不動産の付合と建物賃借|くっついた、離せない

公開:2025/11/19

他人所有の不動産に手を加えることがあります。法人が賃借した建物に対して行った造作の耐用年数について通達(耐通1-1-3)があり、有益費償還請求または造作買取請求をすることができないなどの要件を充たす場合には、建物の賃借期間を造作の耐用年数として償却すると定められています。 平成27(2015)年度税理士試験の所得税法の計算問題では、賃借している店舗に係る内部造ateが減価償却資産として計上されており、造作の種類、用途、使用材料などを総合的に勘案して合理的に見積もった耐用年数は17年であると記述されています。 本節では、不動産の付合と建物賃借人(民法)について解説します。 1 不動産の付合 (1) 不動産の付合とは? 所有権を異にする物が結合し、物理的・機能的または取引上一体として扱われる状態(付合)になったときに、結合物を1個の所有権の客体とし、その帰属を決定するルールが民法に規定されています。結合物を元の物に分離・復旧するのは社会経済上の不利益であることから、1個の所有権の客体として扱うこととされています。 不動産に物を足して付合させた場合、不動産の所有者が附属物の所有権を取得します(民242条本文)。不動産の付合(一方)で、付合させた者は、附属物の所有権を失います。 民法242条(不動産の付合) 不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。 (2) 付合の成否 附属物が独立物として付合したといえるかどうかは、物理的な構造上及び社会的・経済的な機能上の独立性を基準として判断されます。 他人の建物に増築を復旧付けた場合は、①損傷なしに分離・復旧することは可能か、②分離・復旧すると社会経済上著しい不利益が生じるか、③分離された設備に価値があるかなどの観点から、付合の成否を判断します。 (3) 権原によって付合させた物 他人の不動産に付合した場合であっても、権原によって附属させた物の所有権は、付合させた者に留保されます(同条但書)。 もっとも、例えば賃借人が建物所有者(賃貸人)の承諾を得て改築をしても、一般的には、権原によって附属させたとはいえません。建物の賃借権や増改築の承諾だけでは、所有権を留保する権原として不十分です。 (4) 賃金請求権・有益費償還請求権 不動産の所有者に所有権を失い、損失を受けた者は、所有権取得者に対して、償金を請求することができます(民248条、703条、704条)。 ただし、建物賃貸借契約の場合は、利得の押し付けはできないため、民法248条の適用は排除されます(民622条の適用は排除されます)。すなわち、建物の賃借について有益費を支出した賃借人は、賃貸人に対して、賃貸借の終了時に、価値の増加が現存する場合に限り、支出額または増価額のいずれかを償還(選択権は賃貸人にある)させることができます。この償還は、建物の返還時から1年以内に行使しなければなりません(民622条が準用する608条2項)。 償金請求権及び有益費償還請求権は、いずれも任意法規なので、当事者間の合意で排除することができます。有益費償還請求権は、賃借人が賃貸借契約を負担するという合意によって排除されることが多いです。 2 賃借人の収去義務・収去権 (1) 収去義務 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃借借が終了したときは、附属物を収去する(取り払う)義務を負います(民622条が準用する598条1項本文)。 賃貸人からすると、賃借人に対して収去義務を有することになります。賃貸人が附属に同意したとしても、収去請求権を放棄したことにはなりません。ただし、附属物が分離できない物及び分離に過分の費用を要する物であるときは、賃借人は、収去義務を負わず(民622条が準用する598条1項但書)、賃貸人に対して有益費償還請求をすることができます(民608条2項)。 (2) 収去権 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができます(民622条が準用する598条2項)。 ただし、附属物が分離できない物または分離に過分の費用を要する物であるときは、賃借人は、収去権を行使できません。この場合、賃借人に対して有益費の請求をすることができます。 (3) 付合の成否との関係 附属物が分離できない物または分離に過分の費用を要する物であるときは、一般的には、付合が生じます。 附属物が分離できる物の収去義務を負うのかについて、令和2(2020)年4月の民改正後の施行直後は、付合の成否に応じて収去義務の有無が判断されていたのに対し、施行後は、附属物が賃貸人の所有に属する場合であっても賃借人は収去義務を負うことがあります。 3 建物賃借人の造作買取請求権 (1) 造作買取請求権とは? 建物賃借人が同意を得て建物に付加した造作がある場合に、建物賃借人が、建物賃貸借が終了するときに、建物賃借人に対して、造作を時価で買い取るべきことを請求することができる権利のことを「造作買取請求権」といいます(借地借家33条1項)。1-8のP65頁)。建物賃貸人は、造作の残存価値を賠償することができます。 造作買取請求権は、建物賃借人の収去義務からの請求権。本節の2(1)に優先します。また、建物賃貸借の有益費償還請求権(1-8のP65頁)を取得したときは、建物賃貸借人が有益費償還請求権を行使することになります。 (2) 造作とは? 造作とは、分離が可能であり、建物賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものです。ガス設備、配電設備、水道所、シャワー設備などが造作に該当することがあります。 ただし、独立性がなく、容易に取り替え可能なもの(例.家具)は、造作には該当しません。 (3) 造作買取請求権の要件 造作買取請求権は、建物賃貸借契約の更新拒絶または解約申入れをし、正当事由が認められるときなどに認められます。まず、造作の設置について建物賃貸借人の同意を得ていること。次に、造作買取請求権の行使が建物賃貸借人の債務不履行を理由として建物賃貸借人が契約の解除したときではないこと。 (4) 造作買取請求権行使の効果 造作買取請求権を行使すると、建物賃借人との間に売買契約が成立した場合と同一の効果が生じます。 (5) 任意法規 任意法規である(任意法規とは、任意法規と異なり、当事者の意思によってその適用を排除することができる法規)。建物賃貸借とは、合意によって買取請求権を排除することができます。 任意法規であるため、特約で造作の取付けとそれに伴う買取請求権を排除することがよくあります。建物賃貸人からすると、原状回復の特約で造作の買取りを免責することはできなくなります。 COLUMN 税理士試験と司法試験の比較 税理士試験の租税法と司法試験の租税法の両方の試験について質問を受けることがあります。令和2(2020)年度の両方の試験問題において、馬券払戻金の税務上の取扱いに関する判例(最判平成29[2017]年12月15日判決)の知識が問われており、出題の違いがよくわかります。 税理士試験では、法令、通達及び判例を知っているかが問われているのに対し、司法試験では、それらを(税理士試験の問題よりも)具体的な事案に当てはめることができるのか、さらに、(結論として確定・否定のどちらもあり得る)応用的な事案において、説得力のある論述ができるのかが問われています。 ◎令和2(2020)年度税理士試験の所得税法の問1の問2 税理士であるあなたは、令和2年12月某日、居住者から以下の税務相談を受けた。 (甲の相談内容) ・私は、令和元年から趣味で中央競馬の馬券(Gレースの26レース分)を購入し、払戻金の支払いを受けている。 ・令和元年の実績は、次のとおりである。 払戻金の総額:1億円 当たり馬券の購入費用:1000万円 外れ馬券の購入費用:1億円 ・私の競馬の払戻金の課税関係を教えてほしい。 甲の相談内容を踏まえ、甲の競馬の払戻金に係る所得について、所得区分及び必要経費の範囲を法令、通達及び裁判例に触れながら、簡潔に説明しなさい。 ◎令和2(2020)年度司法試験の租税法の第1問抜粋 競馬好きの個人Aは、不動産賃貸業を営む傍ら、インターネットを介して馬券を購入できるサービスを利用して馬券を購入している。Aの馬券購入方法は、競走馬や騎手等の情報を収集・分析した上で、着順予想の確度と配当率の大小を組み合わせた購入パターンに従い、年間を通じてほぼ全てのレースで馬券を購入するというものであった。Aは、平成29年から平成30年までの5年間、年間3000レースほどのうちほぼ全てのレースで馬券を購入し、1年当たり5000万円程度の利益を上げていた。令和2年は、年間を通じて大きく負け越したもの、平均すると1年当たり200万円程度であった。 Aは、自己のノウハウを基に競馬予想ソフトウェア(以下「NTソフト」という。)を開発し、これにユーザーが独自の条件設定を行うことでできる機能を付けて売り出せばより多くの利益を得られるのではないかと考え、平成29年から、このソフトの小売事業を始めた。もっとも、これと並行して上記の立法による馬券の購入も継続し、従前と同様の利益を上げながら、そこで得られる新たな競馬予想ノウハウをソフトウェアのバージョンアップに繋げていた。 設題 (1) Aが平成29年に得た当たり馬券の払戻金に係る所得は、Aの同年分の所得税の計算上どの所得に分類されるか、説明しなさい。 (2) Aが平成30年に得た当たり馬券の払戻金に係る所得は、Aの同年分の所得税の計算上どの所得に分類されるか、説明しなさい。 税理士試験では、①一時所得と雑所得の定義、②「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは、及び雑所得ではないこと、③について、その間に、及び必要経費の範囲は(所基通34-1(2))が問われています。 そのうえで、本件事例においては、平成29年レースの払戻金と個々の事例から、年間を通じて収支で多額の利益を得ようとする意思、回数、期間にわたって馬券を購入するなどの事情が認められないことから、一時所得に区分される(必要経費の範囲は、当たり馬券の購入代金のみ)と解答します。 これに対し、司法試験の設問(1)では、まず、一時所得と雑所得以外の所得の可能性が残る所得について検討しなければなりません。最初に検討すべきは、事業所得の該当性です。具体的には、「馬券の購入行為が事業に当たるか否か」を、判例による事業所得該当基準に照らして検討することになります。 その結果、事業所得に当たらないとした場合には、次に、一時所得の該当性を検討します。具体的には、Aの平成29年の当たり馬券の払戻金が、一時所得の要件である「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に当たるか否かが問題となります。最高裁の判例が示した判断枠組みに触れながら、簡潔に述べた具体的事情に即して当てはめて行うことが求められています。そして、一時所得にも当たらないとした場合には、雑所得に該当すると結論付けることになります。 設問(2)は、Aが平成29年に競馬予想ソフトウェアの小売事業を始め、前年までと同様の馬券の購入で得られる新たな競馬予想ノウハウをソフトウェアのバージョンアップに繋げるという状況の変化があり、このような事情が、Aの当たり馬券の払戻金が、前年との間で所得区分がどうなるかが問うもので、Aの当たり馬券の払戻金が、競馬予想ソフトウェアの小売事業に付随して行われる経済活動から得られる所得として、事業所得に該当するのではないかという論点に気づくかどうかがポイントとなります。結論として、肯定・否定のどちらもあり得ることが前提となっています(法務省「論文式試験出題の趣旨」)。 POINT 1 不動産に物を足して付合させた場合、不動産の所有者が附属物の所有権を取得する。 他人の建物に増築を復旧付けた場合は、①損傷なしに分離・復旧することは可能か、②分離・復旧すると社会経済上著しい不利益が生じるか、③分離された設備に価値があるかなどの観点から、付合の成否を判断する。 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、賃貸借が終了したときは、附属物を収去する義務を負う。ただし、附属物が分離できない物及び分離に過分の費用を要する物であるときは、賃借人は、収去義務を負わず、賃貸人に対して有益費の償還を請求することができる。 賃借人は、賃貸借の終了時に、価値の増加が現存する場合に限り、支出額または増加額のいずれかを賃貸人の選択によって償還させることができる。 造作買取請求権とは、建物賃借人が同意を得て建物に付加した造作がある場合に、建物賃貸借が終了するときに、建物賃借人に対し、造作を時価で買い取るべきことを請求できる権利である。造作買取請求権は、建物賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものである。 造作とは、分離が可能であり、建物賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものである。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

