遺産分割のやり直し
Q&A 弁護士のための相続税務70
課税処分に不服があるとき
Q: 税務調査を受け税務署の指摘に従い修正申告書を提出したところ、重加算税の賦課決定通知書が届きました。また、その後、延滞税等のお知らせが届きました。 A: 税務署長又は国税局長(以下「税務署長等」といいます。)が行った更正・決定などの課税処分、差押えなどの滞納処分等に対し不服があるときは、その処分を行った税務署長等に再調査の請求を行うか、国税不服審判所に審査請求を行うことができます。 一方、納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定する国税(延滞税)については、不服申立てを行うことはできません。 解説 (1) 再調査の請求の請求先等 税務署長等が行った更正・決定などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、審査請求の前段階として、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うことができます。 また、納税者の選択により、直接,国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うこともできます(通法75①)。 (2) 審査請求の請求先等 税務署長等が行った更正・決定などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことができます(通法77①)。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に審査請求を行うことができます(通法75③,772)。 (3) 審査請求の請求件数等 令和5事務年度の審査請求の請求件数は3,917件で、新型コロナウイルス感染症の影響により調査件数の減少を受けて請求件数が減少した令和元年度から令和3年度を大きく上回っています。また、令和5事務年度における請求の認容割合は9.7%で、10人に1人の割合で納税者の主張が認容されたことになります。 (4) 審査請求の審理の範囲等 審査請求の審理の範囲は、納税者が主張する審査請求の理由に限らず、処分の当否を判断するために必要な範囲全般に及ぶことから、「処分 (・・・・・・) についての審査請求が理由がある場合」(行政不服審査法46①)とは、納税者が主張する個々の理由に限らず、納税者が主張していない理由も含めて、その処分が違法又は不当のいずれかである(同法1①参照)と審判所が認める場合を指します。 もっとも、「不当」とは裁量権の行使の当否を問題とするものですから、裁量性がある行為に限定されるところ、課税処分については合法性の原則(税務当局は、課税要件が充足されている限り、課税処分をしなければならない)により裁量性のない行為であるため、基本的に「不当」を理由に取り消されることはないと考えられます。しかし、青色申告承認取消処分や徴収処分など、ごく限られた例として国税不服審判所で不当を理由に取り消された先例があります。一例として、納税者の帳簿書類の備付け及び記録の不備の程度は甚だ軽微であり、申告納税に対する信頼性が損なわれているとまではいえないことから、所得税法150条1項に基づく青色申告の承認の取消処分は、違法とはいえないものの不当な処分と評価せざるを得ないとして、青色申告の承認の取消処分を取り消した事例があります12。 (5) 審査請求の処理期間 審査請求は、適正かつ迅速な事件処理を通じて納税者の正当な権利利益の救済を図る趣旨から、審査請求書が国税不服審判所に到達してから裁決をするまでに要すべき標準的な期間を1年としており、令和5事務年度の1年以内の処理割合は99.1%となっています。 (6) 代理人の選任 審査請求を行うに当たり、代理人の資格については、特段の制限はありません。そのため、審査請求を行おうとする納税者は、税理士、弁護士に限らず、適当と認める者を代理人に選任することができます。 (7) 納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定する国税 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税(自動確定による国税。通法15①③)には次のものがあり、これらの国税は税務署長等の課税処分や徴収処分ではありませんので、不服申立ての対象となりません。 ① 予定納税 ② 源泉徴収等による国税 ③ 自動車重量税 ④ 国際観光旅客税 ⑤ 印紙税 ⑥ 登録免許税 ⑦ 延滞税及び利子税 (8) 訴訟 国税不服審判所長の判断になお不服がある場合には、裁判所に訴えを提起することができます。この訴えの提起は、原則として裁決書謄本の送達を受けた日の翌日から6か月以内に行う必要があります。 令和5事務年度の訴訟の発生件数は189件で、審査請求で棄却された件数の7%程度となっています。また、令和5事務年度における原告勝訴割合は7.6%で、13人に1人の割合で納税者が勝訴したことになります。 (9) 本事例の対応 本事例は、重加算税の賦課決定通知書が届いたということですので、まずは、不服申立ての期限を確認します。不服申立ての期間は上記(1)及び(2)のとおりですが、不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情がある場合(具体的には、地震、台風、洪水、噴火などの天災に起因する場合や、火災、交通の途絶等の人為的障害に起因する場合等)には、その期間を経過しても不服申立てを行うことができるとされています(通法77①但書)。 次に、理由附記の記載内容を確認し、記載された事実関係と実際の事実関係が相違していないか、記載された事実関係の評価が誤っていないか、認定された事実関係に基づく課税要件の適用が誤っていないかなど、税務調査の実施状況,質問応答記録書13への署名・押印,裁決事例,裁判例なども検討の上、審査請求を行うか否か判断します。 なお、税務署長等に対し再調査の請求を行うか、国税不服審判所長に対し審査請求を行うかの判断に当たり、事実認定を争う場合は再調査の請求から、法令解釈を争う場合は審査請求からとの判断もあります。 なお、税務署長等に対し再調査の請求を行った場合、税務署長等に原処分を行った際に不足している証拠を収集させる機会を与えることになるため、この点も考慮する必要があると思料します。
