分所有権1条参照)が認められない場合は、増築部分は建物に常に付合し、建物の所有者(賃貸人)の所有となると解している。そのうえ、たとえ賃借人が賃貸人の承諾を得て増築していても、民法242条ただし書の適用はなく、賃借人は増築部分の所有権を取得することはできない(最判昭和36・10・29民集17巻9号1236頁、最判昭和40・6・13民集22巻8号1183頁、参考判例①等)。この場合には上記2①のように、賃借人は増築部分を収去する義務を負わない反面、増築のために支出した費用について、民法608条2項の要件を満たせば、賃貸人に対し、有益費として費用の償還を請求することができる。 本問の増築部分については構造上・利用上の独立性が解されるから、以上の処理が妥当する。そして、民法608条2項の要件を満たすならば、AのBに対する有益費の償還請求が認められる(上記3参照)。 なお、本問のように増築部分に独立した独立性が認められる場合は(関連問題3)、民法242条ただし書の適用があり、付合によって所有権が判断される。その際に、Aの建物賃借権は、民法242条ただし書の権原には当たらないと解されている。建物賃借権は、建物に増築する権能や増築部分の所有権を賃借人に留保する権能を賃借人に当然に与えるものではないからである(606条参照)。また、増築に対するBの承諾も、ただちに上記の権原となることはできない。このような承諾は通常、Aが建物をしても用法遵守義務(616条・594条1項)の違反による債務不履行にはならないための承諾にすぎず、増築部分の所有権をAに留保する趣旨までは含んでいないからである。そうすると、Bの承諾がこのような趣旨まで含んでいる場合にのみ、民法242条ただし書の権原があることを理由に、増築部分の所有権がAに留保され、賃貸借終了時、Aは増築部分の所有権を主張することができる(他方で、賃貸借終了後もAの区分所有権が存続するためには、Aが甲建物の敷地の利用権を有している必要がある。しかし、Aが増築するに当たり、敷地の所有者(Bが敷地の所有者であることも多いだろう)が敷地の利用権までAに認めることはあまり考えられないだろう。このように、Aが増築部分の区分所有権を留保したとしても、それが存続するとは限らない点にも注意する必要がある)。他方で、この場合は上記2(2)(附属物が③との中間的な状態の場合)に当たると解されるから、民法608条2項の要件を満たすならば、Aは、増築部分の所有権を主張せずに、Bに対する有益費の償還請求を選択することもできるだろう。 ●関連問題● 本問において、Aが甲建物の賃貸借契約期間中に以下の工事をした場合、賃貸借契約終了の時に、Bに対してどのような請求をすることができるか。 レストランのトイレの床が傷んでいたため、内装業者に依頼し、トイレの床のタイルの張替えをした場合 Bの承諾を得て、レストランの客席部分には建物埋込式(取外しが比較的困難)のエアコンを、厨房には壁に取り付ける形のエアコンを、それぞれ設置した場合 Bの承諾を得て、イートインコーナーとして、15名収容のプレハブを甲建物に接続する形で増築したところ、このプレハブに構造上・利用上の独立性が認められると評価された場合 ●参考文献● 水津太郎・百選Ⅰ 148頁 中田405頁 鎌田薫「不動産の付合」同『民法物権法①(第4版)』(日本評論社・2022)201頁 同「所有」「建物賃貸借と留置権」山田卓生ほか『分析と展開・民法Ⅰ(第3版)』(弘文堂・2004)275頁

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取消しと登記

公開:2025/12/12