契約の解除|契約をなかったことに…

公開:2025/11/19

いったん締結した契約には法的拘束力が生じ、相手方が債務を履行しない場合には、債務の内容を強制的に実現することができます。契約が変わったので、有効に成立した契約をなかったことにしたいという一方的な主張は認められません。他方で、契約の解除によって一方的に契約をなかったことにすることができる場合があります。 本節では、契約の解除(民法)について解説します。 1 契約の解除 (1) 契約の解除とは? 当事者の一方が、契約または法律の規定によって定められた解除権を行使して、相手方に対する一方的な意思表示によって契約を終了させることを(民法の契約の総則に規定されている)契約の解除といいます(民540条1項)。 (2) 約定解除・法定解除 契約によって定められた解除権の行使を「約定解除」、法律の規定によって定められた解除権の行使を「法定解除」といいます。法定解除には、さらに法律が個々の契約ごとに個別に定めている解除権と、各契約類型に共通の債務不履行を理由とする解除権(本節【2】)があります。 法定解除のうち、法律が個々の契約ごとに個別に定めている解除権としては、委任契約や請負契約の任意解除などが挙げられます。 委任契約(例.税理士の顧問業務)については、各当事者はいつでも契約を解除することができます(民651条1項)。もっとも、損害賠償しなければならない場合があります(同条2項、本節のCOLUMN3)。なお、民法651条は任意規定なので、任意解除権を放棄する合意も有効です。 また、請負契約(例.税理士の申告書作成業務)については、仕事の完成前であれば、注文者はいつでも損害賠償をして契約を解除することができます(民641条)。 (3) 合意解除 上記(1)(2)の契約の解除に対し、当事者が契約締結後に契約を解消する合意を、「解除契約」または「合意解除」といいます。新たな合意によって契約を終了させる点で、一方的な意思表示によって終了させる契約の解除とは異なります。 2 債務不履行を理由とする契約の解除 (1) 概説 債務不履行を理由とする契約の解除は、債権者を契約の拘束力から解放するための制度です。解除しないと、債権者は自己の債務を履行しなければなりません。 このような制度趣旨から、債務不履行について債務者の帰責事由がなくても、債権者は契約を解除することができます。一方、債務不履行について債務者に帰責事由があるとき(例.買主が売買代金を破産したとき)は、債権者は契約を解除することができます(民543条)。 (2) 催告解除 当事者の一方が債務を履行しない場合において、債権者が履行の催告をし、その後、相当期間内に履行がないときは、債権者は、契約を解除することができます(民541条本文)。 すなわち、債務不履行を理由として契約解除するためには、①債務不履行、②履行の催告、③相当の履行期間の経過、④相手方に対する解除の意思表示が必要となります。 ②及び③は、債務者に履行の機会を最後に与えるものであり、③の相当期間とは、単に履行の準備をした後債務者が履行するために必要な期間です。また、②の時に、支払いがなされない場合には解除する旨を付せば、相当期間経過後に自動的に解除されるのであり、改めて解除の意思表示をする必要はありません。 ただし、催告後の相当期間を経過した時における債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除することができません(同条但書)。軽微かどうかは、不履行の態様及び是正された債務の軽微性の観点から判断されます。 なお、実務においては、催告なしに契約を解除できたり、期間が到来しておらず、債務不履行となっていなくても債務者が弁済を受けるなどしたら契約を解除できたりするという条項を契約書に設けることが多いです。 (3) 無催告解除 債権者は、債務不履行によって契約目的の達成が不可能であるときは、催告せずに直ちに契約を解除することができます(民542条1項)。 具体的には、債務の全部の履行が不能(原始的不能または後発的不能)であるとき(1号)や、債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(2号)、債務者が催告をしても契約目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき(5号)などです。 なお、履行不能について債務者に帰責事由があるときは、債権者は、契約を解除せずに、債務者に対して損害賠償請求するという選択肢もあります。 (4) 解除の効果 ア 原状回復義務 解除権が行使されたときは、各当事者は、相手方を原状に復させる義務を負います(民545条1項本文)。 解除の効果は、契約締結時に遡って生じます。契約が最初からなかったことになるので、契約に基づいて既にされた給付は、不当利得として返還の対象になります。 例えば、売買契約において既に給付がなされていた場合、解除によって買主は代金を返還し、売主は目的物を返還します。また、売主は、代金受領時からの利息を付さなければならず(同条2項)、買主は、目的物受領時以後に生じた使用利益を返還しなければなりません(同条3項参照)。 イ 損害賠償請求 解除したときであっても、債権者は、債務者に対して債務不履行を理由として損害賠償請求をすることができます(同条4項)。 解除によって契約は最初からなかったことになりますが、債務不履行責任が残存するものとして、民法415条(債務不履行による損害賠償)の要件を充足すれば、損害賠償請求をすることができます(1-9P67頁)。債務不履行が債務者の帰責事由によるものでないときは請求できません。 3 契約の解除の課税関係 法人がその収益の額を益金の額に算入した取引について、その後の事業年度において契約の解除をしたときは、解除による損失額は、解除の事実の生じた事業年度の損金の額に算入します(法基通2-2-16)。 また、個人が事業所得の金額の計算の基礎となった取引について、その後の年分において契約の解除をしたときは、解除による損失額は、その損失の生じた日の属する年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入します(所基51条2項、所税令141条3号)。 解除による損失額について、益金算入した事業年度または収入計上した年まで遡って更正の請求をすることはできないのは、事業が継続的に行われることを前提としており、収益と費用が個別でなく期間的に対応するものとされるからです。 これに対して、個人が(収益と費用が個別対応する)譲渡所得の金額の計算の基礎となった取引について、その後の年分において契約の解除をしたときは、解除による損失額については、収入計上した日の属する年分まで遡って更正の請求をすることができます。 COLUMN 1 契約の解除と似た制度 契約の解除と似た制度として、解除条件及び解約告知があります。 解除条件とは、法律行為の効力の消滅を不確実な将来の事実にかからせる特約(民法)のことをいいます(民127条2項参照)。例えば、「息子に子どもが生まれたなら返還してほしい」という条件でベビーカ―を贈与する場合、子どもの誕生が贈与契約の解除条件になります。事実が発生すれば、自動的に契約の効力はなくなるので、解除の意思表示は不要です。 これに対して、解約告知は、一方的な意思表示によって契約を終了させて、将来に向かって契約の効力を消滅させることをいいます。効果が契約締結時まで遡るのではない点で契約の解除と異なります。例えば、賃貸借契約の解除です(民620条)。 COLUMN 2 契約の解除により支払った違約金 買主との間で締結された機械装置売買契約を解除する際に、買主が売主に対して違約金を支払うことがあります。 平成29(2017)年度税理士試験の法人税法の計算問題において、違約金が出題され、いったん締結した事業用設備の取得に関する契約を解除したことにより支払った違約金50万円を、代わりに取得した機械装置の取得価額に算入せずに費用処理していると記述されています。 この点については、「一旦締結した固定資産の取得に関する契約を解除して他の固定資産を取得することとした場合に支出する違約金の額は、たとえ固定資産の取得に関連して支出するものであっても、これを固定資産の取得価額に算入しないことができます」(法基通7-3-2の3)。解除契約と新たな取得に係る契約とは別個のものであることが理由です。 COLUMN 3 税理士の顧問契約 税理士が依頼者と顧問契約を締結(委任契約を作成)する際の注意点について解説します。 [1] 任意解除 税理士と依頼者との間の顧問契約は、委任契約(民643条)となります。委任契約の場合、当事者はいつでも契約を解除することができます(民651条1項)。また、契約解除の効力は、将来に向かってのみ、その効力を生じます(民652条が準用する民620条、解約告知)。 もっとも、①相手方に不利な時期に委任を解除したとき、または②受任者が委任者の利益(専ら報酬を得ることを目的とするものを除く)を目的とする委任を解除したときは、任意解除は、相手方の損害を賠償しなければなりません(民651条2項本文)。 税理士による顧問契約の場合、税理士が専ら報酬を得ることによる利益のためであるため、依頼者は任意解除しても、税理士に対して上記②による損害賠償をする必要はありません。 契約によって定められた解除権の行使を約定解除、法律の規定によって定められた解除権の行使を法定解除といいます。前の事前告知を求めるのが通説的見解(例.3ヶ月前までに書面による通知をする)が契約書に設けられることが多いです。 なお、委任契約は、信頼関係が基礎であるため、解除権の放棄特約を付けても無効です。また、受任者が履行の途中で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができます(民651条3項)。また、委任事務の履行により得られる成果に対して報酬が支払われることを約した(成果報酬)ときに、委任が成果が完成される前に解除されたときは、受任者は、原則として報酬を請求することができませんが、委任者に帰責事由がある結果解除される等のやむを得ない事由によって委任が終了したときは、受任者は既にした履行の割合に応ずる報酬を請求することができます(民648条の2第2項が準用する民634条)。 [2] 善管注意義務 依頼者が契約期間中に税理士報酬を支払わない場合、税理士は、依頼者に対し、債務不履行(履行遅滞)による損害賠償請求(1-9P57頁)として、遅延損害金を請求することができます。 金銭債務の不履行による法定利率は、年3%となりますが、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率になります(民419条1項)。実務上は、国税通則法に定められた延滞税の割合(割合の合計である年14.6%(超過分を除く)を約定利率とすることも多いです。 税理士は、報酬の不払いの履行遅滞について、年3%を超える利率の損害賠償額を受領する旨の契約書に記載することができます。 [3] 帳簿などの返還義務 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物(果実だけではなく委任者の財産から受け取った物も含む)を委任者に引き渡さなければなりません(民646条1項本文)。 税理士は、契約終了時に、依頼者から預かった帳簿などを引き渡さなければなりません。報酬支払義務と帳簿などの返還義務は、同時履行の関係(民533条、4-1のCOLUMN1P167頁)に立たないので、特別の定めがない限り、依頼者が報酬を支払わないから引き渡さないと主張することはできません。 税理士には、契約終了時に特別の定めを設けることによって、依頼者が報酬を支払わない場合に、帳簿などの返還を拒絶することができます。 [4] 損害賠償責任の限定 税理士が善管注意義務を果たした場合の税理士には、税理士に故意または重過失があったときに限定する(軽過失のときは免責する)という免責条項が契約書に設けられることがあります。 しかしながら、依頼者が事業者ではない個人の場合には、(軽過失のときに)損害賠償責任を一切負わないとする条項は、消費者契約法8条1項1号に違反し無効となります。事業者と比べて情報や交渉力の点で不利な立場に置かれる消費者を保護するためです。 また、(依頼者が事業者であるかどうかを問わず、)軽過失のときに一定額を超える賠償について免責するという条項であっても、信義誠実の原則(民1条2項、信義則)に反し、または公序良俗(民90条)に反するときは、無効とされます。税理士は、税務に関する専門家として、納税義務者の信頼に応え、納税義務の適正な実現を図ることを使命とする専門職であるため(税理士1条)、無効とされることがあります。 [5] 合意管轄 特定の事件について日本の中のいずれの裁判所が裁判権を行使するかに関する定めを「管轄」といいます。そして、法律(民事訴訟法)の規定により定められた管轄を「法定管轄」といいます。 当事者は、一定の法律関係に基づく訴えの第1審裁判所に限り、書面により、法定管轄とは異なる定めをすることができます(民訴11条、合意管轄)。 税理士とは、自己の事務所の所在地を管轄する裁判所を、依頼者と紛争が生じた場合の(専属的)合意管轄裁判所とする条項を契約書に設けることができます。 POINT 当事者の一方が、契約または法律の規定によって定められた解除権を行使して、相手方に対する一方的な意思表示によって契約を終了させることを、契約の解除という。 契約によって定められた解除権の行使を約定解除、法律の規定によって定められた解除権の行使を法定解除という。 債務不履行を理由として契約解除するためには、①債務不履行、②履行の催告、③相当の履行期間の経過、④相手方に対する解除の意思表示が要件となる。 債権者は、債務不履行によって契約目的の達成が不可能であるときは、催告せずに直ちに契約を解除することができる。 解除権が行使されたときは、各当事者は、相手方を原状に復させる義務を負う。 解除したときであっても、債権者は、債務者に対して債務不履行を理由として損害賠償請求をすることができる。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

製造物責任|~物を造りし者たちの責任~

公開:2025/11/19

平成27(2015)年度税理士試験の法人税法の計算問題では、事業譲渡により引き継いだ負債として、「製造者(ママ)責任を問われる訴訟が提起されており、原告らと鋭意折衝し、800万円程度の損害賠償をする方向で話が進んでいる」と記述されています。 本節では、製造物責任(製造物責任法)について解説します。 1 製造物責任とは? 製造物の欠陥によって権利侵害が生じた場合、被害者は、売主に対して債務不履行による損害賠償請求(1-9P69頁)をすることが考えられますが、売主の責めに帰することができない事由によるものであるときは、請求は認められません。売主が販売店にすぎない場合、製造物の欠陥について売主の帰責事由を認めることが困難なことがあります。 そこで、被害者は、契約関係にない製造業者に対して損害賠償請求をすることが考えられます。請求根拠として民法の不法行為(1-9P69頁)による外に、民法の特別法である製造物責任法によって損害賠償請求をすることができます。製造物責任法によるほうが、製造業者に欠陥について故意または過失があったことが要件とされていないため(無過失責任)、一般的に被害者にとって有利です。 製造物責任法3条(製造物責任) 製造業者等は、その製造、加工、輸入又は前条第2号若しくは3号イの氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。 2 製造物責任の要件 製造物責任の要件は、下記のとおりです。 まず、製造物であることです。製造または加工された動産(製造2条1項)が対象であり、不動産や無体物(例.ソフトウェア)、加工されていない自然産物(例.未洗濯の野菜)や役務の提供は対象外です。 次に、当該製造物に欠陥があることです。欠陥とは、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」です(同条2項)。欠陥は、製造物の引渡時(出荷時)に存在することが必要です。 さらに、欠陥による損害の発生です。損害がその製造物についてのみ生じ、拡大損害(健康被害や火災などによる他の財産への被害)が生じなかったときは、製造物責任による賠償の対象とはなりません。製造物についてのみの損害が生じたときは、売主との間で解決されることになります。一方で、拡大損害が発生すれば、製造物自体の損害も含めて賠償の対象になります。 そして、請求の相手方は、製造業者だけでなく、輸入業者や製造物への氏名などの表示者なども含まれます。製造業者は一般的に除外されます。 ○製造物責任の要件 ① 製造業者等が製造した製造物に欠陥があること ② 人の生命、身体または財産に係る損害 ③ 損害の発生 ④ ①と②及び③間の因果関係 3 製造業者等からの抗弁 製造業者等からの製造物責任に特有の抗弁(反論)として、開発危険の抗弁(製造4条1項1号)があります。 開発危険の抗弁とは、製造業者などが引渡時における科学技術に関する知見によっては、製造物に欠陥があることを認識することができなかったという主張です。引渡時において入手可能な科学技術の最高水準の知見を基準として認識できたか否かが判断されます。この抗弁が認められるときは、製造業者等は免責されます。 4 製造物責任法による損害賠償請求権の消滅時効 製造物責任法による損害賠償請求権は、被害者が損害賠償義務者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅します(製造5条1項1号)。人の生命または身体を侵害したときは、3年間が5年間に伸長されます(同条2項)。 また、製造業者などが製造物を引き渡した時から10年間が経過したときも、時効によって消滅します(同条1項2号)。客観的または起算日は発売開始時です(同条3項)。 この消滅時効の特例として、10年間の起算点が、原則として不法行為時ではなく引渡時となっています。また、10年間というのは、民法の不法行為20年間(民724条)よりも短縮です(1-9P68頁)。したがって、製造物責任法によっては損害賠償請求できないが、民法の不法行為によれば損害賠償請求できる場合もあります。 POINT 製造物責任による損害賠償請求の要件は、①製造業者等が製造した製造物の欠陥、②人の生命、身体または財産に係る損害、③損害の発生、④①と②③との間の因果関係である。 製造業者等に欠陥について故意または過失があったことは、要件とされていない(無過失責任)。 民法の不法行為とは異なる消滅時効制度がある。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

株式の相続と譲渡制限|株主が死亡したら?

