課税処分に不服があるとき
Q: 税務調査を受け税務署の指摘に従い修正申告書を提出したところ、重加算税の賦課決定通知書が届きました。また、その後、延滞税等のお知らせが届きました。 A: 税務署長又は国税局長(以下「税務署長等」といいます。)が行った更正・決定などの課税処分、差押えなどの滞納処分等に対し不服があるときは、その処分を行った税務署長等に再調査の請求を行うか、国税不服審判所に審査請求を行うことができます。 一方、納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定する国税(延滞税)については、不服申立てを行うことはできません。 解説 (1) 再調査の請求の請求先等 税務署長等が行った更正・決定などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、審査請求の前段階として、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長等に対して「再調査の請求」を行うことができます。 また、納税者の選択により、直接,国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うこともできます(通法75①)。 (2) 審査請求の請求先等 税務署長等が行った更正・決定などの課税処分や差押えなどの滞納処分に不服があるときは、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、国税不服審判所長に対して「審査請求」を行うことができます(通法77①)。また、再調査の請求を行った場合であっても、再調査の請求についての決定を経た後の処分になお不服があるときは、再調査決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内に審査請求を行うことができます(通法75③,772)。 (3) 審査請求の請求件数等 令和5事務年度の審査請求の請求件数は3,917件で、新型コロナウイルス感染症の影響により調査件数の減少を受けて請求件数が減少した令和元年度から令和3年度を大きく上回っています。また、令和5事務年度における請求の認容割合は9.7%で、10人に1人の割合で納税者の主張が認容されたことになります。 (4) 審査請求の審理の範囲等 審査請求の審理の範囲は、納税者が主張する審査請求の理由に限らず、処分の当否を判断するために必要な範囲全般に及ぶことから、「処分 (・・・・・・) についての審査請求が理由がある場合」(行政不服審査法46①)とは、納税者が主張する個々の理由に限らず、納税者が主張していない理由も含めて、その処分が違法又は不当のいずれかである(同法1①参照)と審判所が認める場合を指します。 もっとも、「不当」とは裁量権の行使の当否を問題とするものですから、裁量性がある行為に限定されるところ、課税処分については合法性の原則(税務当局は、課税要件が充足されている限り、課税処分をしなければならない)により裁量性のない行為であるため、基本的に「不当」を理由に取り消されることはないと考えられます。しかし、青色申告承認取消処分や徴収処分など、ごく限られた例として国税不服審判所で不当を理由に取り消された先例があります。一例として、納税者の帳簿書類の備付け及び記録の不備の程度は甚だ軽微であり、申告納税に対する信頼性が損なわれているとまではいえないことから、所得税法150条1項に基づく青色申告の承認の取消処分は、違法とはいえないものの不当な処分と評価せざるを得ないとして、青色申告の承認の取消処分を取り消した事例があります12。 (5) 審査請求の処理期間 審査請求は、適正かつ迅速な事件処理を通じて納税者の正当な権利利益の救済を図る趣旨から、審査請求書が国税不服審判所に到達してから裁決をするまでに要すべき標準的な期間を1年としており、令和5事務年度の1年以内の処理割合は99.1%となっています。 (6) 代理人の選任 審査請求を行うに当たり、代理人の資格については、特段の制限はありません。そのため、審査請求を行おうとする納税者は、税理士、弁護士に限らず、適当と認める者を代理人に選任することができます。 (7) 納税義務の成立と同時に納付すべき税額が確定する国税 納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税(自動確定による国税。通法15①③)には次のものがあり、これらの国税は税務署長等の課税処分や徴収処分ではありませんので、不服申立ての対象となりません。 ① 予定納税 ② 源泉徴収等による国税 ③ 自動車重量税 ④ 国際観光旅客税 ⑤ 印紙税 ⑥ 登録免許税 ⑦ 延滞税及び利子税 (8) 訴訟 国税不服審判所長の判断になお不服がある場合には、裁判所に訴えを提起することができます。この訴えの提起は、原則として裁決書謄本の送達を受けた日の翌日から6か月以内に行う必要があります。 令和5事務年度の訴訟の発生件数は189件で、審査請求で棄却された件数の7%程度となっています。また、令和5事務年度における原告勝訴割合は7.6%で、13人に1人の割合で納税者が勝訴したことになります。 (9) 本事例の対応 本事例は、重加算税の賦課決定通知書が届いたということですので、まずは、不服申立ての期限を確認します。不服申立ての期間は上記(1)及び(2)のとおりですが、不服申立期間内に不服申立てをすることが不可能と認められるような客観的な事情がある場合(具体的には、地震、台風、洪水、噴火などの天災に起因する場合や、火災、交通の途絶等の人為的障害に起因する場合等)には、その期間を経過しても不服申立てを行うことができるとされています(通法77①但書)。 次に、理由附記の記載内容を確認し、記載された事実関係と実際の事実関係が相違していないか、記載された事実関係の評価が誤っていないか、認定された事実関係に基づく課税要件の適用が誤っていないかなど、税務調査の実施状況,質問応答記録書13への署名・押印,裁決事例,裁判例なども検討の上、審査請求を行うか否か判断します。 なお、税務署長等に対し再調査の請求を行うか、国税不服審判所長に対し審査請求を行うかの判断に当たり、事実認定を争う場合は再調査の請求から、法令解釈を争う場合は審査請求からとの判断もあります。 なお、税務署長等に対し再調査の請求を行った場合、税務署長等に原処分を行った際に不足している証拠を収集させる機会を与えることになるため、この点も考慮する必要があると思料します。
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マンション通達の新設
私は都内の高層マンションに住んでいます。今後に備え、タワーマンションの評価方法を知っておきたいと思います。 A: 相続税の節税対策として、マンションの取得や賃貸を行うなどのマンション経営が注目されてきたところですが、最高裁令和4年判決2を契機として、マンションの評価方法が見直され、令和6年1月1日以後の相続、贈与等から適用されます。 解説 (1) 最高裁令和4年判決の要旨 被相続人(平成24年6月17日相続開始)は、平成21年に2棟の不動産 (各不動産)を13億8,700万円で購入し、その際、信託銀行等から10億5,500万円の借入れをしました。納税者(上告人)らが、各不動産の価額を通達評価額(3億3,370万円余)に基づき相続税の申告をしたところ、税務署が、財産評価基本通達6 《この通達の定めにより難い場合の評価》を適用し、鑑定評価額(12億7,300万円)に基づき各更正処分を行ったことから、納税者らが処分の取消しを求めた事案において、最高裁は次のように判断し、税務署による更正処分を妥当としました。 相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。 そうであるところ、本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない。 他方、租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。 これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。 もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。 したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。 (2) マンション通達制定までの経緯 令和5年度与党税制改正大綱(令和4年12月16日決定)の基本的考え方等において、「マンションについては、市場での売買価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離しているケースが見られる。現状を放置すれば、マンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある。このため、相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する。」(下線は筆者)と記載されました。 このため、国税庁は、マンションの相続税評価について、市場価格との乖離の実態を踏まえた上で適正化を検討するため、令和5年1月に有識者会議を設置し、その後、見直し案の要旨について有識者からの意見を踏まえ、通達案を作成し、意見公募手続 (パブリックコメント)を行いました(同年7~8月)。 そして、国税庁は令和5年10月6日、相続税におけるマンションの評価方法を定めた個別通達となる「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」(以下「マンション通達」といいます。)を公表し、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得したマンションの評価については、この通達によることとされました(前記50参照)。 (3) マンション通達への総則6項の適用 財産評価基本通達総則6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定めています。たとえ通達に基づき評価したとしても、その結果,租稅負担の公平に反するなどの事情があるときは、是正されることがあるわけです。 この点、国税庁では、マンション通達趣旨情報において、「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用される」とし、また、マンション通達Q&Aにおいて、「一室の区分所有権等に係る敷地利用権及び区分所有権の価額について、評価基本通達6の定めにより、本通達を適用した価額よりも高い価額により評価することもあります。」とされています。 区分所有マンションの評価額についてマンション通達を適用して算定したとしても、市場売買価額と著しい乖離があり、かつ、近い将来相続が発生することが見込まれる人及びその推定相続人等が相続税節税目的で多額の融資を受けマンションを購入する場合などが、マンション通達により評価することが著しく不適当と認められる場合に該当すると考えられますが、マンション通達において、どのような場合に総則6項が適用されるかについて、具体的な取扱いは示されていません。 (4) マンション通達の今後の見直し 国税庁では、マンション通達の今後の見直しについて、「3年に1度行われる固定資産税評価の見直しに併せて行うことが合理的であり、改めて実際の取引事例についての相続税評価額と売買実例価額との乖離状況等を踏まえ、その要否を含めて行うことを考えています。」との考え方を示しています。 よって、路線価方式のように毎年の改正はなく、3年間は評価乖離率(前記50(2)参照)を含むマンション通達の改正はないものと見込まれます。 なお、マンション市場の高騰や急落など経済情勢の変化によっては、3年を待たずして改正されることも考えられます。
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相続土地国庫帰属制度の創設
父が亡くなり田舎の土地を相続しました。利用する当てもないので 処分しようと思いますが、買い手がみつかりません。 A: 令和5年4月から、相続により土地の所有権を取得した人は、一定の要 件を満たすとき、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を利 用することができます。 解説……… 相続した土地について、「遠くに住んでいて利用する予定がない」、「周りに 迷惑がかかるから管理が必要だけど負担が大きい」などの理由により、土地を 手放したいというニーズが高まっています。このため、不動産についても所有 権を放棄し、これにより無主の不動産となって、所有権は国庫に帰属するので はないか(民法239②)という議論が生じました。しかし、裁判例は、不動産 の所有権放棄の可否について明言を避けながら、その事案では放棄できるとし ても国に対する所有権移転登記を求める請求は権利濫用等に該当し無効である と判断しました。 このような土地が管理されずに放置されると、将来,「所有者不明土地」が 発生するリスクが高まります。そこで、このような所有者不明土地の発生を予 防するため、相続又は相続人に対する遺贈(以下、本項において「相続等」と いいます。)によって土地の所有権又は共有持分(以下「所有権等」といいま す。)を取得した相続人が、一定の要件を満たすときは、土地を手放して国庫 に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が創設されました(相続土地国庫帰属法1)。 (1) 申請できる人 その土地の所有権等を国庫に帰属させることについて、承認を申請すること ができる人は、相続等によって土地を取得した人に限られます。建物は対象に なりません。売買や贈与など相続等以外の原因により自ら土地を取得した人や、 相続等により土地を取得することができない法人は、基本的に本制度を利用す ることはできません。 もっとも、共有持分については、共有者全員が共同して国庫帰属の承認申請 を行う必要があり、このため、他の共有者も相続等に係る共有持分の取得者と 一緒に承認申請を行うことにより国庫帰属させることができます(相続土地国 庫帰属法2②)。 (2) 引き取ることができない土地の要件 国庫に帰属した後、通常の利用ができ、国が管理する上で過分の費用・労力 がかからないよう要件が定められています。所有者がその負担を国に対して不 当に転嫁する事態を回避するためです。 ① 申請をすることができないケース (却下事由)(相続土地国庫帰属法2③) イ 建物がある土地 ロ 担保権や使用収益権が設定されている土地 ハ 他人の利用が予定されている土地 二 土壌汚染されている土地 ホ 境界が明らかでない土地、所有権の存否や範囲について争いがある土地 ② 承認を受けることができないケース (不承認事由)(相続土地国庫帰属法 5①) イ 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地 ロ 土地の管理・処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上にある土地 ハ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地 二 無道路地(民法210①②),所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微なものを除く。)(相続土地国庫帰属法5①四,同法施行令4②一,二) ホ 通常の管理・処分をするに当たり過分の費用・労力を要する土地として同法施行令4条3項で定めるもの (3) 負担金等 本制度の承認を申請する場合には、申請書に審査手数料額に相当する額の収入印紙(土地1筆当たり14,000円)を貼付して納付する必要があります。 必要に応じて調査が行われ(相続土地国庫帰属法6),要件を満たす場合には法務大臣は申請を承認します(同法5①)。審査には半年から1年間程度の期間を要するとされています。 相続した土地の国庫帰属が承認された時点で、国の将来の管理費用の前払いとして、管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して定めるものとされています(同法10①)。具体的な算定方法は、同法施行令5条のとおりです。 