Xは、Bの詐欺行為により、Bの支払能力につき錯誤に陥り、本件契約の意思表示を行った。したがって、本件契約の効力に関するXからの主張としては、①詐欺(96条1項)、または②錯誤(95条)に基づく意思表示の取消しが二応考えられるが、相手方の支払能力に対する錯誤は法律行為の基礎とした事情についての錯誤(同条1項2号)であり、錯誤に基づく取消しの可否については慎重な検討を要する(→本章Ⅲ)。そこで、本問では①の主張に焦点をあてる(詐欺取消しの要件の詳細は→本章Ⅲ)。意思表示が取り消されると、当初から無効であったものとみなされる(121条)。そして、売買契約の遡及的無効と連動して、売買契約に基づく所有権の移転の効果も生じなかったことになる(物権行為の有因性)。売買契約に基づく所有権の移転が遡及的に消滅すると、所有権はAに復帰する(物権変動の復帰的効果)。 しかし、判例・通説は物権行為の独自性を認めていない。したがって、Xは、取消しの意思表示を行ったうえで、甲の所有権は一度もBに移ったことはなく、自分がなお甲の所有権者であると主張し、所有権の保全に必要な措置をとる。 2. 所有権に基づく妨害排除請求としての登記請求 甲の所有権を保持するとするXの関心は、Y名義の登記を自己名義に戻すことにある。甲の所有権をYが保有することは、Xの所有権をYが占有以外の方法で妨害するものとみられるから、ここではYの所有権に基づく妨害排除請求権が問題となる。Yは名義を「戻す」ためには、Xのような請求を理由とするのであれば、物権変動の過程を忠実に反映するという登記制度の理念を重視すれば、実体法上は存在しない物権変動の登記を抹消するのが正攻法であるが、たとえ登記記録上は、X→B→Yと権利が移動しているようにみえても、取消しにより、X→Bの物権変動は最初から無効となり、その結果B→Yの物権変動も無効に終わる。したがって、Xは、B→Yの移転登記の抹消に加え、Bも被告としてX→Bの移転登記も抹消させて抹消すべきことになりそうである。 しかし、登記実務は、Yの移転登記による名義の回復を認めている。その背景には、現在の権利の帰属状態を正しく公示できる限り、これまでの経過に登記制度の理想が多少犠牲になってもやむを得ないとする考え方がある。Xの登記原因は「真正な登記名義の回復」として、Yのみを訴えて登記名義を回復できるので、抹消登記を重ねるよりも簡便である。したがって、本問の訴訟物は所有権に基づく妨害排除請求権たる所有権移転登記請求権となる。 3. 詐欺取消しと第三者 詐欺取消が対抗力ある制度である場合には、Yに及ぶ取消の効果のすべてが第三者との関係で貫徹される。②における主張が無制限に認められるところ、ところが取消原因が詐欺の場合には、取消権を行使した者は取消しの効果を善意・無過失の第三者に対抗できない(96条3項)。同条同項の規定は善意者保護規定および対抗要件規定についても存する(消費者契約4条5項)。まずこれらの第三者保護規定の要件を確認しておく必要がある。 本問において、仮にXによる取消の意思表示が9月7日になされたとしよう。Yは、甲の権利者であるBと契約を締結した後に、そのXが取消権を行使した権能であり、無償的に権利をBに取得したもので、複数された権利を譲渡された者ではなく、これが取消しの効果が害されるので、Yからの信頼を保護する必要がある。 そのためには、取消の意思表示がなされた96条3項である。すなわち、同条は、取消しの遡及効を善意無過失の第三者に対する関係で制限する規定であり、「第三者」に取消前に出現した者のみを想定している。そうすると、本問のように、取消後に出現したYとXとの関係には同条は適用されないことになる。また、第三者は取消権を行使した者と対抗関係に立つわけではないから(X→B→Yと転々と譲渡された場合のY・Xは互いに対抗関係に立つ「第三者の関係」ではない)、Yは遡及的に無権利者Bと取引したことになる。第三者が同条による信頼保護の要件を充足するためには、第三者は対抗関係にあるXと信頼保護の要件を充足するための取引をする必要はない(参考判例①)。 4. 取消しによる物権変動の遡及的消滅と民法177条 それでは取消後の第三者との関係はどのように処理するのか。判例は、X・Yの関係に民法177条を適用し、取消権を行使したBを基点に、X→Yの関係にあるYに物権変動の遡及的消滅を対抗することができないとする。