公開:2025/11/19

株主に相続が発生し、遺産分割がなされるまでの間、相続人はどのようにして株主としての権利を行使できるのでしょうか。また、株式を相続した相続人が、第三者に対して株式を売却して資金化しようとする場合には、どのような手続が必要となるのでしょうか。 本書では、株式の相続と譲渡制限(会社法)について解説します。 1 株式の相続 (1) 株式の共有 株主に相続が発生し、相続人が複数いるときは、遺産分割がなされるまでの間、相続人が株式を法定相続分に応じて共有(準共有)することになります(民898条、899条)。 民法は、数人で所有権以外の財産権を有する場合は準共有になるとしますが(264条、3-4P175頁)、会社法は、「株式の共有」と規定しています。 (2) 株式の共有者の権利行使 株式の共有者は、権利行使者1人を定め、会社に対し、権利行使者の氏名または名称を通知しなければ、議決権などの権利を行使することができません(会社106条本文)。会社が円滑に処理できるようにするためです。 ただし、会社が同意した場合には、株式の共有者は、権利行使者の指定・通知をしなくても、(民法の共有の規定(251条、252条)によって)権利を行使することができます(会社106条但書)。 権利行使者は、共有者の持分割合の過半数による多数決で指定されます(民252条本文)。共有者全員の一致は不要です。 権利行使者は、自己の判断で権利を行使することができ、共有者内部の合意内容に反しても有効です(判例)。 2 株式の譲渡 (1) 譲渡自由の原則 株主は、その有する株式を自由に譲渡することができます(会社法127条)。株主は、投下した資本を会社から直接回収する(出資の返還を求める)ことができないため、株式譲渡によって投下資本の回収を図ります。 (2) 定款による譲渡制限 会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定款で定めることができます(会社法107条1項1号)。会社にとって好ましくない者が株主になることを阻止するための定めであり、定款による株式の譲渡制限の定めは、非上場会社において広く設けられています。 定款に株式譲渡の制限規定が登記されて初めて(会社法911条3項7号)、会社の全部事項証明書などで外部での有無を確認できます。 株式譲渡のうち株主間のものなどについては、会社が承認したものとみなすと定款で定めて(会社法107条2項1号ロ)、承認手続を不要とすることもできます。 3 譲渡承認手続 譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨の定めを設けている株式を「譲渡制限株式」といいます(会社法2条17号)。 譲渡制限株式を他人に譲り渡そうとする者は、会社に承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法136条)。併せて、会社が承認しない場合は会社または会社の指定買取人が買い取ることを請求することができます(会社法138条1号ハ)。 譲渡承認請求を受けた会社は、原則として、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によって、承認するか否かを決定します(会社法139条1項)。承認請求の日から2週間以内に承認するか否かの決定を承認請求者に通知しなかったときは、会社は譲渡を承認したものとみなされます(会社法145条1号)。 譲渡承認をしない場合は買い取ることを請求された場合において、承認をしない決定をしたときは、会社は自ら買い取るか、承認をしない株式の買受人を指定しなければなりません(会社法140条1項、4項)。 会社が株式を買い取るときは、承認請求者に買取りの通知をしなければなりません(会社法140条1項)。譲渡承認しない旨の通知から10日以内に通知しないと(指定買取人が40日以内に買取りの通知をした場合を除く)、会社は譲渡承認をしたものとみなされます(会社法145条2号)。40日間の猶予があるのは、会社が買い取るときは、株主総会の特別決議が必要となるからです(会社法139条2項、309条2項2号)。会社に重い買い取り負担が、他の株主が予期せざるおそれがあるため、承認請求者は、原則として、株主総会において議決権を行使することができません(会社法140条3項本文)。 会社が買取を決定するときは、原則として、株主総会(取締役会設置会社にあっては取締役会)の決議によらなければなりません(会社法140条5項)。そして、会社による譲渡承認しない旨の通知日から10日以内に、指定買取人は、買取りの通知をしなければなりません(会社法141条1項、145条2号)。 会社または指定買取人が買取りの通知をしようとするときは、1株当たりの純資産価額に買取株式数を乗じて計算した金額を会社の帳簿(1-5p参照)し、承認請求者に供託を証する書面を交付しなければなりません(会社法141条2項、144条2項)。 会社または指定買取人が買取りの通知をしたときは、承認請求者との間で、売買価格を定めずに売買契約が成立します(会社法142条)。売買価格は協議によって定めますが(会社法144条1項・7項)、買取りの通知から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすれば(同条2項)、裁判所が売買価格(本節のCOLUMNを参照)を決定します(同条4項・7項)。20日以内に申立てがないときは、1株当たりの純資産価額に買取株式数を乗じて算出した金額(供託額)が売買価格になります(同条5項・7項)。 4 相続人に対する株式売渡し請求 相続人が譲渡制限株式を相続するときは、会社における譲渡承認手続は不要です。なぜなら、相続や合併などの一般承継(前主の包括的な地位の一切の承継)は、譲渡ではなく、譲渡制限が適用されないからです。 一般承継により株式を取得した者を株主から排除したいと考える会社は、定款に定めることによって、会社に株式を売り渡すことを請求し、強制的に買い取ることができます(会社法174~177条)。会社の請求により売買契約が成立します。 会社は、株式売渡し請求をしようとする都度、株主総会の特別決議を行う必要があります(会社175条1項、309条2項3号)。売渡し請求の対象となった株主は、原則として、株主総会において議決権を行使することができません(会社175条2項)。筆頭株主に相続が発生した場合に、筆頭株主の相続人は、株主総会において議決権を行使することができず、株式売渡し請求の決議が可決され、株主から排除されてしまうというリスクがあるため、定款に定めることには注意が必要です。 株式売渡しの請求があった場合には、売買価格は協議によって定めます(会社177条1項)。売渡し請求があった日から20日以内に裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすれば(同条2項)、裁判所が売買価格(本節のCOLUMN)を決定します(同条4項)。20日以内に申立てがないときは、売渡し請求は効力を失います(同条5項)。 COLUMN 株式の売買価格 裁判所では、下記の複数の評価方式を併用して、株式の売買価格(株価)を評価することが多いです。 評価方式の1つ目は、「DCF(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー)法」です。評価対象会社の事業から得られる予測期間中のフリー・キャッシュ・フローと予測期間以降の継続価値の合計額を、現在価値に割り引いたものが事業価値です。この事業価値に、事業目的に使用されていない会社資産(例、遊休不動産)を加算し有利子負債を控除することによって、株主価値を算定します。 2つ目は、「配当還元法」です。評価対象会社の将来の1株当たりの配当額を予想し、それを資本コスト(投資家の期待する利回り)で割り引いて、現在価値に直した評価額をもって、1株当たりの株式価値を算出します。 3つ目は、「類似会社比準法」です。評価対象会社と事業内容などが類似する上場会社を比較会社として抽出し、比較会社の財務指標と株価の関係から倍率を算出し、評価対象会社の財務指標にその倍率を乗じることにより事業価値を算出します。 この事業価値に、事業目的に使用されていない会社資産を加算し、有利子負債を控除することによって、株主価値を算定します。そして、株主価値を株数で除すことによって1株当たりの株式価値を算出します。 4つ目は、「純資産法」です。評価対象会社の1株当たりの純資産価額を株式価値とする方式です。 POINT 1 株主に相続が発生し、相続人が複数いるときは、遺産分割がなされるまでの間、相続人が株式を法定相続分に応じて共有(準共有)する。 株式の共有者は、権利行使者を1人定め、会社に対し、権利行使者の氏名または名称を通知しなければ、議決権などの権利を行使することができない。 株主は、その有する株式を自由に譲渡することができる。 会社は、譲渡による株式の取得について会社の承認を要すると定款で定めることができる。 一般承継により株式を取得した者を株主から排除したいと考える会社は、定款に定めることによって、会社に株式を売り渡すことを請求し、強制的に買い取ることができる。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

取締役の報酬|報酬が減額!?