なお、偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、法務大臣は承認を取り消すことができ(同法13①),承認を受けた人が不承認の事由があることを知りながら告げずに承認を受けた場合には、損害賠償責任を負担することになります(同法14)。 (4) 課税上の取扱い 本制度を利用することにより、その土地の所有権は、相続等によりその土地を取得した人から国に移転するわけですが、移転に伴い生じると見込まれる次の課税上の取扱いは現時点で示されていません。 ① 相続財産の評価 本制度を利用して国庫に帰属することとなる土地については、引き取り手がいないなど財産的価値がないものと見込まれるところ、相続開始後、国への引取りが承認された場合、更正の請求によって、時価の見直しが可能であるのか。 また、この場合、負担金は債務控除の対象となるのか。 ② 寄附金控除の適用 相続等によって取得した財産を、相続税の申告期限までに、国や地方公共団体等に寄附した場合は、その寄附をした財産や支出した金銭は相続税の対象としない特例があるが、この特例の適用はあるのか。 ③ 譲渡所得の計算 その土地の所有権が国に移転したとき、譲渡所得が発生することになるのか。この場合、収入金額はゼロとするのか、相続税評価額とするのか。また、譲渡所得が発生する場合、取得費用を控除し生じた譲渡損失の金額について、その損失の金額を他の土地や建物の譲渡所得から控除することができるのか。さらに、負担金は譲渡費用として取り扱われるのか。
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相続登記の義務化
Q: 父が亡くなりました。相続財産を見直したところ、実家の土地が祖 父名義のままであり、分割協議も行われていないことが判明しました。こ のほど、相続登記が義務化されたと聞きましたが、どうすればよいので しょうか。 A: 相続により不動産の所有権を取得した場合には3年以内に所有権移転登 記を行う必要があります。正当な理由なくこれを怠った場合には、10万円以下 の過料の制裁が定められていますが、相続人が多数である場合には正当な理由 があるものと認められる可能性があります。また、相続人申告登記を行うこと により、相続登記の申請義務を履行したものとみなされ、過料を回避すること ができます。 解説 (1) 相続登記の申請義務化 従来、相続が発生しても登記がされず、放置される事例があり、二次相続、三次相続と相続が重なると、登記を閲覧しても権利関係がわからない事例が生じていました。 このため、令和6年4月1日より、相続等により所有権を取得した相続人は所有権移転登記が義務付けられました。 (2) 登記を義務付けられる人・期限 登記を義務付けられる人は、登記名義人について相続が開始し、その相続により所有権を取得した相続人及び遺贈により所有権を取得した相続人です(不動産登記法76の2①)。これと平仄を合わせて、従来、遺贈を原因とする場合には単独で所有権移転登記ができませんでしたが、相続人に対する遺贈の場合には単独申請により移転登記ができることに法改正されています(同法63③)。 相続人ではない第三者に対する遺贈があった場合には、その第三者は登記を義務付けられていません。 また、登記を行うべき期限は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内です(同法76の2①)。このため、相続が開始してもそのことを知らなかったり、相続財産に不動産があること(したがって、その所有権を取得したこと)を知らなかったりした場合には、3年の期間は進行しません。 もっとも、「相続により所有権を取得したこと」には、特定財産承継遺言により単独所有権を取得した場合だけではなく、未分割で共有持分を取得したことを知った場合も含まれるため、遺産分割協議が成立していない場合であっても登記(法定相続分に従った共有の登記)を行う義務があります。この場合には、さらに遺産分割が成立した時から3年以内に分割によって取得した内容に従って所有権移転登記を行う必要があります(同②)。 (3) 過料の制裁 正当な理由なく上記(2)の登記申請を怠った場合には、10万円以下の過料の制裁が定められています(不動産登記法164①)。 この制裁の前には、登記官から、相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催告することが予定されています(不動産登記規則187一参照)。 「正当な理由」については、最終的には個別の事情によりますが、「相続登記等の申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合」などが通達に例示されています。 (4) 相続人申告登記 以上のように、相続人には登記義務がありますが、相続人の負担が重いことに鑑み、相続人申告登記の制度が定められました。これは、登記簿上の所有者について相続が開始したことと自らがその相続人であることを申し出る制度です(不動産登記法76の3①)。 この申出がされると、申出をした相続人の氏名・住所等が登記され、これにより相続登記の申請義務を履行したものとみなされます(同②)。申出に際し、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定は不要とされており、これらの事項は登記されません。 (5) 課税上留意すべき事項 登記は第三者に対する対抗要件であり(民法177),相続登記の申請義務化に伴って、課税関係に変更があるわけではありません。 しかし、本事例のように、相続財産の中に祖父名義の土地があった場合、父親に係る相続税申告に当たり、相続財産を確定する必要があります。祖父名義の土地は、祖父の相続人全員の共有財産の状態になっている(民法8981)ことから、所有者を確定するに当たっては、祖父の相続まで遡り、遺産分割協議を行わなければなりません。相続人の確認や相続人との協議に手間や時間、費用がかかります。また、納税資金が不足するなどのため、相続した土地を換金し、その代金を納税資金に充てようとしても、土地の名義が祖父名義のままですと売却することができません。 このような事態を避けるために、分割手 tục và名義変更が行われていない先代名義の不動産は、すみやかに整理することが求められます。
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具体的相続分による遺産分割の 時的限界に係る改正
Q :11年前に祖父が亡くなり、父が今年亡くなりました。祖父名義の土 地があり、祖父の相続人の1人である叔母に祖父の遺産分割を申し入れた ところ、叔母は、父が生前に祖父から1,000万円の自宅建築資金の贈与を 受けており、特別受益があるため、これを考慮して遺産分割をするべきで ある旨を主張しています。 A :特別受益を考慮して遺産分割を行う旨の主張は正当ですが、相続開始後 10年を経過しているため、あなたは、単純に2分の1ずつの分割を主張すること ができます。 解説 長期間放置された後の遺産分割では、具体的相続分に関する証拠等が散逸し、その認定が困難となる上、いつまでも特別受益や寄与分の主張が可能であると、遺産分割を行う動機付けなく、未分割のまま放置されるおそれがあることから、遺産分割に係る民法改正が行われ、特別受益及び寄与分の主張制限が設けられました。改正法のルールは令和5年4月1日から適用されています。 (1) 具体的相続分 遺産分割の基準として法定相続分が定められていますが、被相続人の遺した財産をそのまま法定相続分により分割すると不公平になる場合があります。このため、法定相続分を調整するのが特別受益 (民法903),寄与分(民法904の2)です。 法定相続分が調整されて、その結果、遺産分割の基準となる相続分(割合)を具体的相続分といいます。 (2) 特別受益 特別受益とは、遺贈又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与です(民法903①)。遺贈には、「相続させる遺言」(特定財産承継遺言)による取得や死因贈与も含まれます。 贈与は、すべての贈与 (例えば親が子供に与えたお小遣い)が含まれるわけではなく、婚姻や養子縁組のために与えた贈与や生計の資本としての贈与に限定されます。どのくらいの金額が「生計の資本」となるのかは一概にはいえませんが、相続人間の公平を害し、相続分の前渡しといえるような贈与がこれに当たると解されます。 