3の「取消前の第三者」の場面では、Yに物権変動がB→Yの所有権を「復帰」を登記するまでは対抗的に不可能である。これに対して、本問の場面では、Xの取消の意思表示後、未だに登記名義はBのままであるため、Yは二重譲渡と何ら異なるところがない登記を備えた第三者との関係で処理する(参考判例①)。判例の考えによれば、登記を先に備えた者が所有権を取得する(背信的悪意者あるいは登記欠缺の主張を正当な利益を有しない背信的悪意者(判例信義則に反する事情の当否)に当たる場合を除く)。Xは登記を備えていないので、Yの取消しの事実を知らずに登記したY(善意の第三者)に対し、Xの登記なくして所有権取得を「復帰」の主張に対し、Yは反論として、Xの登記欠缺を主張して取消しの効果を否認することができる。 上記に述べた取消原因は原則として登記原因の種類も問わず、制限行為能力を理由とするものであっても異ならず、公序良俗違反を理由とするものでも異ならない(参考判例②、③)。 5. 学説による代替提案 そこで、第一に、取消後の第三者との関係でも、取消しの遡及効を貫徹したうえで、端的にその外観(不実登記)から無権利者Bを権利者と信じたYを保護するために、民法94条2項を類推適用する説が登場した。この見解によれば、合意の当事者が第三者保護を受けるのに対抗要件を備える必要はないと解されており(真の権利者)、仮に登記のB名義のままでも、第三者に影響を及ぼし、信頼したYが保護される。他方で、回復登記の過程には真の権利者(X)側の帰責根拠として、外観に対する意思的関与(承認または放置)が必要とされる(判例94条2項・110条類推適用)。そこでは、取消の意思表示に従ったというXの不作為は、過失はあるが帰責性はない、とする。当然に製造の基礎があるとはいえないが、Yが保護されるかどうかはケース・バイ・ケースというほかない。本問のように、Xによる取消後、同覚をいずれBが転売した場合、そもそも「放置」とすら評価できず、Xは自己の所有権をYに主張できると考える。 第2に、4の末尾で指摘した問題に対処するため、取消前の第三者との関係にも対抗要件主義を徹底しようとする学説が存在する。すなわち、取消可能な状態が到来して以降、取消権者は速やかに取消しの意思表示をして物権を回復すべきであるのに、これを怠った不注意がある。そうした不注意を登記の懈怠と同等に評価し、取消しの遡及効を取消前の第三者との関係においても制限して、対抗問題として扱うべき場合があるという。しかし、この説に対しても、それは取消権行使の前提においてはいかなる意味でも物権変動を観念することができる。また、本来の適用領域を逸脱しているうえ、意思表示を取り消すかどうかは取消権者の自由であり、取消後における登記回復と取消権の緩慢さとの帰責の観点から同列に論じるべきではないし、さらに取消権能という基準時は曖昧すぎて実用に堪えない、等の問題点が指摘されている。 ●関連問題● 本問において、8月31日の到来後も、Bが残代金を支払わないため、Aは、9月1日に、1週間以内の支払を催告し、同月8日までに支払がないときには契約を解除する旨を内容証明郵便でBに通知した。それでもBが残代金を支払わなかったのでは、同月10日に売買契約を解除する旨の通知を内容証明郵便で発送し、通知は翌日にBの事務所に到達した。 (1) XはYに対して、甲につきどのような請求をすることができるか。またYはどのような反論が可能か。 (2) 本問における設定と異なり、BからYへの転売が8月30日ではなく、9月15日に行われた場合はどうか(参考判例①参照)。 ●参考文献● 金子敬明・百選Ⅰ 112頁 竹中悟人・百選Ⅰ 48頁 鶴藤倫道・百選Ⅰ 114頁 呉―問答24頁 Before/After22頁(奥田・消費者契約)

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