公開:2025/11/19

取締役の報酬は、税理士試験によく出題されています。 令和2(2020)年度法人税法の計算問題では、「役員給与に関する事項」として「定時株主総会において決議された各職務執行期間の給与の月額」の資料が与えられています。専務取締役Bについては、「令和2年11月の就業時間の現場指揮対応の不十分さから、令和2年11月分から令和3年3月分までの5ヶ月間の給与について60万円の予定を、50万円に減額して支給したものであり、当該決定は取締役Cに該当しない」とされています。また、取締役Cについては、「令和2年12月分から令和3年3月分までの4ヶ月間の給与について、55万円の予定を60万円に増額して支給した。この増額支給の改定事由は臨時改定事由には該当しない」とされています。 また、平成24(2012)年度相続税法の計算問題では、被相続人の役員給与は、月額100万円であったが、病気のため入院し、長期間の療養が必要と見込まれたため、取締役会で月額50万円に引き下げることが決定したという記述がありました。 本節では、取締役の報酬(会社法)について解説します。 1 取締役の報酬等に関する規則 (1) 利益供与 取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益(以下「報酬等」)は、(指名委員会等設置会社を除き)定款または株主総会決議(普通決議)によって定めます(会社361条1項、404条3項)。お手盛りを防ぐため、取締役会が自由に定めることはできません。 なお、法人税法においては、役員に対して支給する職務の対価を「役員給与」といいます。 2 株主総会決議で定めるべき事項 取締役の報酬等のうち額が確定しているものについては、定款または株主総会決議によってその額を定めます(会社361条1項)。 実務上は、取締役の個人別の報酬額が明らかになることを避けるため、株主総会では、取締役全員の報酬総額の最高限度額のみを定め、各人の報酬額は、取締役会に一任することが多いです。報酬総額の限度額を定めれば、その後、(限度額に変更がなければ)改めて株主総会決議を行う必要もないと考えられています。 取締役の個人別の報酬額の決定を一任された取締役会は、さらにその決定を代表取締役に一任することができます。 3 報酬額の事後的な変更 株主総会決議などにより、取締役の職務執行の対価の報酬額を定めた場合には、取締役と会社との間の委任契約の内容となるため、期間とか職務内容に著しい変更があっても、取締役の同意なく、報酬を減額することはできません。 一方、報酬を増額することは、株主総会によって定められた報酬総額の限度内であれば可能です。 冒頭の設例で紹介した試験問題では、報酬を減額された取締役の同意の有無について触れられていませんが、本人の同意が必要です。 譲渡制限として、「法人税法、役員給与は、臨時改定事由または業績悪化改定事由によりなされた改定でなければなりません(法人税法34条1項1号、税法69条の81項)。臨時改定事由とは、法人役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情です。冒頭の設例で紹介した減額措置の、病気のための入院し、長期療養が必要と見込まれることは、臨時改定事由に該当します。 また、業績悪化改定事由とは、経営の状況が著しく悪化したこと、その他これに類する事情です。やむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情のことであり、法人との一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことなどは業績悪化改定事由に含まれません(法人基本通達9-2-13)。 4 取締役の退職慰労金 (1) 株主総会決議の必要性 取締役の退職慰労金は、在職中の職務執行の対価であるため、報酬等の一部として、定款または株主総会決議で定める必要があります。 ただし、退職慰労金の支給について、株主総会決議を若逃していたくても、支給額が、株主総会決議で定められた取締役の報酬総額の限度額内であれば、適法に支給することができるとされています。 (2) 株主総会決議で定めるべき事項 実務では、取締役の退職慰労金支給の決議が用いられるのを嫌って、株主総会では、一定の支給基準に従って支給するものとし、具体的な支給額などは取締役会の決議に一任する旨の決議がなされることが多いです。一任された取締役会は、代表取締役にさらに一任することもできます。 判例は、内規や慣行によって支給基準が確立しており、株主が支給基準を知ろうと思えば知ることができる場合には、取締役の退職慰労金の具体的な支給額などを取締役会の定めに一任する旨の株主総会決議を適法としています。 (3) 役員退職慰労金規程 株主に対して支給基準を示すことや、課税庁から支給額が不相当に高額であると指摘された場合に算定根拠を示すことができるようにすることなどを目的として、役員退職慰労金の算定規程が作成されることがあります。 会社に役員退職慰労金規程があっても、株主総会決議がなければ、取締役には、退職慰労金を請求する権利は発生しません。 COLUMN 1 使用人兼務役員の報酬・給与 (1) 税理士試験 税理士試験の法人税法には、使用人兼務役員がよく出題されます。 平成30(2018)年度の計算問題では、「X社は、株主総会の決議により、取締役の報酬総額を年額4,000万円以内とすることを定めているが、これには使用人兼務役員の使用人分の報酬を含めないこととしている。また、各人の金額の詳細は、取締役会の決議において決定することとされている」と記述されています。 また、平成27(2015)年度の理論問題では、「法人税法における使用人兼務役員の意義を簡潔に述べなさい」という問題がありました。 (2) 使用人兼務役員とは? 法人税法上、使用人兼務役員とは、役員(社長、理事長、代表取締役、副社長・専務・常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員などを除く)のうち、部長、課長その他法人の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事するものをいいます(法税34条1項・6項、法税令71条1項)。 (3) 使用人兼務役員の職務執行の対価 使用人兼務役員については、取締役としての報酬は細かく、職務執行の対価の大部分が使用人給与であることが多いです。 使用人として受ける給与の体系が明確に確立している場合には、株主総会においては取締役の職務執行の対価のみを決議しても適法にはなりません。実務では、報酬には使用人給与分が含まれないことを明記したうえで、株主総会において取締役の報酬等の決議が行われています。 なお、名目的役員であるにすぎず、使用人の地位を有するので、使用人に適用される退職金規程に基づいて、会社に対して退職金を請求するという事件において、使用人性(従業員性)が争われることがあります。 COLUMN 2 所得税の源泉徴収制度の合憲性 所得税の源泉徴収を当然の制度として捉えている方が多いかと思いますが、制度が憲法29条1項・3項(財産権)、14条1項(法の下の平等)に違反するとして争われた事件があります。 他の納税義務者のために過度に重く過度な義務を課されることは憲法29条1項・3項に違反しないか、給与所得者が事業所得者に比して源泉徴収によって徴税上格別の取扱いを受けており、源泉徴収義務者が一般国民に比して不平等な取扱いを受けたりしており、憲法14条1項に違反しないかが問題となりました。 最高裁昭和37(1962)年2月28日判決・裁判所Webは、憲法29条、24条は「租税の徴収、納税の時期、方法等を定める法律によることとしたと解したわけでなく、税徴収の方法をも法律によることと要するものとした趣旨と解すべきである。 税徴収の方法としては、担税義務者に直接納入させるのが原則であるが、国によっては第三者をして徴収し納入させる途を選択するものもあり、実情においてその例は少くない。給与所得者に対する所得税の源泉徴-収制度は、これによって国は税収を確保し、徴税手続を簡便化してその費用と労力とを節約し得るのみならず、納税者の側においても申告、納付等に関する煩雑な事務から免れることができる。また担税義務者としても、給与の支払をうけ所得税を分割してその翌月10日までにこれを国に納付すればよいのであるから、利するところ全くないとはいえない。されば源泉徴収制度は、給与所得者に対する所得税の徴収方法として合理的であり、合憲的であって、公共の福祉の要請にこたえるものといわなければならない。」、「かように担税義務者の徴税義務は憲法の条規に由来し、公共の福祉によって要請されるものであるから、この制度は前論のように憲法29条1項に反するものではなく、また、この制度のために、担税義務者において、所論のような負担を負うものであるとしても、右負担は同条3項にいう公共のために私有財産を用いる場合には該当せず、同条項の適用を要するものでもない」と判示しました。 そして、「租税はすべて最も合理的な理由なき方法によって徴収せらるべきものであるから、同じ所得税であっても、所得の種類や事情の異なるに応じてそれぞれにふさわしいような徴税の方法、納付の時期等の別異に定められることはむしろ当然であって、それが等一でないことをもって憲法14条に違反するということでできない。」また、「法は、給与の支払をなす者が給与を受けとる者と特に密接な関係にあって、徴収上相当の便宜を有し、能率を挙げ得る点を考慮して、これを徴税義務者としているのである。この義務が、憲法の条規に由来し、公共の福祉の要請にそうものである」、「かような合理的理由がある以上これに基いて創設者と特別の関係を有する徴税義務者に一般的納税者と異なる特別の義務を負担させたからとて、これをもって憲法14条に違反するものということとはできない」と判示しました。 上記判例に対して、①徴税義務の履行に必要な経済的負担は、源泉徴収義務者の経営規模や収入状態と比べれば些少で、国庫の今日的な財政上の要請である、②源泉徴収の対象とされていない所得については、源泉徴収に対応するものとして予定納税制度(所税104条)があり、給与所得者は事業所得者に比して徴税上格別の取扱いを受けているわけではないという見解があります。 POINT 2 取締役の報酬等(退職慰労金含む)は、定款または株主総会決議(普通決議)によって定める。 実務上は、株主総会では、取締役全員の報酬総額の上限を定め、各人の報酬額は、取締役会に一任することが多い。 株主総会決議などにより、取締役の職務執行の対価の報酬額を定めた場合には、在職中に容易に内容の著しい変更があっても、取締役の同意なく、報酬を減額することは原則できない。 取締役の退職慰労金については、支給基準などを取締役会で決定に一任する旨の株主総会決議は、内規や慣行によって支給基準が確立しており、株主が支給基準を知ろうと思えば知ることができる場合には、適法である。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

倒産処理手続|このままだとダメだ、もうダメだ

公開:2025/11/19

倒産処理手続の知識は、税理士試験においても問われています。 令和3(2021)年度法人税法の計算問題では、貸倒れに関する資料の中に、破産法による破産手続開始の申立て、民事再生法による再生手続開始の申立て、再生計画認可の決定が登場します。 また、令和元(2019)年度所得税法の理論問題では、債務免除を受けた個人の所得税の取扱いとして、破産法による免責許可の決定または民事再生法による再生計画認可の決定があった場合についての解答が求められています。 本節では、倒産処理手続(破産手続、民事再生手続、会社更生手続及び特別清算手続)の概要などについて解説します。 1 倒産処理手続 倒産とは、債務を返済できないような経済的状態をいいます。 倒産状態を放置すると、早い者勝ちの債権回収が行われ、債権者間に不平等が生じるおそれがあります。また、再生が可能であり、債務者にとっても再生のほうが債権回収額の点からメリットがあるにもかかわらず、債務者が破産に追い込まれ、経済活動・事業の再生による利益を実現できなくなるとおそれがあります(囚人のジレンマ)。さらには、低い清算価値しか実現できないおそれがあります。 そこで、倒産状態を放置しないことが債権者・債務者の双方の利益に適合するため、倒産処理手続が定められています。倒産処理手続においては、債権者による個別的な権利実行が禁止されます(担保権の実行を除く)。 倒産処理手続とは、債務者の財産を換価して債権者に平等に配当する清算型と、債務者の事業などを債権カットや弁済の猶予を与えることにより再建する 再建された事業などから生じる収入から弁済する再建型があります。 また、債務者が自己の財産などの管理処分権などを喪失し、選任された第三者(例、管財人)が管理などを行う管理型と、債務者自身が管理処分権を保持し手続遂行主体となるDIP (debtor-in-possession) 型があります。 倒産処理手続 | | 管理型 | DIP型 | | :--- | :--- | :--- | | 清算型 | 破産手続(破産法) | 特別清算手続(会社法) | | 再建型 | 会社更生手続(会社更生法) | 民事再生手続(民事再生法) | 2 破産手続 (1) 破産手続の概要 破産手続は、清算型かつ管理型の倒産手続です。裁判所から選任され、債権者を代表する第三者機関である破産管財人が、債務者の財産を換価し、また負債を確定させたうえで、債権者に対して厳格な債権者平等の原則に則って換価代金から配当します。 破産手続の対象となる債務者は、個人(自然人)と法人です。法人破産は、債権者のための手続であるのに対して、個人破産は、債権者に配当させるためであることは少なく、債務者が免責を得ることを主目的として行われるため、債務者のための手続であるといえます。 債務者自身による破産手続開始の申立てを「自己破産申立て」といいます。令和2(2020)年度の申立件数は、個人7万8188件(うち自己破産7万1078件)、法人の約266件(うち自己破産885件)となっており(司法統計)、ほとんどが自己破産申立てです。 裁判所は、債務者が支払不能にあるときは、破産手続開始の決定をします(破産法15条1項)。開始決定と同時に、裁判所は、破産管財人(ほとんどが弁護士)を選任します(破産法31条1項、74条1項)。また、開始決定をしたときは、官報公告を行います(破産法32条1項、10条1項、本節のCOLUMN)。 破産手続の場合は、他の倒産処理手続(再生計画、更生計画、協定)とは異なり、債務者の多数決により債権者の権利の内容を変更することは認められていません。破産管財人は、破産財産の価値に応じて平等に配当を行わなければなりません(破産法193条、194条)。 そして、裁判所は、債権者への配当が終了した後、債権者集会が終結したときは、破産手続終結の決定をします。終結決定をしたときは官報公告を行います(破産法220条)。 (2) 倒産処理手続 債務者が個人の場合、支払不能だけでなく債務超過も破産手続開始の原因となります(破産法15条1項)。 破産手続開始の決定には、株式会社の解散事由となります(会社法471条5号)。解散後も、債務者である法人は、破産手続による清算の目的の範囲内において存続しますが、破産手続が終結し、残余財産(自由財産)がないときは消滅します(破産法35条)。 (3) 個人破産 ア 同時破産廃止 破産者に破産手続費用を支払うだけの財産がない場合には、裁判所は、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をします(破産法216条1項)。同時破産廃止は、破産管財人の選任も行われません。 同時破産廃止は(法人破産者もありますが)個人破産に多いです。 イ 自由財産 債権者への配当に充てられず、破産者が手元に残すことができる財産を「自由財産」といいます。破産手続開始後に破産者が取得した財産(破産法34条1項・2項、例、手続開始後の労働の対価としての給与)や差押禁止財産(同条3項1号)、差押禁止財産の拡張(同条3項2号)などが自由財産となります。自由財産の拡張が認められることもあります(同条4項)。例えば、預金(債権)は金銭ではないので、原則として差押ができますが自由財産の拡張が認められれば、差押えされずにすみます。自由財産の拡張が99万円以下となる自由財産の範囲の拡張は、比較的緩やかに認められます。 なお、法人にも自由財産は認められますが、極めて例外的な場合に限られます。 ウ 免責手続 債務者が個人の場合、破産手続とは別の手続として、免責手続があります。自己破産手続開始の申立てがあった場合には、同時に免責許可の申立てをしたものとみなされます(破産法248条4項)。 裁判所は、免責不許可事由(例、浪費・賭博による著しい財産の減少)がない限り、免責許可の決定をします(破産法252条1項)。もっとも、免責不許可事由があっても、裁判所の裁量によって免責許可の決定をすることができます(同条2項)。 免責許可の決定が確定すると、個人破産者は、原則として、破産債権について責任を免れます(破産法253条1項)。ただし、一部の非免責債権(例、租税、破産者が悪意または重過失により加えた人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権、養育費債権)には、免責の効力は及びません(同条1項但書)。重んじるべき利益を考慮した上で、免責許可制度の趣旨との調整から特定の債権は非免責債権とされています。 エ 破産管財人 破産手続では、破産手続開始の決定により、様々な権限についての資格が制限されます。例えば、税理士法24条には、破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者は、税理士となる資格を有しないと規定されています。 免責許可の決定が確定すると、破産者は復権し(破産法255条、その他に256条)、資格制限も消滅します。 3 民事再生手続 (1) 通常再生 ア 概要 民事再生手続は、再建型かつDIP型の倒産手続です。債務者は、手続開始後も、原則として業務遂行権及び財産の管理処分権を有しますが、債権者に対して、公平かつ誠実に、権利を行使し、再生手続を遂行する義務を負います(民再38条)。 通常再生手続の対象となる債務者は、個人と法人です。 令和2(2020)年度の既済事件数は、通常再生は152件です。なお、下記(2)で解説する小規模個人再生は1万1948件、給与所得者等再生は764件となっていました(司法統計)。 最近では、エアバックの不具合が問題となったタカタ株式会社が民事再生手続を選択し、平成30(2018)年6月に再生計画の認可決定が確定しています。 また、令和3(2021)年10月末時点で、管財人を選任せずに再建を進めている(株)MTGOX)や学校法人森友学園などが民事再生手続中です。 イ 再生手続開始の原因 再生手続開始の原因は、債務者に破産手続開始の原因となる事実(本節の2(1))の生ずるおそれがあること、または債務者が事業の継続に著しい支障を来たすことなく弁済期にある債務を弁済することができないことです(民再21条1項)。両者は、「おそれ」があれば足りることとすることで、開始原因を緩和し、再生が可能な早期の申立てを促しています。 裁判所は、申立てがあり、再生手続開始の原因があるときは、再生手続開始の決定をします(民再33条1項)。 ウ 監督委員 裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、監督委員による監督を命ずる処分をすることができます(民再54条1項)。監督委員は(ほとんどが弁護士)、再生債務者(債務者)の行為に対する調査権と同意権(同条2項)、今後の再生計画案に関する調査権(民再58条)などを有します。 エ 再生計画案の決議 債務者は、再生計画案を作成して裁判所に提出しなければなりません(民再163条1項)。再生計画には、再生債権者の権利を変更する条項(例、元本を6割免除し、残元本を8年間で弁済する)などを定めなければなりません(民再154条1項)。権利変更の内容は、再生債務者が自力で返済できる見込みのある内容でなければ、再生計画案は可決されません。 裁判所は、再生計画案の提出があったときは、一定の場合を除き、決議に付する旨の決定をします(民再169条1項)。 再生計画案の可決のためには、①出席議決権者の過半数の同意(頭数要件)及び②議決権者の議決権総額の1/2以上の議決権を有する者の同意(債権額要件)が必要です(民再172条の3)。 オ 再生計画認可の決定 再生計画案が可決された場合には、裁判所は、不認可事由がある場合を除き、再生計画認可の決定をします(民再174条)。 不認可事由とは、決議に同意しなかった多数の再生債権者を保護するための最低限の要件を満たさないことです。具体的には、民事再生手続よりも破産手続によるほうが債権者にとって有利で、債権者の一般の利益に反することなどです。 再生計画は、認可の決定により、効力を生じます(民再176条)。認可決定が確定したときは、再生計画の定めなどによって認められた権利を除き、債務者は、原則としてすべての再生債権について免責されます(民再178条)。 再生債権(届出再生債権及び認識債権(届出がなくても債務者がその存在を知って認否書に記載した再生債権))の内容は、再生計画の定めによって変更されます(民再181条)。 カ 手続続行の決定 裁判所は、監督委員が選任されている場合において、再生計画が遂行され、または再生計画認可の決定の確定した日から3年を経過したときは、再生手続終結の決定をしなければなりません(民再188条2項)。再生計画認可の決定時に終結決定がなされないのは、再生計画の履行を監督するためです。 (2) 携帯再生 ア 小規模個人再生 小規模個人再生とは、継続的にまたは反復して収入を得る見込みがある個人債務者を対象として、通常再生よりも簡易迅速に処理する手続です。 小規模個人再生の手続開始要件は、①債務者が将来において継続的にまたは反復して収入を得る見込みがあること、②再生債権総額(ただし、住宅ローンなどを除く)が5000万円を超えないことです(民再221条1項)。③は、将来の収入から弁済することになり、破産手続よりも多くの弁済ができるので、簡易な再生手続を利用できることにしたものです。収入が定期的でなくても、また収入額の変動幅が大きくても、①の要件を満たします。④において住宅ローン債権額などが除かれるのは、それらは再生債権による減免の対象にはならないからです。 再生計画には、通常再生とは異なり、権利変更の内容について形式的平等の原則が適用されます(民再229条1項)。 裁判所は、再生計画の提出があったときは、一定の場合を除き、決議に付する旨の決定をします(民再230条3項)。 再生計画案が可決された場合には、裁判所は、不認可事由がある場合を除き、認可の決定をします(民再231条1項)。不認可事由として重要なのは、最低弁済額に反することです(同条2項5号・4号)。将来にわたる弁済をする再生計画では、社会的な感情などから相当ではない、最低弁済額を下回るべきでないとの要請もあるため、最低弁済額を上回る弁済をしなければなりません。 小規模個人再生手続は、再生計画の認可決定によって当然に終結します(民再233条)。履行の監督は想定されていません。 イ 給与所得者等再生 給与所得者等再生とは、小規模個人再生の対象となる個人債務者のうち、定期的な収入を得る見込みがあり、かつ、収入額の変動幅が小さいと見込まれる者を対象として(民再239条1項)、小規模個人再生よりもさらに簡易迅速に処理する手続です。 可処分所得の一定部分を計画弁済に充てることが必要となりますが(民再241条2項7号)、再生計画案に対する再生債権者の決議(同意)は必要とされません。申立の段階から弁済する意思が乏しい、給与所得者等再生では、小規模個人再生が選択されることが多いです。 ウ 住宅資金貸付債権に関する特則 経済的に困窮した個人債務者が自宅を手放すことなく再生できるよう、住宅資金貸付債権に関する特則が設けられており、他の再生債権者とは異なる取扱いを定めることができます。 この特則は、通常再生(個人)、小規模個人再生、給与所得者等再生のいずれにおいても適用されます。 4 会社更生手続 会社更生手続は、再建型の倒産処理手続です。株式会社のみを対象とした(会更1条)、民事再生手続よりも複雑な手続ですが、更生管財人が必ず選任されます(会更42条1項)。 に対して提供できてしまうこと(個人情報保護法23条)が懸念されました。 そこで、令和2(2020)年6月に個人情報保護法が改正され、「個人情報取扱事業者は、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがある方法により個人情報を利用してはならない」(16条の2)という規定が設けられました。 個人情報の不適切な取得だけでなく、不適正な利用も禁止されることとなりました。令和4(2022)年4月に施行されます。 POINT 1 (法的な)倒産処理手続として、破産手続、民事再生手続、会社更生手続及び特別清算手続がある。 倒産処理手続には、清算型と再建型がある。また、管理型とDIP型がある。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