特別受益がある場合には、具体的相続分は次のように計算されます。このように計算されることを特別受益の「持ち戻し」といいます。 特別受益を受けた相続人の相続分=(相続財産+特別受益)×法定相続分 -特別受益 その他の相続人の相続分= (相続財産+特別受益)×法定相続分 特別受益は相続開始時の時価に評価し直します(民法904)。このため、相当以前に受けた贈与について相続開始時の時価に評価し直すと、とても高額になっている場合があり得ます。 上記の計算の結果、特別受益を受けた相続人の相続分がマイナスになる場合には、その人が遺産分割で取得する財産がなくなるだけで、法定相続分を超える部分を返還する必要があるわけではありません(民法903②)。ただし、遺留分を侵害している場合には、遺留分侵害額請求を受けることがあります。 (3) 寄与分 寄与分とは、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした相続人がいた場合に、その相続分を修正するものです(民法904の2①)。 寄与分については、主張すれば直ちに認められるわけではなく、相続人間の協議により合意するか、家庭裁判所に寄与分を定める申立てを行い、決定してもらう必要があります(民法904の2②)。 寄与分が認められた場合の相続分は、次のように計算されます(民法904の2①)。 寄与した相続人の相続分= (相続財産-寄与分)×法定相続分+寄与分 その他の相続人の相続分= (相続財産-寄与分)×法定相続分 (4) 特別受益・寄与分の主張の期間制限 特別受益・寄与分の主張は、相続開始後10年を経過すると主張することができなくなります(民法904の3)。 この場合には、法定相続分による分割のみが可能となります。遺産分割が行われないまま長期に放置される事案があることから、遺産分割を推進する観点から期間制限が行われました。ただし、施行日前に相続が開始した遺産の分割については、相続開始時から10年を経過する時又は施行の時から5年を経過する時のいずれか遅い時までは、特別受益・寄与分の主張をすることができます(令3民法改正附則3参照)。 例外として、①相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき、②相続開始の時から始まる10年の期間の満了前6か月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、その相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたときについては、相続開始後10年を経過していても特別受益・寄与分の主張を行うことができます。 また、当事者が任意に合意して特別受益や寄与分を考慮して遺産分割を成立させることは妨げられません。 なお、遺産については、その性質から、相続人が遺産分割手続によらず共有物分割請求を行うことはできないと解されてきましたが、上記の期間制限が設けられたことから、このことを明示するとともに(民法258の2①),相続開始後10年を経過した場合には共有物分割請求を行うことができることとなりました(同②)。 (5) 本事例の取扱い 本事例については、祖父の相続開始から11年が経過しているため、叔母の特別受益の主張は、(相談者が任意で認めるのであれば別ですが)認められません(ただし、令和5年4月1日の施行日から5年以内であれば、経過措置の適用がありますので、叔母の主張は認められます。)。このため、法定相続分による分割が認められ、また、遺産分割手続を行わずに、いきなり共有物分割手続を行うことも可能です。 なお、令和3年の民法改正は、「相続開始の時から10年を経過するまでに遺産分割しなければならない」という制限が設けられたわけではなく、「特別受益と寄与分の主張に、相続開始の時から10年の期限を設ける」というものです。遺産分割協議における特別受益と寄与分の主張に期限が設けられたことにより、その主張ができる権利者にとっては不利益を被ることも考えられますので注意を要します。
Q&A 弁護士のための相続税務70
ラップロ座の課税関係
ラップロ座の現状等 新しいNISA制度が始まり、投資信託や株式等へ家計資金が流入しているといわれています。 証券会社や信託銀行(以下「証券会社等」といいます。)の金融サービスである投資一任口座(ラップ口座)についても、利用者・契約金額とも増加しています。ラップ口座とは、顧客が自分で判断して取引を行う一般的な投資と異なり、大まかな運用スタイルを選択し、証券会社等と契約を結んだ上で資金運用を一任し、証券会社等がその資金を元手に選択された運用スタイルにより株式等を売買するサービスのことをいいます。 従来は富裕層向けであったところ、近年最低預入額が引き下げられ、さらには売買をシステムに任せる「ロボラップ」を含め、利用者数の増加につながっています。2024年6月末時点のラップ口座の契約件数は、169万6,538件,契約金額は20兆1,189億円となっています(一般社団法人日本投資顧問業協会 統計資料 2024年6月末 「4. ラップ業務(3)契約規模別分布状況」)。 問題の所在 ラップ口座は、顧客(被相続人)と証券会社等との投資一任契約であり、その約款では顧客は他者(相続人も含みます。)にラップ口座を引き継ぐことはできないとされています。 なお、①証券会社等では相続人等からラップ口座契約者が亡くなった旨の連絡があるまで、又は、②相続人から遺産分割協議書などの一定の書類の提出があるまでは、ラップ口座内の株式等の売買が行われている状況にあります。 この場合、相続開始日現在のラップ口座の相続税評価額はいくらなのか、また、相続開始後のラップ口座内での株式の売買の所得は誰に帰属するのか、相続人であるとした場合には取得費加算が適用できるのかなどの疑問が生じるところです。 ラップ口座の相続税評価額 ラップ口座の相続開始日現在の評価額は、相続開始日現在の残高証明書の額となります。 証券会社等によっては、相続開始日現在の残高証明書に、①ラップ口座内の株式等の銘柄,株数,評価額を明示しているものがある一方、②ラップロ座は被相続人から相続人に引き継ぐことはできないことから、ラップ口座内の評価額を現金で示しているものもあります。 ただ、いずれの場合であっても、ラップ口座の相続財産の評価額としては、相続開始日現在の残高証明書の額によるものと考えられます。 所得税法上の取扱い ① 所得区分 ラップ口座の株取引は、所有期間1年以下の上場株式の売買を行うものであり、また、顧客が報酬を支払って、有価証券の投資判断とその執行を証券会社等に一任し、契約期間中に営利を目的として継続的に上場株式の売買を行っていると認められますので、その株式の譲渡による所得は、事業所得又は雑所得に当たるものとして取り扱われています(国税庁質疑応答事例「投資一任口座(ラップ口座)における株取引の所得区分」)。 ② 所得の帰属者 ラップ口座は被相続人から相続人に引き継ぐことはできないとされています。しかし、現実には、証券会社等において被相続人が亡くなった旨の連絡を受けるのは、一定期間が経過した後となり、相続開始後にラップロ座内で株式の売買による所得が発生しています。その場合、その所得は被相続人に帰属するのか、相続人に帰属するのか悩ましいところです。また、その取扱いは、次の表のとおり、証券会社等によっても異なっています。 ③ 相続人が所得者となる場合の相続税額の取得費加算の特例 次の表のB社のように被相続人から相続人にラップ口座が引き継がれて、相続人がそのラップ口座内の株式等を売却した場合、相続財産を譲渡した場合の譲渡所得の取得費加算の特例 (措法39) が適用できるか否かについて、ラップ口座の株取引は事業所得又は雑所得である(前記①参照)ものの取得費加算の特例は適用できるとの見解はあります(税務通信3821号52頁)。 ④ 国外転出時課稅 1億円以上の有価証券を有している被相続人の相続開始によって、非居住者が有価証券等を取得した場合、被相続人が相続開始時に時価で有価証券等を売却したものとみなして、譲渡所得税の課税対象とされます(前記59参照)。相続人が取得者と解される場合には、ラップ口座が国外転出時課税の対象となることも考えられます。
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弁護士業務と税理士業務