Q&A 弁護士のための相続税務70
マンション通達の新設
私は都内の高層マンションに住んでいます。今後に備え、タワーマンションの評価方法を知っておきたいと思います。 A: 相続税の節税対策として、マンションの取得や賃貸を行うなどのマンション経営が注目されてきたところですが、最高裁令和4年判決2を契機として、マンションの評価方法が見直され、令和6年1月1日以後の相続、贈与等から適用されます。 解説 (1) 最高裁令和4年判決の要旨 被相続人(平成24年6月17日相続開始)は、平成21年に2棟の不動産 (各不動産)を13億8,700万円で購入し、その際、信託銀行等から10億5,500万円の借入れをしました。納税者(上告人)らが、各不動産の価額を通達評価額(3億3,370万円余)に基づき相続税の申告をしたところ、税務署が、財産評価基本通達6 《この通達の定めにより難い場合の評価》を適用し、鑑定評価額(12億7,300万円)に基づき各更正処分を行ったことから、納税者らが処分の取消しを求めた事案において、最高裁は次のように判断し、税務署による更正処分を妥当としました。 相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。 そうであるところ、本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない。 他方、租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。 これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。 もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。 したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。 (2) マンション通達制定までの経緯 令和5年度与党税制改正大綱(令和4年12月16日決定)の基本的考え方等において、「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」(下線は筆者)と記載されました。 このため、国税庁は、マンションの相続税評価について、市場価格との乖離の実態を踏まえた上で適正化を検討するため、令和5年1月に有識者会議を設置し、その後、見直し案の要旨について有識者からの意見を踏まえ、通達案を作成し、意見公募手続 (パブリックコメント)を行いました(同年7~8月)。 そして、国税庁は令和5年10月6日、相続税におけるマンションの評価方法を定めた個別通達となる「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(以下「マンション通達」といいます。)を公表し、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得したマンションの評価については、この通達によることとされました(前記50参照)。 (3) マンション通達への総則6項の適用 財産評価基本通達総則6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めています。たとえ通達に基づき評価したとしても、その結果,租稅負担の公平に反するなどの事情があるときは、是正されることがあるわけです。 この点、国税庁では、マンション通達趣旨情報において、「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用される」とし、また、マンション通達Q&Aにおいて、「一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額について、評価基本通達6の定めにより、本通達を適用した価額よりも高い価額により評価することもあります。」とされています。 区分所有マンションの評価額についてマンション通達を適用して算定したとしても、市場売買価額と著しい乖離があり、かつ、近い将来相続が発生することが見込まれる人及びその推定相続人等が相続税節税目的で多額の融資を受けマンションを購入する場合などが、マンション通達により評価することが著しく不適当と認められる場合に該当すると考えられますが、マンション通達において、どのような場合に総則6項が適用されるかについて、具体的な取扱いは示されていません。 (4) マンション通達の今後の見直し 国税庁では、マンション通達の今後の見直しについて、「3年に1度行われる固定資産税評価の見直しに併せて行うことが合理的であり、改めて実際の取引事例についての相続税評価額と売買実例価額との乖離状況等を踏まえ、その要否を含めて行うことを考えています。」との考え方を示しています。 よって、路線価方式のように毎年の改正はなく、3年間は評価乖離率(前記50(2)参照)を含むマンション通達の改正はないものと見込まれます。 なお、マンション市場の高騰や急落など経済情勢の変化によっては、3年を待たずして改正されることも考えられます。
Q&A 弁護士のための相続税務70
相続土地国庫帰属制度の創設