失踪宣告|あなたはもう死んでいる

公開:2025/11/19

相続税の申告期限である10ヶ月以内の起算日の基準となる「相続の開始があったことを知った日」の意義が相続税法基本通達27-4に定められています。民法30条及び31条の規定により失踪の宣告を受けた者にかかる相続人などについては、失踪宣告に関する審判の確定のあったことを知った日とされています。 本節では、失踪宣告(民法)について解説します。 1 失踪宣告とは? 失踪宣告とは、家庭裁判所の審判によって生死不明の者を死亡したものとする民法上の制度です。不在者とは、従来の住所(生活の本拠)または居所(生活しているが住所のように安定したものではない場所)を去った者のことをいいます(民22条、25条、35条1項)。 失踪宣告の種類として、普通失踪と(死亡の原因となるべき危難に遭遇した場合の)特別失踪があります。 ○司法統計(令和2(2020)年度) | | | | :--- | :--- | | ① 失踪宣告及びその取消し | 失踪宣告 218件、その取消し 1732件 | | ② 不在者の財産管理に関する処分(本節のCOLUMN3) | 既済総数 7648件 うち認容 6796件 | 2 失踪宣告の要件 失踪宣告の要件は、不在者の生死不明が、普通失踪の場合は生死が証明された最後の時から7年間、特別失踪の場合は危難が去った時から1年間継続して、利害関係人が家庭裁判所に失踪宣告を求める申立てをすること、家庭裁判所は、親族への調査を行い、そして官報や裁判所の掲示板に催告をします。不在者の生存を知る者から届出などがなかったときは、家庭裁判所は失踪宣告の審判をします。 なお、平成23(2011)年の東日本大震災から1年後に、特別失踪による大量の申立てがなされることが予想され、被災者の家庭裁判所は対応を検討しましたが、死亡届(本節のCOLUMN1)の要件緩和が認められたため、大量の申立てがなされることはありませんでした。 3 失踪宣告の効果 失踪宣告の審判が確定すると、失踪者は、普通失踪の場合は失踪期間(7年間)満了時に、特別失踪の場合は危難が去った時に死亡したものとみなされます(民31条)。これにより失踪者の相続が開始され、また失踪者との婚姻が解消されます。 申立人は、失踪宣告の審判が確定してから10日以内に、市区町村に対して失踪の届出をしなければなりません(戸84条)。届出により戸籍に死亡が記載されます。 4 失踪宣告の取消し (1) 遡及効 失踪宣告は、それが事実に反することが明らかになっただけでは効力は失われません。効力を失わせるには、家庭裁判所の審判による失踪宣告の取消しが必要です(民32条)。 失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告ははじめからなかったことになります。相続は開始しなかったことになり、解消したはずの婚姻は存在していたことになります。 (2) 現及び効の制限 相続人が、失踪宣告により相続が発生したから承継した不動産甲を乙に対して売却した後に、Xの失踪宣告が取り消されたとします。 取消しにより失踪宣告ははじめからなかったことになりますが、YとZを保護する規定があります。 まず、YとZの双方が、Xの失踪宣告が事実に反することを知らないで売買したときは(善意)、Zは甲の所有権を失わず(同条1項2文)、Xは甲を取り戻すことができません。 また、Zが甲の所有権を取得する場合、Yは、Xに対して、売買代金相当の利得を返還しなければなりませんが、現存利益(利益がそのまま、または形を変えて残っている限度)の返還で足ります(同条2項)。 (3) 失踪宣告の取消しの課税関係 失踪宣告の取消しの審判が確定すると、失踪宣告による相続の開始により相続税申告書を提出した者は、取消しの確定を知った日の翌日から4ヶ月以内に限り、所轄税務署長に対し、更正の請求をすることができます(相税32条1項2号、相基通32-1)。 COLUMN 1 死亡届 死亡届には、診断書または検案書を添付しなければなりません。ただし、やむを得ない事由があるときには、死亡の事実を証すべき書面の添付でよいとされています(戸86条)。死亡届により、戸籍に死亡が記載されます。 東日本大震災のときは、遺体が発見されず死亡の確認が困難であった事例の相当数について、死亡届の弾力的な運用がなされました。 COLUMN 2 認定死亡 水難、火災などによって死亡した者がある場合に、その取調べをした官庁または公署が、死亡地の市町村長に対して死亡の報告をし、戸籍に死亡が記載されることを「認定死亡」といいます(戸89条)。認定死亡では、死亡は事実と推定されているので、反対の証明がなされた場合には覆されます。 あくまでも行政上の便宜的な取扱いであるため、生命の保険があるなど、認定死亡とは別に、法律行為(裁判など)を失わせる(取り消す)には家庭裁判所の審判が必要となる失踪宣告とは異なります。 COLUMN 3 不在者の財産管理 不在者に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は、利害関係人の申立てにより、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため、財産管理人の選任などの処分を行うことができます(民25条)。 失踪宣告とは異なり、生死が不明でない利害関係人についても、適切な管理のために特に必要があると認めるときは、国(内閣総理大臣)は、不在者財産管理人の選任を請求することができます(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法38条)。 不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、不在者に代わって、遺産分割や不動産売却などを行うことができます(民28条、103条)。また、不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可により、不在者の財産から相当な報酬を受けることができます(民29条2項)。 不在者財産管理人の選任後は、不在者が生存する場合については失踪宣告の審判が確定したりすると、終了となります。 POINT 1 失踪宣告とは、家庭裁判所の審判によって生死不明の不在者を死亡したものとする制度である。 失踪宣告の要件は、不在者の生死不明が、普通失踪の場合は生死が証明された最後の時から7年間、特別失踪の場合は危難が去った時から1年間継続していることである。 失踪宣告の審判が確定すると、失踪者は、普通失踪の場合は失踪期間(7年間)満了時に、特別失踪の場合は危難が去った時に死亡したものとみなされる。 失踪宣告取消しの審判が確定すると、失踪宣告ははじめからなかったことになる。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