Q: 私は弁護士です。数年前に遺産分割協議について相談を受けた相続 人から、税務署に相続税の調査に入られたとの連絡がありました。 A: 弁護士及び一定の弁護士法人は、所属弁護士会を通じて、国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができることとされています。 解説 税理士の業務は、税務代理、税務書類の作成及び税務相談とされています(税理士法2①)。そして、この税務代理、税務書類の作成、税務相談の業務は、有償、無償を問わず、税理士でなければできません。 (1) 税務代理 税務代理とは、税務署に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告,申請,請求若しくは不服申立て(以下「申告等」といいます。)につき、又はその申告等若しくは税務署の調査若しくは処分に関し税務署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行することをいいます。「代理」とは、代理人の権限内において依頼人のためにすることを示して上記事項を行うことをいい、「代行」には、事実の解明、陳述等の事実行為を含むものとされています(税理士法基本通達12-4)。 1 平成14年3月26日付国税庁「税理士法基本通達の制定について(法令解釈通達)」 (2) 税務書類の作成 税務書類の作成とは、税務署に対する申告等に係る申告書、申請書,請求書,不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき作成し、かつ、税務署に提出する書類を作成することをいいます。「作成する」とは、上記書類を自己の判断に基づいて作成することをいい、単なる代書は含まれないものとされています(税理士法基本通達2-5)。 相続税や所得税などの申告手続において、税理士が各種申告書類の作成に関与する割合は次の表のとおりで、令和5年度の相続税申告は86.3%であり、所得税と比べ高い割合になっています。これは、相続財産が高額になるほど相続税額が大きくなるため、自身で申告手続を行った結果、相続財産の評価や関係法令や通達の適用誤りを税務当局から指摘され、多額の追徴課税を受けるリスクに備える、また、二次相続と併せて最も節税となる相続税申告の方法のシミュレーションを行い二次相続に備えるなどの理由が考えられます。 (3) 税務相談 税務相談とは、税務署に対する申告等、税務代理における主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいいます。「相談に応ずる」とは、上記事項について、具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することをいうものとされています(税理士法基本通達2-6)。 (4) 弁護士の税理士業務 弁護士の職務については、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求,再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うこととされています(弁護士法3①)。弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができるとされています (同②)が、所属弁護士会を通じて、国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、随時、税理士業務を行うことができるとされています(税理士法51)。 このような通知を行った弁護士は、通知弁護士ないし通知税理士と呼ばれます。令和4年度において、通知弁護士制度によって税理士業務を行っている弁護士数は7,494人となっています。 また、弁護士は税理士となる資格を有すると規定されています(税理士法3①)から、税理士試験合格者と同様に税理士会に登録を行い税理士としての業務をすることができます(税理士法18以下)。令和4年度において、税理士登録を行っている弁護士数は718人です。この場合、税理士会に入会するための入会金と毎月の会費を支払わなくてはなりません。 (5) 非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止 他方で、弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件,非訟事件及び審査請求,再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理,仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができないとされています(弁護士法72)。 遺産分割協議書の作成のための相談及び作成,遺留分侵害額請求における他の相続人との交渉の相談及び交渉代理並びに遺産分割調停や審判における相談 及び代理などの業務は、税理士業務には含まれません。 このため、税理士はこれらの業務を行うことはできません。 (6) 弁護士及び税理士登録者数の推移 令和4年度の弁護士の登録者数は44,916人,税理士の登録者数は80,692人であり、約3.5対6.5の割合となっています。 (7) 本事例の対応 税理士業務を行うためには、所属弁護士会を通じて、相続税の申告書を提出した被相続人の住所地の所轄国税局長に対し、税理士業務開始通知を行います(税理士法51)。この通知等の提出がないことを理由に、弁護士が依頼者と税務当局との納付協議に同席することを認めないとする措置を税務署の職員が行ったことは違法ではないとして、原判決中の税務当局の敗訴部分を取り消した裁判例があり、一定の手続を踏まないと、税務署の調査担当者は弁護士の立会いを認めません。
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税務当局への対応
Q: このたび、税務調査に入られた相続人と税務調査の対応に関する委任契約を結び、所属弁護士会を通じて、所轄国税局長に税理士業務開始通知を行いました。 A: 税務調査を受けるに当たっては、相続税の税務調査の実施状況や資料収集の状況等について概観するとともに、税務調査の事前通知から終了までの手続についても理解しておくとよいでしょう。 解説 相続税の納付すべき税額は、所得税や法人税などと同様、申告納税方式を採用しており、納税者の行う申告により確定することを原則としています。そして、その申告がない場合又はその申告に係る税額の計算が法令の規定に従っていなかった場合その他その税額が税務署長の調査したところと異なる場合は、税務署長は課税処分を行います。 (1) 相続税の調査状況等 相続税の実地調査は、資料情報等から申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等について行われます。特に、無申告事案は、申告納税制度の下で自発的に適正な申告・納税を行っている納税者の税に対する公平感を著しく損なうものであるとの観点から、資料情報の収集・活用など無申告事案の把握のための取組みが積極的に行われ、的確な課税処理が図られています。 令和5年度の実地調査の1件当たりの申告漏れ課税価格は3,208万円、1件当たりの追徴税額は859万円となっています。また、無申告事案の1件当たりの追徴税額は1,787万円であり、前年対比114%となっています。 (2) CRS情報の収集状況等 税務当局は、納税者の資産運用の国際化に対応し相続税の適正な課税を実現するため、CRS情報をはじめとした租税条約等に基づく情報交換制度などを効果的に活用し、海外取引や海外資産の保有状況の把握に努めています。 特に、富裕層については、多様化・国際化する資産運用から生じる運用益に対して適正に課税するとともに、将来の相続税の適正課税に向けて情報の蓄積を図っています。 (3) 書面添付の割合 税理士法に定められている書面添付制度は、申告書の作成に関して計算等した事項や相談に応じた事項を記載した書面(以下「添付書面」といいます。)を税理士等が申告書に添付することができるというものです(税理士法33の2①)。