父が亡くなり田舎の土地を相続しました。利用する当てもないので 処分しようと思いますが、買い手がみつかりません。 A: 令和5年4月から、相続により土地の所有権を取得した人は、一定の要 件を満たすとき、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を利 用することができます。 解説……… 相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りに 迷惑がかかるから管理が必要だけど負担が大きい」などの理由により、土地を 手放したいというニーズが高まっています。このため、不動産についても所有 権を放棄し、これにより無主の不動産となって、所有権は国庫に帰属するので はないか(民法239②)という議論が生じました。しかし、裁判例は、不動産 の所有権放棄の可否について明言を避けながら、その事案では放棄できるとし ても国に対する所有権移転登記を求める請求は権利濫用等に該当し無効である と判断しました。 このような土地が管理されずに放置されると、将来,「所有者不明土地」が 発生するリスクが高まります。そこで、このような所有者不明土地の発生を予 防するため、相続又は相続人に対する遺贈(以下、本項において「相続等」と いいます。)によって土地の所有権又は共有持分(以下「所有権等」といいま す。)を取得した相続人が、一定の要件を満たすときは、土地を手放して国庫 に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました(相続土地国庫帰属法1)。 (1) 申請できる人 その土地の所有権等を国庫に帰属させることについて、承認を申請すること ができる人は、相続等によって土地を取得した人に限られます。建物は対象に なりません。売買や贈与など相続等以外の原因により自ら土地を取得した人や、 相続等により土地を取得することができない法人は、基本的に本制度を利用す ることはできません。 もっとも、共有持分については、共有者全員が共同して国庫帰属の承認申請 を行う必要があり、このため、他の共有者も相続等に係る共有持分の取得者と 一緒に承認申請を行うことにより国庫帰属させることができます(相続土地国 庫帰属法2②)。 (2) 引き取ることができない土地の要件 国庫に帰属した後、通常の利用ができ、国が管理する上で過分の費用・労力 がかからないよう要件が定められています。所有者がその負担を国に対して不 当に転嫁する事態を回避するためです。 ① 申請をすることができないケース (却下事由)(相続土地国庫帰属法2③) イ 建物がある土地 ロ 担保権や使用収益権が設定されている土地 ハ 他人の利用が予定されている土地 二 土壌汚染されている土地 ホ 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地 ② 承認を受けることができないケース (不承認事由)(相続土地国庫帰属法 5①) イ 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地 ロ 土地の管理・処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上にある土地 ハ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地 二 無道路地(民法210①②),所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微なものを除く。)(相続土地国庫帰属法5①四,同法施行令4②一,二) ホ 通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として同法施行令4条3項で定めるもの (3) 負担金等 本制度の承認を申請する場合には、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙(土地1筆当たり14,000円)を貼付して納付する必要があります。 必要に応じて調査が行われ(相続土地国庫帰属法6),要件を満たす場合には法務大臣は申請を承認します(同法5①)。審査には半年から1年間程度の期間を要するとされています。 相続した土地の国庫帰属が承認された時点で、国の将来の管理費用の前払いとして、管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して定めるものとされています(同法10①)。具体的な算定方法は、同法施行令5条のとおりです。 なお、偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、法務大臣は承認を取り消すことができ(同法13①),承認を受けた人が不承認の事由があることを知りながら告げずに承認を受けた場合には、損害賠償責任を負担することになります(同法14)。 (4) 課税上の取扱い 本制度を利用することにより、その土地の所有権は、相続等によりその土地を取得した人から国に移転するわけですが、移転に伴い生じると見込まれる次の課税上の取扱いは現時点で示されていません。 ① 相続財産の評価 本制度を利用して国庫に帰属することとなる土地については、引き取り手がいないなど財産的価値がないものと見込まれるところ、相続開始後、国への引取りが承認された場合、更正の請求によって、時価の見直しが可能であるのか。 また、この場合、負担金は債務控除の対象となるのか。 ② 寄附金控除の適用 相続等によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国や地方公共団体等に寄附した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があるが、この特例の適用はあるのか。 ③ 譲渡所得の計算 その土地の所有権が国に移転したとき、譲渡所得が発生することになるのか。この場合、収入金額はゼロとするのか、相続税評価額とするのか。また、譲渡所得が発生する場合、取得費用を控除し生じた譲渡損失の金額について、その損失の金額を他の土地や建物の譲渡所得から控除することができるのか。さらに、負担金は譲渡費用として取り扱われるのか。
Q&A 弁護士のための相続税務70