消滅時効|時の過ぎゆくままにすると・・・

公開:2025/11/19

消滅時効という制度があることは多くの方に知られていますが、消滅時効の細かいルールはあまり知られていません。 相続税について、相続開始時(被相続人の死亡時)に現に消滅時効の完成した債務は、債務控除の対象となる確実と認められる債務には該当しないと定められています(相基通14-4)。この通達を理解するには、時効の完成と援用の違いを知っておく必要があります。 また、令和2(2020)年4月の民法改正の施行により消滅時効期間が大きく変更されており、消滅時効についての知識も更新が必要となっています。 本節では、消滅時効(民法)について解説します。 1 消滅時効 (1) 消滅時効とは? 消滅時効とは、権利が行使されない状態が継続した場合に、その権利の消滅を定める制度です。消滅時効が存する理由として、時間の経過により過去の事実(例、弁済)の立証が困難になることから債務者を保護する点、権利を長期間行使しない債権者は保護に値しないなどが挙げられます。 なお、時効には取得時効(1-1P18頁)という制度もあります。こちらは、物を一定の期間支配した者が権利を取得することを認めるものです。 (2) 消滅時効の対象となる権利 消滅時効の対象になる権利は債権などです。所有権は消滅時効の対象にはなりません。もっとも、他人が取得時効により物の所有権を取得すると、その反射的効果として前主は所有権を喪失します。 (3) 債権の消滅時効 債権は権利を行使できる時から消滅時効により消滅するのが原則です。 債権の消滅時効期間は、令和2(2020)年4月1日に施行された改正民法により単純化及び統一されました(改正前は本節のCOLUMN1)。 原則として、権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間、権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しない場合は、債権は時効によって消滅します(民166条1項)。すなわち、行使できることを知った時から5年で消滅します。 なお、不法行為による損害賠償請求権(民724条)や生命・身体の侵害による損害賠償請求権(民724条の2)などの時効期間については、例外が設けられています(1-6P68頁)。 民法166条(債権等の消滅時効) 1項 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。 1号 債権者が権利を行使することできることを知った時から5年間行使しないとき。 2号 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。 2 時効期間 (1) 時効の完成猶予と更新 消滅時効期間が経過すると、必ず時効が完成するわけではありません。 消滅時効期間中に一定の行為があった場合、権利行使の意思が明らかになったといえるので時効が猶予されることを「時効の完成猶予」といいます。また、権利の存在について確認がされたといえるために、それまで進行していた期間がリセットされ新たにゼロから起算されることを「時効の更新」といいます。 (2) 裁判上の請求 裁判所に訴えを提起すると、裁判が終了するまで時効の完成が猶予されます(民147条1項)。そして、確定判決などによって権利が確定したときは時効が更新され、裁判確定時から新たに時効が進行します(同条2項)。 (3) 催告 訴えを提起するのではなく、口頭や書面で弁済してほしいと単に請求することを「催告」といいます。催告をしても、催告時から6ヶ月間、時効の完成が猶予されるだけです(民150条1項)。その期間内に裁判上の請求などを行わなければ、時効は完成します。催告は、訴訟提起などをするまでのつなぎの役割を果たすだけです。 また、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、時効の完成猶予の効力を有しません(同条2項)。催告によって、債権者の時効の完成が忘れられることはできません。 (4) 承認 債務者が債務の存在を認めることを「承認」といい、承認があったときは時効が更新されます(民152条1項)。一部を弁済したり、支払いの猶予を求めた りすることは承認に該当します。 3 援用 (1) 援用とは? 消滅時効期間が経過し、猶予事由が起こらないとき(時効の完成のとき)に、債権は時効によって当然に消滅するわけではありません。当事者が援用(消滅という利益を受ける旨の意思表示)しなければ、裁判所は時効を認めることができません(民145条)。それゆえ、債務者の時効の完成に気づかずに自白したとしても、訴訟であっても、時効の利益を考慮に入れることはありません。 本節の冒頭で紹介した相続税法基本通達は、相続開始時に、援用の意思表示をしていなくても、消滅時効が完成している債務は、債務控除の対象にならないと定めています。 (2) 消滅時効完成後の自認行為 それでは、債務者に支払いを猶予してほしいなどと伝えた後に、既に消滅時効が完成していると気づいた場合、債務者は消滅時効を援用できるでしょうか。民法には規定はありませんが、判例は、債務者が消滅時効完成の事実を知らなかった場合であっても、時効完成後に債務を承認する行為があったときは、消滅時効を援用できないとの判例を長く確立し、その債務について、時効を援用することができなくなります。 気づいて援用しなければ時効によって消滅しない、時効完成後に気づかずに債務の存在を認めてしまうと援用できなくなるなど、消滅時効は知っているか、気づくかによって訴訟の結果に大きな影響を与えます。 COLUMN 1 債権の消滅時効期間(民法改正前) 令和2(2020)年4月1日前に生じた債権などの消滅時効期間に関しては、改正前の民法の規定が適用されるので、しばらくは新旧両方の制度を理解しておく必要があります。改正前の、債権の主な消滅時効期間は下記のとおりです。なお、税理士の報酬債権は「職業別」で2年間でした。 原則:権利を行使することができる時から10年間 例外:権利を行使することができる時から下記の期間 ① 飲食店の飲食料債権 - 1年間 ② 売掛代金債権、弁護士の報酬債権 - 2年間 ③ 定期給付債権 - 5年間 COLUMN 2 貸金請求権の消滅時効期間 未払賃金(残業代含む)を請求しようとする場合、消滅時効期間は2年間とされていましたが、民法改正に伴い、令和2(2020)年4月以降に支払日が到来する賃金請求権については5年間(ただし、当分の間は3年間)に延長されました(労働基準法115条、143条)。 COLUMN 3 慰謝料・損害賠償の徴収権の制限 租税滞納者である国などは、被相続人と連帯保証契約を締結できます。 納税額は、更正決定などによって、納付すべき税金の金額が確定します(納付すべき税額を確定する処分、納税者の申告、納付すべき税額が法定されている税金など)。原則として、法定納期限から5年を経過した日以後においては、更正決定などはできません(国通法70条1項本文)。その期間を「除斥期間」といいます。 一方、除斥期間の経過した後にされた徴収権の行使を認め、徴収権は時効によって消滅します。法定納期限から5年間行使しないことにより消滅します。 隣地通行権が認められるのは、土地が荒廃され、社会的な損失が生じることを防ぐためです。 2 公道に通じない土地とは? 「公道に通じない土地」の公道は、公衆の用に供される道路を指し、私道を含みません。 また、現に道路が存在する場合であっても、既存の通路では土地の利用に応じた利用にとって不十分であるときは、「公道に通じない土地」と評価されることがあります。 隣地通行権が認められるかどうかについて、最高裁平成6(2006)年3月16日判決・裁判所Webは、「自動車による通行を前提とすると210条通行権の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とすると210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである」と判示しています。 さらに、道路に2m以上接するという建築基準法43条1項の接道要件を満たしていない土地について、最高裁平成11(1999)年7月13日判決・裁判所Webは、「建築基準法43条1項本文は、土地又は建物の所有権を取得して、接道要件を定め、営業等のために公法上の規制を課している。このような建築基準法43条1項本文は、その目的、手段等からみて、同一土地の所有者のために隣地の他の土地の上に無償の通行権が当然に認められると解することはできない」と判示しています。隣地通行権の成立及び内容について、接道要件を考慮すること自体は否定されていないと解されています。 3 有償通行権(原則) (1) 隣地通行の場所及び方法 隣地通行権が認められるからといって、隣地の好きな場所を通行できるわけではありません。隣地通行の場所及び方法は、通行のための必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民211条1項)。 具体的には、権利を濫用したり、隣地を荒廃させたりすることはできません。 (2) 償金の支払義務 通行権者は、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければなりません(民213条1項)。償金は、隣地に現実に発生した損害を賠償する性質と通行権の利用を償還する性質を併せ持ちます。 もっとも、通行権者は、償金の支払をしなかったとしても、隣地通行権を失わず、引渡しを請求することができます。隣地通行権は、公道に面するために認められる権利であり、償金の支払いを前提として認められるわけではないからです。 4 無償通行権(例外) 共有物の分割(3-4P178頁)によって公道に通じない土地が生じたときは、袋地の所有者は、公道に出るため、他の分割者の所有地のみを通行することができます(民213条1項)。 また、土地所有者が土地の一部を譲渡したことにより公道に通じなくなったときは、袋地の所有者は、公道に出るため、譲渡人または譲受人の土地のみを通行することができます(同条2項)。 これらの場合、償金を支払う必要がありません。通行権の発生を予期して分割地または譲渡した他の分割者の利益を保護するためであり、償金の負担を負わせるのは酷といえるからです。 POINT 1 袋地または準袋地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。 隣地通行権の通行の場所及び方法は、通行権者のために必要があり、かつ、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。 通行権者は、原則として、通行する土地の所有者の損害に対して償金を支払わなければならない。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

共有|みんなのもの

公開:2025/11/19

遺産分割や夫婦による購入などの結果、資産が共有となることがあります。共有物の変更や管理などは、どのようにして行うことができるのでしょうか。また、共有者の1人が共有物を独占使用するときに、他の共有者は何を請求できるのでしょうか。 共有は、税理士試験の所得税法に出題されています。令和3(2021)年度の計算問題では、「相続前の持分は、家屋が母と兄の2分の1共有、土地が甲の母、兄、甲の3分の1共有であり、Yは、甲の母の持分すべてを相続したうえで、家屋及び土地を売却したと記述されています。 また、平成29(2017)年度の計算問題では、新築で取得した自宅マンションは、乙と乙の妻の共同名義で購入したものであり、その共有持分は乙:8、乙の妻:2となっている。諸費用はその共有持分に応じて負担していると記述されています。 本節では、共有(民法)について解説します。 1 共有とは? 複数人が1つの物を共同で所有することを「共同所有」といいます。そして、共同所有の原則形態を「共有」といいます。 共有とは、複数人が所有する目的を「共有」といい、かつ、各自の持分が顕在化しているものをいいます。 課税関係として、共有物の持分は、共有物の価額を持分に応じて按分した価額によって評価すると定められています(評基通2)。 なお、複数人が所有権以外の財産権(例、賃借権、株式)を共同で有することを「準共有」といいます。共有に関する規定(民249〜263条)が準用されますが、法令に特別の定めがあるとき(例、労働債権について民427条)は準用されません(民264条)。 また、相続人が複数あるときは、遺産分割がされるまで、各自の相続分に応じて共有(遺産共有)となります(民898、899条。株式の準共有については2-4P131頁)。 2 共有の内部関係 (1) 共有物の変更・管理・保存 共有物は、どのようにして使用できるのでしょうか。共有者全員の同意がなければ、変更行為(例、売却、増築、地目変更)をするためには、共有者の同意が必要です(民251条)。 共有不動産の所有権を売却するためには、全員の同意が必要になりますが、自分の共有持分権(1/2や1/3などといった割合の権利)を売却することは単独で行うことができます。もっとも、共有持分権の売却は、買主を見つけるのが困難であり、仮に見つけることができても売却金額が低くなってしまうことが多いです。 次に、管理行為(例、賃貸借契約の解除)をするためには、共有者の持分価格の過半数(民252条本文)が必要になります。 例えば、Aが1/2、Bが1/4、Cが1/4の共有持分権を有する場合、Cが同意しなくても、AとB2人の同意によって管理行為を行うことができます。一方、Aが単独では管理行為を行うことはできません。 そして、保存行為(例、修繕、無断使用者への明渡請求)は、各共有者が単独で行うことができます(同条但書)。 民法251条(共有物の変更) 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。 民法252条(共有物の管理) 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。 (2) 共有物の管理費用と負担 共有物の管理費用(利用・改良のための必要費及び益費)と負担(固定資産税などの負担金)は、共有者が持分に応じて負担します(民253条1項)。 利用・改良に反対した共有者も持分に応じて負担しなければなりません。共有者が1年以内にこの負担義務を履行しないときは、他の共有者は、相当の償金を支払って、その履行しない者の持分を取得することができます(同条2項)。 (3) 共有物の1人が共有物を使用する場合 共有物の1人が共有不動産を使用し、他の共有者は使用できない状態が続くことがあります。各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるところ(民249条)、使用していない共有者は、使用している共有者に対して何か請求できるのでしょうか。 まず、明渡しを請求しても、共有者であれば共有不動産の占有をする権利があるため、当然には認められません。過半数を超える多数の権利者が、少数持分権者に対して明渡請求をしても、当然には認められません。 また、明渡しを求める理由を主張・立証しなければなりません(判例)。 次に、相続人の1人が相続開始前から遺言で建物を取得した相続人の承諾を得て被相続人と同居していたときは、原則として、少なくとも遺産分割終了までの間は、使用貸借契約(3-10P213頁)関係が存続するため、使用料の請求は認められません(判例)。 3 共有物の分割 共有状態に不満のある共有者が採り得る方法として、共有物分割請求があります。共有状態の解消を求めるものです。共有物は、共有物に関する権利の主張を互いに制限し合う不自由なものなので、各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができます(民256条1項本文)。 分割類型として、現物分割(土地を分筆するなど)、競売による代金分割、全面的価格賠償による分割(共有者の1人が共有物を取得し、他の共有者に価格賠償を行う分割)などがあります(民258条2項、判例)。 隣地関係として、個人が所有している土地について持分に応じた現物分割があったときには、土地の譲渡はなかったものとすると定められています(所基通33-1の7)。土地全体に及んでいた所有権が分割により一部に制約されただけであり、譲渡収入の算定の基礎がないことなどによるためです。 これに対して、完全な全面的価格賠償による分割の場合は、持分の譲渡があったものとして所得税が課されます。 COLUMN 1 共有地の分割 経済的に「共有地の悲劇」という寓話があります。 町に共有地の牧草地があり、複数の牧草業者がいるとします。自分たちが飼育する牛に牧草地の草を自由に食べさせることができるとします。住人たちが協力して牛をまんべんなく食べさせると、牛が牧草を食べ尽くすことはなく、草が生育するまで待つことができます。 ある経済主体が意思決定の際の費用を無視すると外部不経済(ある経済主体の意思決定が、他の経済主体に影響を及ぼすこと)となり、市場の失敗(市場メカニズムが働かない状態)が生じます。牛を増やし、牧草地の草をたくさん食べさせると、他の住民の利用できる草が減るという負の外部性を考慮する動機づけがない場合には、共有地の悲劇は生じます。 解決方法としては、住民たちが協議して牛の数を制限する、羊の飼育数に応じて課税して内部化する、牧草地を分割して各自に割り当てるという方法が考えられます。 COLUMN 2 税理士法人による特別会員の徴収 団体において意思決定する場合、構成員全員の意見が一致しなく、多数決が採用され、少数意見となった構成員も団体の決定に拘束されることになります。 税理士にとって一番身近な団体として税理士会がありますが、税理士会は、多数決決議によってあることについて団体の意思として決定して、構成員(会員)に協力を求めることができるのでしょうか。 改正税理士法に違反したとして、国税局OBへの政治献金等を斡旋するため、会員から6000円を徴収することはできるかどうかが争われた事件がありました。 最高裁平成8(1996)年3月19日判決・裁判所Webは、「税理士会が政治 と会社との関係では、法が、「自らの利益を図り、その団体の範囲内において、税理士の団体に強制加入団体であることを考えれば、その目的を達するのに必要な限度において、税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、その一つとして会則に従って税理士会が経済的基礎を確立するために必要な会費を納入する義務を負う。しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員は、個々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当初に予定されている。したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に基づいて活動するにも、そのために会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある。 特に、政党など税理士法の政治団体に対して会員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人がその有する個人的な政治的見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事項であるというべきである。」、「そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないと判示しました。 税理士会が強制加入団体であることと、税理士会が団体の意思として決定したのが職業倫理向上と政治団体に対する会員の寄付であることが対決した点が重要ポイントとなっています。 仮に、税理士の任意加入団体における意思決定であったり、また災害復興支援目的の会員の寄付である場合には、団体の目的の範囲内の行為であると判断される可能性が高いです。 POINT 1 共有とは、複数人が持分を有して1つの物を共同所有することであり、かつ、各自の持分が顕在化しているものをいう。 共有物の変更行為をするためには、共有者全員の同意が必要になる。 共有物の管理行為をするためには、共有者の持分の価格の過半数が必要になる。 共有物の保存行為は、各共有者が単独で行うことができる。 共有物の管理費用と負担は、共有者が持分に応じて負担する。 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。分割類型として、現物分割、競売による代金分割、全面的価格賠償による分割などがある。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