その効果として、税務当局が、添付書面が添付されている申告書に係る納税者に対して、あらかじめ日時、場所を通知して税務調査を実施しようとする場合には、その通知前に、税務代理をする税理士等に対して、添付書面の記載事項に関する意見陳述の機会を与えなければならないこととされています(税理士法35①)。 各税目ともに添付割合は上昇しています。 (4) 税務調査の事前通知と加算税 税務当局が税務代理人に対して行う調査通知及び加算税について、次のように取り扱っています。 ① 税務調査の事前通知 納税義務者に税務代理人がある場合、その税務代理人が提出した税務代理権限証書に、その納税義務者への事前通知はその税務代理人に対して行われることについて同意する旨の記載があるときは、その納税義務者への調査通知,都合の聴取及び事前通知は、その税務代理人に対して行えば足りることになります。また、納税義務者に対して事前通知を行う場合であっても、納税義務者から、事前通知の詳細は税務代理人を通じて通知して差し支えない旨の申立てがあったときは、納税義務者には調査通知のみを行い、その他の事前通知事項は税務代理人を通じて通知することとして差し支えないとされています(手続通達48-1)。 ② 調査通知後の加算税 修正申告書(期限後申告に係るものを除きます。)が、調査通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に5% (期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は10%)の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税が課税されます(通法65①②)。また、期限後申告書(その修正申告書を含みます。)についても、調査通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に10% (50万円を超える部分は15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税が課税されます (通法66①②)。 (5) 税務調査の結果の通知 税務当局は、税務調査の結果に応じて、「更正決定等をすべきと認められない旨の通知」か「更正決定等をすべきと認められる場合における調査結果の内容の説明等」を行います。 ① 更正決定等をすべきと認められない旨の通知 実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められない場合は、税務署長は、更正決定等をすべきと認められない旨を書面により通知します(通法74の11①)。 ② 更正決定等をすべきと認められる場合における調査結果の内容の説明等 実地の調査を行った結果、更正決定等をすべきと認められる場合には、調査担当者は、その調査結果の内容を納税義務者に説明します(通法74の11②)。 また、調査結果の内容を説明する際、その調査担当者は納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨します(通法74の11③)。なお、調査の結果に関し納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできませんが、更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書類を交付しなければならないこととされています (通法74の11③)。 (6) 本事例の対応 国税局長から「税理士業務開始通知受領書」が届いたら、被相続人の住所地の所轄税務署長宛に、「税務代理権限証書」を提出した上で、税務署の調査担当者とやりとりを開始します(税理士法30)。 調査担当者は、事前通知の際(事前通知を行わない無予告調査の場合には調査開始時)に、どなたの相続の相続税についての調査であるかを明らかにします。 そして、調査担当者は、その相続税の調査に必要な範囲で質問し、帳簿書類等の物件を検査し、又は、その提示若しくは提出を求めることができます(通法74の3①)。また、調査担当者は、その他の税目や他の相続税に関して質問検査を行うことはできないのが原則ですが、別の税目や他の相続税申告についても非違の疑いが生じた場合には、その調査を行うことを明らかにした上で、調査対象に含めることができます(通法74の9④)。 調査担当者から、税務調査の結果の通知を受け、修正申告の勧奨があった場合、税務署の指摘に従い修正申告書を提出するか、その説明に納得がいかない場合には更正処分又は決定を受けた上で、不服申立てを行います(後記70参照)。 (7) 相続人間の意思統一が図られない場合 相続人間で争いがあるなどのため、相続人のうちの1人から税務調査への対応を受任したものの他の相続人と共同歩調をとれないときは、残る相続人は、他の弁護士や税理士と委任契約を結ぶケースや、専門家に頼らず自身で対応を行おうとするケースが想定されます。 このような場合には、委任契約を結んだ相続人の意向を十分に聴取した上、税務署の調査担当者から他の相続人の主張状況の提供を受けるなどして、調査の早期終結に向けた対応も必要と思料します。
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名義財産が把握された場合
Q: 相続税の申告後、税務調査に入られ、相続人である私名義の預金が被相続人である父の相続財産であると指摘されました。 A: 相続税の申告において、相続財産として計上していなかった被相続人の相続財産が見つかった場合、その相続財産が被相続人に帰属するものであれば、名義にかかわらず修正申告をしなければなりません。 解説 相続税の申告後,被相続人の預金や株式など新たな財産が見つかった場合、相続開始の時における預貯金の残高などを相続財産に加え修正申告を行わなければなりません。 (1) 申告漏れ相続財産の状況等 税務調査における申告漏れ相続財産に占める現金・預貯金及び有価証券の割合は、43.4% (令和4事務年度)であり、大きな割合を占めています。これらの中には、被相続人の自宅の金庫から多額の現金や株式が把握されるケースや銀行の貸金庫から金地金が把握されるケースのほか、被相続人名義の預貯金や相続人名義などの名義財産が把握されるケースも多分に含まれていると思料します。また、被相続人名義の預貯金口座から出金された現金が相続人名義の預貯金として蓄財されていた場合も相続財産と認定される可能性があります。 (2) 申告漏れ財産の帰属 このように税務調査において把握された財産については、その名義等にかかわらず実質的に誰に帰属するのか特定されることとなります。 ① 把握された財産が被相続人名義の場合 税務調査において、被相続人名義の申告漏れ財産が把握された場合、その財産の原資及び形成された経緯、申告漏れに至った原因などについて質問調査が行われます。そして、申告漏れ財産について隠蔽行為がないと判断されれば、通常、修正申告の勧奨が行われ、過少申告加算税の賦課決定が行われます。 ② 把握された財産が相続人名義の場合 相続人に帰属する預金か、被相続人に帰属する預金かについて、先鋭に争われることになります。 預金の帰属の認定においては、原資が非常に重要な要素であることから、相続人の申告状況や職歴等に照らし、相続人がその資産を形成するに足りる十分な資力があったか否か、それがないにもかかわらず、多額の相続人名義の財産がある場合には、質問調査等により、その財産の原資の確認が行われます。 その財産が被相続人から相続人名義の財産に移動していることの確認が行われた場合は、その移転の事由について判断されます(単なる名義財産か、贈与によるものか、借入金の返済など他の法律行為に基づくものか等)。 被相続人から相続人に贈与されたものである旨主張する事例は多いですが、その際には、贈与契約書の有無、預貯金口座の開設者、通帳・印鑑の管理状況、相続人による費消・運用,贈与税申告の有無などの事情等を考慮して判断されます。贈与とは認められなかった事例も多く5、それなりに難易度は高いものと考えられます。 なお、名義預金が被相続人に帰属すると認定された場合、把握された名義預金については、被相続人の遺産となりますので、遺産分割の問題が生じます。 (3) 名義財産が争点となった事例 ① 名義財産が被相続人に帰属するとされた事例 相続人が相続税の申告を行ったところ、税務署から、被相続人の妻名義の預金(本件預金)について、本件預金は「被相続人の財産」であるなどとして相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたため、相続人がその処分の取消しを求めて争った事例で、東京地裁は次のように判示し、相続人の主張を認めませんでした(前記11参照)。 ある財産が被相続人以外の者の名義となっていたとしても、当該財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったと認められるものであれば、当該財産は、相続税の課税の対象となる財産となる。 そして、被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその購入原資の出捐者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を総合考慮して判断するのが相当である。 ② 被相続人の家族名義の預貯金等は被相続人に帰属する相続財産とは認められないとした事例 本事例は、税務署が、相続人の家族名義の預貯金等については相続財産であり、これを申告しなかったことは事実の隠蔽又は仮装行為に当たるとして、相続税の各更正処分及び重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、相続人が、これらの処分の取消しを求めた事例で、審査請求において、相続人の主張が認められました。 原処分庁は、請求人ら及びその家族の名義の預貯金等(本件預貯金等)について、請求人らの申述及び代理人から提出された本件預貯金等に関する金額の移動状況等を記載した資料に基づき、その管理・運用状況、原資となった金員の出捐者及び贈与の事実等を総合的に勘案すると被相続人の相続財産に該当する旨主張する。 しかしながら、原処分庁は、本件預貯金等の使用印鑑の状況や保管場所などの管理状況について何ら具体的に主張立証を行わず、また、その出捐者についても、相続開始日前3年間の被相続人の収入が多額であることなどを挙げるのみで、具体的な出捐の状況について何ら主張立証を行わない。そして、当審判所の調査の結果によっても、被相続人、請求人ら及びその家族の名義で取引先の金融機関に提出された印鑑届等の筆跡並びに印影から、本件預貯金等は各名義人が管理・運用していたと推認されるものの、本件預貯金等の出捐者については、誰であるか認定することはできず、また、被相続人から請求人らに対する贈与の事実の有無については、贈与がなかったと認めるには至らなかった。したがって、本件預貯金等の管理・運用の状況、原資となった金員の出捐者及び贈与の事実の有無等を総合的に勘案しても、本件預貯金等がいずれに帰属するのかが明らかでなく、ひいては、本件預貯金等が被相続人に帰属する、すなわち、相続財産に該当すると認めることはできない。 (4) 相続人名義の預貯金が被相続人から贈与により取得したものであった場合 相続人名義の預貯金の原資が被相続人の預貯金であると認定された場合、贈与税の時効は贈与が行われた年に係る申告期限から原則6年であることから、税務調査の段階で6年が経過していなければ、贈与税の申告を行わなければなりません(後記69(3)参照)。申告期限を過ぎていますから、期限後申告となり、本税のほか無申告加算税及び延滞税が課税されることとなります。 この場合、相続開始前7年以内に贈与によって取得した財産があるときについては、その財産の贈与時の取得価額を相続財産に加算し、その加算された贈与財産に対応する贈与税額は加算された人の相続税の計算上控除しますが、加算税及び延滞税は控除できません。 (5) 本事例の場合 税務調査で指摘された相続人名義の預金の帰属について、事実関係を最もよく知っているのは相続人自身です。まずは、相続人にその預金口座の開設された経緯、原資,資金の移動状況、預金口座の保管状況、贈与契約の有無などを確認します。そして、相続人に帰属すると判断できたなら、収集した証拠を整理した上、税務署との交渉に臨みます。
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隠蔽・仮装行為
Q: 税務調査において指摘された申告漏れ財産について、隠蔽行為に当た るとして重加算税の対象になると指摘されました。 A: 税務調査において、申告漏れ財産等が隠蔽・仮装行為と認定された場合には、過少申告加算税に代えて高い税率の重加算税が課税される可能性があります。また、更正・決定に係る期間制限が最長7年間に延長されるほか、延滞税の除算期間の適用がありません。 解説 (1) 隠蔽・仮装行為とは 国税通則法68条1項又は2項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又 は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し」 とは、具体的には、次のような事実がある場合をいいます。 ① 相続人及び受遺者又は相続人から遺産 (債務及び葬式費用を含みます。)の 調査、申告等を任せられた者(以下「相続人等」といいます。)が、帳簿、決 算書類,契約書,請求書,領収書その他財産に関する書類(以下「帳簿書類」 といいます。)について改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿をし ていること。 ② 相続人等が、課税財産を隠匿し、架空の債務をつくり、又は事実をねつ造し て課税財産の価額を圧縮していること。 ③ 相続人等が、取引先その他の関係者と通謀してそれらの者の帳簿書類につい て改ざん、偽造、変造、虚偽の表示、破棄又は隠匿を行わせていること。 ④ 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること。 ⑤ 相続人等が、その取得した課税財産について、例えば、被相続人の名義以外の名義、架空名義,無記名等であったこと若しくは遠隔地にあったこと又は架空の債務がつくられてあったこと等を認識し、その状態を利用して、これを課税財産として申告していないこと又は債務として申告していること。 (2) 重加算税の税率等 重加算税は、過少申告又は無申告の場合に、その納付すべき税額の基礎となる事実について、隠蔽・仮装行為があったときに、免れようとした税額の35%ないし40%の税率により課せられる附帯税です(加算税の概要は次ページの表参照)。 (3) 国税の更正・決定の期間制限 国税の更正・決定は、その更正・決定に係る国税の法定申告期限から5年を経過した日以後は行うことができないとされています (通法70①)。 なお、贈与税については、上記の規定にかかわらず、法定申告期限から6年を経過した日以後は行うことができないとされています(相法36)。 ただし、「偽りその他不正の行為」により税額を免れた場合は、7年を経過する日までできるとされています(通法70⑤)。この規定の趣旨につき、東京地裁平成27年2月24日判決 は、次のように判示しています (下線は筆者)。 「偽りその他不正の行為」による脱税事案については長い除斥期間を定め、課税の適正を図ることを意図したものである。このような同項の文理及び趣旨に鑑みれば、同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っているものをいうと解するのが相当であるが、「偽りその他不正の行為」は、その行為の態様が課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装という態様に限定されないことからすると、「隠ぺい」又は「仮装」(同法68条1項、2項)を包摂し、それよりも外延の広いものであると解される。 つまり、更正・決定の期間制限を7年とする「偽りその他不正の行為」と重加算税の課税要件である「隠蔽し、又は仮装したこと」とは必ずしも符合するわけではなく、偽りその他不正の行為は隠蔽・仮装よりも外延の広いものと解されています。そのため、隠蔽・仮装行為がない場合であっても、偽りその他不正の行為があったと認定された場合は、7年間遡及して課税される可能性があります。 (4) 除算期間 税金が定められた期限までに納付されない場合には、原則として法定納期限の翌日から納付する日までの日数に応じて、利息に相当する延滞税が課されます。