抵当権|担保物権の花形

公開:2025/11/19

抵当権は、税理士試験の様々な税法において出題されています。 令和3(2021)年度の所得税法の計算問題では、不動産を譲渡するにあたり、夫は抵当権の被担保債務5,000万円を支払っているという記述があります。また、平成29(2017)年度の所得税法の計算問題では、取得価額に関する資料に、マンション購入に伴う借入金の返済に行った抵当権設定の費用20万8,300円を負担したと記述されています。 平成29(2017)年度の法人税法の計算問題では、貸倒引当金を計算するための資料の中に、会社に対する貸付金1,200万円について、時価2,000万円の土地の担保提供を受け、その土地に抵当権を設定している」という記述があります。 令和2(2020)年度の相続税法の理論問題では、「Xは、金銭債権の保全のためYが所有する土地に抵当権を設定した。」そしてその後、「Yは、土地Zの譲渡をもって代物弁済を行い、Xは、Yに対して有する金銭債権の残額を消滅させた」と記述されています。 国税徴収法においても、よく出題されます。 平成30(2018)年度の問題では、「税務署長は、納税の猶予に係る所得税について、次の財産に抵当権の設定を受けている」と記述され、評価額500万円の土地に、第1順位として銀行の被担保債権300万円、第2順位として税務署長の被担保債権150万円とする抵当権が設定されています。 平成27(2015)年度の問題では、抵当権が設定された不動産が火災で焼失したことにより受け取る損害保険金への物上代位に関する知識が問われています。 平成26(2014)年度の問題では、銀行による根抵当権を900万円とする根抵当権が建物に設定されていると記述されています。 本節では、抵当権(民法、民事執行法)について解説します。 1 抵当権とは? 抵当権は、債務者または第三者の不動産を占有移転せずに担保とし、債権の弁済が受けられない場合には他の債権者に優先してその不動産から弁済を受けることができる権利です(民369条1項)。土地などが主な抵当目的物となることもありますが(民369条2項)、主となるのは不動産なので、不動産所有権を目的とする抵当権について解説します。 抵当権は、抵当権者(被担保債権の債権者)と抵当権設定者(債務者または第三者)との間の契約によって設定される約定担保物権です。第三者が抵当権設定者の場合には、第三者は債務を負担しないものの、責任を負うことになり、「物上保証人」(本節のCOLUMN1)と呼ばれます。また、抵当権の目的となった不動産を「抵当不動産」といいます。 抵当権を設定しても抵当権の登記をしなければ、抵当不動産の譲受人などの第三者に抵当権を主張(対抗)することができません(民177条、本節のCOLUMN2)。 抵当権の設定 | | | | :--- | :--- | | 債権者(抵当権者) | C銀行 | | 債務者(抵当権設定者) | A不動産 | | 債務者または第三者(物上保証人) | | 2 抵当権の法的性質 抵当権は、抵当目的物(占有を移転しない)担保です。抵当権が実行されるまで、抵当権設定者は抵当目的物を引き続き使用収益することができます。 例えば、住宅ローンを組んで不動産に抵当権を設定した後も、設定者は不動産に居住することができます。占有移転を要件としないので、質権(民342条)とは異なります。 また、抵当権者は、抵当目的物から「後の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける」ことができるので、抵当権は優先弁済的効力を有します。 さらには、被担保債権が存在しなければ抵当権も存在しません(付従性)。 ただし、被担保債権が移転すると、抵当権も当然に移転します(随伴性)。ただし、抵当権については譲渡性の確保のため、独立性を認める特別法があります(1-1P18頁)。 3 抵当権の順位 特定の不動産に抵当権が設定されていても、不動産の交換価値の残余について、順位の劣る抵当権が成立する余地があります。 複数の抵当権が設定されたときは、抵当権の順位は、登記の前後によります(民373条)。登記に記録されたものの第1順位の抵当権を持たずに、以下の第2順位、第3順位となっていきます。先順位の抵当権の被担保債権が弁済などによって消滅すると、後順位の抵当権の順位が上昇します(順位昇進の原則)。 本節の冒頭で紹介した平成30(2018)年度の試験問題には、評価額500万円の土地の上に、第1順位として銀行の被担保債権300万円とする抵当権が設定され、交換価値の残余について、第2順位として税務署長の被担保債権180万円とする抵当権が設定されています。 なお、開発及び完了の法定納期以前に納税者の不動産に設定・登記された抵当権の被担保債権は、不動産の譲渡代金につき、これらの租税債権に優先します(国徴7条1項、国徴15条1項)。これに対し、法定納期以後に設定・登記された抵当権の被担保債権は、租税債権に劣後するので、抵当権を設定して貸付けを行う場合には、抵当権の設定者の過去の滞納の有無を確認するべきです。 4 抵当権で優先弁済を受けられる債権の範囲 抵当権によって優先弁済を受ける債権の範囲は、元本(元本弁済期到来分)と遅延損害金(元本弁済期後)については、(満期となった)最後の2年分です(民375条)。最後の2年分の遅延損害金について、元本の利息など他の債権との公平を図るために、利息は2年分に限定されています。 通常は、遅延損害金のほうが高率であるので、抵当権の実行により、元本(残元本)と2年分の遅延損害金を優先して受けられることになります。 なお、免除者は、免除者のことにはなりませんが、利息及び遅延損害金の全額を被担保債務者の負担なしとします。 5 物上代位 ― 抵当権の効力及び範囲 (1) 物上代位とは? 抵当権は、抵当不動産の滅失または損傷などによって債務者が受けるべき金銭など(例、損害賠償請求権、火災保険請求権)に対しても、行使することができます(民372条が準用する304条1項)。目的物の価値代替物や目的物から派生するものに抵当権の効力が及ぶことを「物上代位」といいます。 本節の冒頭で紹介した国税徴収法の平成27(2015)年度の試験問題には、抵当不動産が火災で焼失したことにより受け取ることができる損害保険金への物上代位が問われています。 (2) 物上代位の対象 抵当権が設定された不動産を売却したことによる売買代金債権に対しては、物上代位は認められないと考えられています。抵当不動産の売却がされても、抵当権は存しますし(追及力)、新所有者は、抵当権付きの不動産を取得することになるので、抵当権者は新所有者が破れても抵当権を実行できるからです。 本節の冒頭で紹介した令和3(2021)年度の所得税法の計算問題では、不動産を譲渡するにあたり、夫は抵当権の被担保債務5,000万円を支払っていると記述があります。この問題の背後には、抵当権を設定したことによって、流通性に伴い弁済することが難しくなるとして被担保債権が消滅し、抵当権も消滅できるわけです。 (3) 差押え 抵当権者は、目的物の価値代替物や目的物から派生するものに抵当権設定者に払渡しまたは引渡しがされる前に差押えをしなければ物上代位をすることができません(民372条が準用する304条1項但書)。 差押えが必要なのは、第三債務者(損害保険会社など)に「この金銭を債務者(被災者)に支払うのを待て」との警告を発するためです。 6 抵当権の実行 (1) 2つの選択肢 被担保債権の弁済期が到来したにもかかわらず、債務が履行されない場合に、抵当権を「実行」する(利用した)手続を「担保不動産競売(民執180条)」と、「担保不動産収益執行(民執180条)」があります。 (2) 担保不動産競売 ア 担保不動産競売とは? 担保不動産競売とは、抵当権者が抵当不動産を差し押さえて、競売により換価し、換価代金(売却代金)から配当を受けて債権を回収する方法です。抵当権者は、他の債権者が抵当権設定の後に抵当権について登記されたとしても、配当手続において優先的に弁済を受けることができます(民執188条が準用する87条1項4号)。 換価代金は、まず第1順位の抵当権者の被担保債権に充当されるように配当され、残余があれば第2順位、さらに残余があれば第3順位というように順に配当されます。配当が被担保債権の全額に達する足りなかった場合には、抵当権の被担保債権として存続します。 なお、交換価値の実現手段であるときに時間と手間がかかる競売を避けるため、抵当権者が不動産の所有権を取得する合意(民378条)を代物弁済(3-8P206頁)として有効とされています。抵当権は、直接不動産を登記することはできないため、物権の予約登記の仮登記などが付されます。この場合、「任意売却の合意」が準用され、抵当不動産の価額が被担保債権額を超える場合には、抵当権設定者に対し、清算金の支払義務を負います。 本節の冒頭で紹介した令和2(2020)年度の相続税法の問題では、抵当権設定者のYは抵当不動産Zによって代物弁済を行っています。 イ 抵当建物の賃借人 抵当権が実行され、競売によって売却されると、不動産上の抵当権は消滅し、消滅する抵当権に対抗できない賃借権も消滅します。そのため、建物に抵当権設定登記がなされた後に賃借して入居した場合は、競売により、抵当権に対抗できない賃借権が消滅するので、買受人(新所有者)から明渡請求をされると、これに応じなければなりません。 もっとも、抵当権設定登記がなされた後に賃借した賃借人であっても、競売手続の開始前から建物を使用収益していた場合には、買受人の買受の時から6ヶ月間は建物の明渡しを猶予されます(民395条1項)。 (3) 担保不動産収益執行 担保不動産収益執行とは、執行裁判所が選任した管理人が抵当不動産から生じる収益を収受して抵当権者に配当することによって優先的な弁済を受ける方法です(民執180条2号)。 7 抵当権の消滅 抵当権は、被担保債権が消滅すると、原則として消滅します。例えば、物上代位(本節の5)によって、債務などによって、原則として消滅します。 また、抵当権は、時効によっても被担保債権が消滅すると、消滅します。また、抵当権者が設定された場合は、被担保債権全部が消滅しなくても時効が完成します(民執397条1項、消滅主税)。 8 根抵当権 (1) 根抵当権とは? 根抵当権とは、設定行為で定めた一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するものです(民398条の2第1項)。普通の抵当権とは異なり、付従性がなく(本節の2)、元本確定前の元本確定事由が発生する前に、付従性の例外として、元本確定の際、その範囲について極度額を限度として担保すべきものとされています。 普通の抵当権は住宅ローンなどの利用を前提とするのに対して、根抵当権は企業間の継続的な取引などで利用されます。 (2) 不特定債権の担保 根抵当権で担保される不特定の債権とは、一定の債権を包括担保するものです。包括担保の対象となる債権の範囲は、取引の種類を特定して定めなければなりません。 根抵当権で担保される不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約(例、手形割引契約、当座貸越契約)によって生じる債権、債務者との一定の種類の取引によって生じる債権などとされています。 額の取引(例、売買取引)によって生じる債権などと限定されます(民398条の2第2項・3項)。 (3) 根抵当権の順位 根抵当権の設定にあたっては、根抵当権者が不動産から優先弁済を受けられる限度額(極度額)を定めなければなりません。後述の元本確定後には、先順位根抵当権者が設定した極度額によって、抵当不動産の交換価値の残余を予測することができ、他の債権者が安心して融資を行うことができるようになります。 根抵当権には民法375条(本節の4)が適用されず、(確定した)元本のほか、すべての利息とその遅延損害金の全額が極度額の範囲内で担保されます(民398条の3第1項)。 本節の冒頭で紹介した平成26(2014)年度税理士試験の国税徴収法の問題では、極度額を900万円とする根抵当権が設定されています。 (4) 根抵当権の確定 根抵当権により優先弁済される被担保債権の元本が確定期日の到来などによって確定することを「根抵当権の確定」といいます。 確定後は、普通抵当権と同じように、弁済などによって被担保債権が消滅すれば、根抵当権も消滅します。 9 抵当権の税務関係 (1) 所得税 抵当権が実行された場合、抵当不動産の所有者(個人)には、所得税(譲渡所得)が課されます。 ただし、抵当不動産の所有者が債務者であり、資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合には、抵当権の実行による法定の譲渡による所得は、非課税となります(所税9条1項16号、1-1P49頁)。譲渡から得られた所得は納税や弁済に充てられ、所有者は実質的に利益がないからです。 抵当不動産の所有者が物上保証人であり、債務者に対する求償権を行使することができないこととなったときには、行使することができないこととなった金額は、所得の金額の計算上、なかったものとみなされます(所税64条2項、所基通64-5)。 (2) 相続税 抵当権のような限定的な権利は、主たる権利(被担保債権)の価値を担保し、または増加させるものであって、独立して財産を構成しないと定められています(相基通1の2-11)。 COLUMN 1 物上保証人による物上保証料の受取り 国税庁において行われる財産の譲渡の譲渡益のうち実質的非課税になるものとして、物上保証料が挙げられています(所基通6条1項、所基通3-1(14))。 物上保証料とは、債務者から物上保証人に対して支払われる物上保証の役務の提供の対価です。 COLUMN 2 不動産に関する物権変動の対抗要件 物権(例、所有権、抵当権)の設定及び移転(物権変動)は、当事者の意思表示のみによって効力が生じます(民176条)。登記や登録は不要です。 しかしながら、物権変動を(当事者以外の)第三者に対抗(主張)するためには、物権変動をしなければなりません。物権の第三者に対する効力が及ぶまで(1-4P42頁)、公示があることによって第三者は「誰が、どのような物権を有しているのか」がわかります。不動産に関する物権変動は、法務局での登記(民177条)が公示として必要となります。 民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(略)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。 COLUMN 3 平成26(2014)年度税理士試験の国税徴収法第2問 1 製造業を営む滞納者Aは、平成24年分告訴所得税の確定申告分2,000万円(平成25年3月15日申告)を滞納していた。 6 X税務署長は、平成26年2月18日、Aが工場として使用していた建物(評価額1,500万円)を差し押さえた。なお、本件建物の権利関係は次のとおりであった。 (1) 平成24年7月15日付抵当権設定 (被担保債権:H銀行、債務者:A) ・極度額900万円、根抵当権(差押通知書送達時)200万円 (2) 平成24年9月5日付抵当権設定 (抵当権者:I銀行、債務者:A) ・被担保債権600万円 8 平成26年6月16日、差し押さえていた本件建物が火事で焼失した。 9 本件建物は火災保険に付されていたため、J損害保険会社は、平成26年7月23日、X税務署長に対し保険金1,200万円を支払った。 10 徴収職員は、H銀行の現在の被担保債権が500万円であることを確認した。 [1] 設例を解くための前提知識 上記設例を判断する前に、支払われた保険金1,200万円の配当について、下記設例の問題の解答が求められています。 X税務署長による本件建物の差押えの効力は、物上代位的な効力として、本件建物に係る火災保険請求権にも及び(国徴63条1項)、X税務署長は、J損害保険会社から火災保険金の支払いを受けることができます。 それでは、(根)抵当権者であるI銀行とH銀行は、配当を受けることができるのでしょうか。抵当権者は、保険金の支払いを差し押さえなければ、物上代位をすることができないため(本節の5)、H銀行とI銀行による差押えの有無が明らかでないため問題となります。 この点については、徴収職員が差押えに係る保険金の支払いを受けた場合において、差押財産が保険事故発生時に抵当権の目的となっていたときは、抵当権者は、物上代位のため保険金をその支払い前に差し押さえたものとみなされます(同条2項)。 設例の場合、平成26(2014)年6月の火事のときには、本件建物にH銀行とI銀行の抵当権が設定されていたので、両行は、支払い前に差押えをしたものとみなされ、保険金に物上代位権を行使することができます。 [2] 設例の解答 (1) 適用条文 解答するにあたって、国税徴収法18条1項が重要となります。 まず、本節の3でも説明したとおり、国税の法廷納付期限以前に担保の目的で設定された国税徴収法16条は、不動産の譲渡代金につき、租税債権に優先します(国徴16条)。そして、徴収職員が、差押財産に係る保険金の支払いを受けた場合において、その財産上に抵当権があったときのその抵当権の被担保債権と国税との優先関係については、保険金の差押財産の譲渡代金に相当するものとして、上記規定が適用されます(徴基通63-18)。 設例では、平成24(2012)年分所得税の法定納期限以前に、H銀行とI銀行の(根)抵当権が設定・登記されているため、H銀行とI銀行の抵当権に係る被担保債権が所得税に優先します。 次に、国税に充てた金額により担保される債権の元本の金額は、抵当権者が国税に優先して弁済を受けることを知りつつ、被担保債権者が国税の納付を怠った場合は、根抵当権の極度額の範囲内であっても、被担保債権の額は、債権者との関係では、差押えなどの通知を受けた時の金額について優先します。(通知を受けた時から元本確定時までの間の増減分については劣後します。 最後に、抵当権者の債権額に遅延損害賠償を含めると、国税徴収法16条の規定を適用すると、国税に優先する債権の額は、債権者の権利を害することになるため、被担保債権の額には遅延損害賠償を含まないものとして、利息の制限法(1条本文)又は国税徴収法18条1項本文では適用されません(同条1項但書)。設例では、H銀行とI銀行は、後述のとおり、権利を害されることになります。 力を有する。 抵当権は、抵当不動産の滅失または損傷などによって債務者が受けるべき金銭などに対しても、行使することができる。 抵当権の優先弁済権を実現する手続として、抵当不動産を競売する手続(担保不動産競売)と、不動産から収益を上げる手続(担保不動産収益執行)がある。 抵当権は、抵当不動産の滅失、被担保債権の消滅、時効によって消滅する。 根抵当権とは、設定行為で定めた一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保する抵当権である。 ア 第1設例 国税徴収法18条1項本文を適用すると、配当額は以下のとおりとなります。 ①第1順位 H銀行 200万円(差押通知書送達時) ②第2順位 I銀行 300万円 ③第3順位 所得税 700万円(=1200万円-①-②) イ 第2設例 第1設例の配当債権に対する配当額(合計500万円)は、民法373条(本節の3)によって、各行に抵当権を設定したH銀行が優先するため、H銀行の配当額は500万円となります。 ①第1順位 H銀行 500万円 ②第2順位 I銀行 0万円 ③第3順位 所得税 700万円 ウ 最終配当額 I銀行は、抵当権の優先額の限度を適用すると、国税に優先するにもかかわらず権利を害されることとなるため(第2設例)、国税徴収法18条1項本文は適用されません。 その結果、国税徴収法16条によって配当額を計算することになります。 ①第1順位 H銀行 500万円 ②第2順位 I銀行 300万円 ③第3順位 所得税 400万円(=1200万円-①-②) なお、令和3(2021)年度税理士試験の国税徴収法第2問にも、抵当権などの設問が出題されています。非常に複雑な設問となっていますが、ぜひ挑戦してみてください。 POINT 1 抵当権は、設定者(債務者または第三者)の不動産を占有移転せずに担保とし、債権の弁済が受けられない場合には他の債権者に優先してその不動産から弁済を受けることができる権利である。 抵当権は、付従性、随伴性及び物上代位性という性質を有し、優先弁済的効力を有する。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