そして、偽りその他不正の行為により国税を免れた場合等を除き、一定の期間を延滞税の計算期間に含めない 「除算期間」という特例が設けられています(通法35,60,61)。 (5) 本事例の対応 申告漏れのあった財産について、隠蔽行為と指摘されたとのことですが、税務署は、重加算税の課税要件となる事実関係をどのような証拠に基づき認定したのか確認する必要があります。事実関係を誰よりもよく知っているのは、相続人たる納税者ですから、相続人の認識している事実関係と税務署の認定した事実関係とに相違がないか確認することが重要です。そして、相違があったならば、重加算税の賦課決定処分前に税務署に説明を尽くし理解してもらうことがポイントです。 ひとたび、重加算税の賦課決定処分がなされると、再調査の請求や審査請求で争うこととなり、時間と労力を要します。同処分について争われた審査請求事案は多数公表されていますので、類似の事案を検討することも一法です。 (6) 査察制度 不正の手段を使って故意に税を免れた人には、正当な税を課すほかに、反社会的な行為に対する責任を追及するため、懲役や罰金を科すことが税法に定められています(通法126~127)。このような場合、任意調査だけではその実態が把握できないため、強制的権限をもって犯罪捜査に準ずる方法で調査(犯則調査)し、その結果に基づいて検察官に告発し公訴提起を求める「査察制度」があります。税務署の税務調査で多額の申告漏れが把握され、脱税の疑いがある場合には、国税局の査察部署が実施する査察事件の対象となる場合があります。
Q&A 弁護士のための相続税務70
相続財産から生じた不動産所得①
相続税の申告は行いましたが、遺産分割に時間がかかっています。 相続財産の中に賃貸マンションがあり、その賃貸収入は長男の私が管理し、 私の所得として確定申告をしています。 A: 相続財産の賃貸マンションから生じる賃料収入は、相続人がその持分に 応じて収益を得たものとして、所得税の確定申告を行わなければなりません。 解説 (1) 所得税の準確定申告 被相続人が亡くなる日までの収入については、被相続人の収入ですから、被 相続人の所得として申告しなければなりません。もちろん、亡くなった人が確 定申告をすることはできませんので、相続人が代わって行います。これを準確 定申告といい、被相続人の死亡から4か月以内に行う必要があります。相続税 の申告期限(死亡から10か月以内)より半年ほど早いので注意を要します。 (2) 相続財産の帰属と遺産分割の効力 相続が開始すると、相続財産は相続人の共有とされ(民法898)、それぞれの 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる (民法249) とされています。また、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って 生じる(民法909) とされています。 ここで、共有状態の相続財産から生じた家賃収入などの収益についても、相 続財産と同様に共有状態となるのか、また、遺産分割が確定した時に相続開始 日に遡って効力を生じるのかが問題となります。第11章 所得税課税 225 この点については、共有持分に応じて、相続人に帰属することとされています。 (3) 課税上の取扱い 遺産分割が確定していないため、共同相続人のうち特定の人がその収益を管 理しているような場合についても、遺産分割が確定するまでの期間は、共同相 続人がその法定相続分に応じて申告することとなります。 なお、遺産分割協議が整い、分割が確定した場合であっても、その効果は未 分割期間中の所得の帰属に影響を及ぼすものではありませんので、分割の確定 を理由とする更正の請求又は修正申告を行うことはできません。 (4) 本事例の取扱い 上記のとおり、相続財産の賃貸マンションから生じる賃料収入は、相続人が その持分に応じて収益を得たものとして、所得税の確定申告を行わなければな りません。また、その後において遺産分割が行われた場合、民法は、「遺産の 分割は、遡って効力を生ずる」と規定していますが、所得税については、家賃 収入・譲渡収入は、その収入の時点での持分に応じて相続人に収入が帰属する と考えることから、遡って更正の請求を行うことはできないことになります。 本事例は、共同相続人の間で遺産分割協議が確定していないものの、その不 動産を相続する人が相談者に決まっており、相談者が賃料収入の全額を自身の 所得として申告を行ったということかと思料します。所得税は累進課税ですか ら、共同相続人の中でその不動産所得の申告を行った人の所得税率が最も高け れば、税務当局はあえて指摘はしないと思料します。しかし、所得税額が発生 しない相続人が全額不動産所得として申告したような場合には、課税の公平性 の観点から、法定相続分による修正申告の勧奨もあると思料します。 相続財産から生じた法定果実を受け取った相続人は、その収入金額等の多寡 によっては、所得税の配偶者控除あるいは扶養控除の適用、また、住民税及び 国民健康保険税などにも影響が及ぶこともあるので、注意を要します。
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相続財産から生じた不動産所得②
相続財産の中に米国ハワイ州に所在するコンドミニアムがあります。 そのコンドミニアムは、被相続人と妻である私が、ジョイント・テナン シーで所有し、私たちが使用するとき以外は他人に貸しています。その賃 貸収入は被相続人と私の不動産所得として確定申告していました。相続開 始後、私の確定申告は、どのようにすればよいのでしょうか。 A: そのコンドミニアムから生じる賃貸収入は、生存しているジョイント・ テナンシーの所有者であるあなたが、すべての収益を得たものとして、所得税 の確定申告を行わなければなりません。 解説 (1) ハワイ州の制度 ハワイ州の法律によると、ジョイント・テナンシー3 (合有の形態)では、合 有不動産権者のいずれかに相続が開始した場合には、生存合有不動産権者がそ の相続人であるか否かにかかわらず、また、生存合有不動産権者がその相続人 であったとしてもその相続分に関係なく、被相続人の合有不動産権が生存合有 不動産権者(この場合は相談者)に移転することとされています。 合有不動産権とは、共有不動産権と異なり、権利者のうち1人が死亡した場 合には、その権利は相続性を持たず (遺言による変更も不可),その権利は生 存者への権利帰属 (survivorship)の原則に基づいて生存合有不動産権者に帰 属することとされています。 (2) 相続税の課税 この場合、被相続人の合有不動産権が移転したことによる生存合有不動産権 者(相談者)の権利の増加は、対価を支払わないで利益を受けた場合に該当す るため、生存合有不動産権者が移転を受けた被相続人の合有不動産権の価額に 相当する金額について、被相続人から贈与により取得したものとみなされるこ とになります(相法9)。したがって、生存合有不動産権者が被相続人から相 続又は遺贈により財産を取得している場合、被相続人から贈与により取得した ものとみなされた合有不動産権の価額に相当する金額は、相続税の課税価格に 加算され(相法19①), 相続税の課税対象となります。 (3) 所得税の課税 そのコンドミニアムは、被相続人の死亡により、相談者に帰属することとな りますので、そのコンドミニアムから生じる相続開始後の賃貸収入は、相談者 が、すべての収益を得たものとして、所得税(不動産所得)の確定申告を行わ なければなりません。 (4) 外国税額控除(所得稅) 居住者は全世界所得について日本で課税されますが、国外所得について外国 の法令により所得税に相当する税金が課税される場合、二国間において二重課 税の状態になります。この二重課税を調整するために、一定額を所得税額から 控除する制度があり、これを外国税額控除(所得税) といいます(所法95) (前記23参照)。 控除の対象となる税は所得税に相当する税のみであり、例えば日本の消費税 に相当するGoods and Services Taxや、不動産に関連する権益の譲渡に際して 課税されるConveyance taxは資産の値上益に対する所得課税ではないため、 外国税額控除の対象となる所得税には該当しないと考えられています。
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