使用者責任|雇い主の責任

公開:2025/11/19

所得税法基本通達45-5に、使用者や行為者に基因して損害賠償金などを支払った場合に、使用者が使用者や行為者に加入することができるかどうかが定められています。 本書では、「使用者が被用者の行為について損害賠償責任を負うのか?」「負うとした場合に、どのようなときに負うのか?」など、使用者責任(民法)について解説します。 1 使用者責任とは? 使用者が事業の遂行について第三者に不法行為(例、無断使用による手形振出し、自動車事故)により損害を加えた場合、使用者は第三者に対して損害賠償責任を負います(民715条1項、使用者責任)。使用者が責任を負う根拠は、被用者を用いて利益を上げていること(報償責任)と、被害の危険をつくりだしていること(危険責任)です。第三者(被害者)からすると、使用者(民709条)だけでなく、使用者に対しても損害賠償請求をすることができます。使用者の債務と被用者の債務は、連帯債務(3-6P190頁)の関係に立ち、いずれかが被害者に賠償すれば、他方の債務も消滅します。 なお、被害者は、使用者と加害者の関係にあるときは、使用者に対して債務不履行による損害賠償請求をすることもできます(民415条、1-9P70頁)。この場合、被用者の行為に対する評価は、使用者の免責事由(同条1項但書)の有無などにおいて考慮されます。 ○損害賠償請求の関係 被害者 ↔ 被用者 - 不法行為責任(民709条) 被害者 ↔ 使用者 - 使用者責任(民715条) - 受約(債務不履行)責任(民415条) 民法715条(使用者等の責任) 1項 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 3項 前2項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。 2 使用者責任の要件 被害者が使用者に対して使用者責任に基づく損害賠償請求をする場合の要件は、①被用者の行為が不法行為責任(民709条)の要件を充たすこと、②使用者と被用者との間に不法行為時に使用関係があったこと、③被用者の不法行為が使用者の事業の執行について行われたことです。 ②の使用者には、個人事業者(自然人)だけでなく、法人(本節のCOLUMN 1)も含まれます。また、②の使用関係は、契約関係の有無は重要ではなく、実質的にみて使用者が被用者を監督すべき関係にあれば足りるとされています。例えば、元請負人と下請負人の被用者との間に使用関係が認められることがあります。 なお、使用者が相当の注意をしたときなどは損害賠償責任を免責されると規定されていますが(民715条1項但書)、実際に免責されることはほとんどありません。 3 使用者から被用者に対する求償権 損害賠償の支払いをした使用者は、被用者に対して求償権(償いを求める権利)を行使することができます(同条3項)。もっとも、使用者は、被用者によって被害の危険をつくりだし、利益を上げている使用者には、信頼により求償権の行使が制限されます。使用者が損害全額を負担すべき場合もあり得ます。 「使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して、求償することができる」(判例)。 4 被用者から使用者に対する求償権(逆求償) 損害賠償の支払いをした被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができます(最高裁令和2(2020)年2月28日判決・裁判所Web)。 理由は、①報償責任及び危険責任の考え方は、使用者と被用者との内部関係にも及ぶ、②使用者が第三者に対して使用者責任に基づく損害賠償義務を履行した場合と、使用者が第三者の被った損害を賠償した場合とで、使用者の損害の負担について異なる結果となることは相当でないからです。 なお、被用者が損害全額を負担すべき場合もあり得ます。 COLUMN 1 法人の不法行為 法人の不法行為に対する損害賠償請求をするというような方法ではなく、直接、法人の行為として不法行為による損害賠償請求(民709条)をすることはできるのでしょうか。 法人に対する不法行為による損害賠償請求は、被害者が具体的な使用者の不法行為を問題とする必要がないというメリットがあります。 裁判所の判断は分かれており、法人に対する不法行為による損害賠償請求について、肯定するものと否定するものがあります。否定する学説は、法人について心理状態を観念できず法人の過失を論ずることができないことなどを理由として挙げています。 COLUMN 2 交通事故訴訟 令和3(2021)年度税理士試験の法人税法の計算問題では、交通事故に関する出題があり、損金処理した賠償金として、「取締役A氏の業務外の 交通事故による交通反則金8万円」、「使用人B氏の業務中の交通事故による交通反則金1万5千円」があると記述されています。交通事故訴訟は、令和元(2019)年及び平成27(2015)年度においても出題されています。 交通事故訴訟制度とは、自動車などの運転者の道路交通法違反行為のうち、飲酒運転、無免許運転などに悪質なものを除いたものの(反則行為)は、一定期間内に反則金を納めると、刑事裁判などが受理されないで事件が処理されるという行政上の特別な仕組みです。反則行為は犯罪であり、本来は刑事手続となりますが、大量発生する事件の処理の迅速化を目的として、この制度が設けられています。 反則行為は、交通反則金制度の適用を受けるか、拒否するかを選択することができます。拒否して反則金を納めなかった場合、必ずしも起訴されるわけではなく、不起訴処分になることもあります。 交通反則金を支払った場合、所得税法上、必要経費に算入することはできません(45条1項7号)。また、法人税においては、業務執行に関連して支払われたものに係る交通反則金は損金不算入、その他に係るものは対象となりません。 POINT 1 使用者が事業の遂行について第三者に不法行為により損害を加えた場合、使用者は第三者に対して損害賠償責任を負う。 使用者責任の要件は、①被用者の行為が不法行為責任の要件を充たすこと、②使用者と被用者との間に不法行為時に使用関係があったこと、③被用者の不法行為が使用者の事業の執行について行われたことである。 損害賠償の支払いをした使用者は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対して求償することができる。 また、損害賠償の支払いをした被用者は、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識

取締役などの責任|役員の償い

公開:2025/11/19

取締役、会計参与、監査役など(以下「取締役など」)は、会社や第三者に対して損害賠償責任を負うことがあります。ワンマン社長経営の会社における、実質的には従業員にすぎない取締役も、監視義務違反として責任を負うことがあります。 どのような場合に取締役などが損害賠償責任を負うのかは、顧問税理士として知っておいたほうがよい知識です。 本節では、取締役などの責任(会社法)について解説します。 1 会社に対する損害賠償責任 (1) 任務懈怠責任 取締役などは、その任務を怠ったときは、会社に対し、任務懈怠によって生じた会社や財産を賠償する責任を負います(会社423条1項)。条文上は明示されていませんが、取締役などは、任務懈怠につき自己の帰責事由によるものでなかったことを主張・立証すれば、責任を免れます。 (2) 任務懈怠とは? 任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務(善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務)及び忠実義務(法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行う義務)に違反することです(会社330条、355条)。 取締役の善管注意義務違反として、他の取締役に対する監視義務違反や内部統制システム構築義務違反など、不作為(なすべきことをしないこと)による任務懈怠が問題となることがあります。 (3) 経営判断の原則 会社経営は、不確実な状況下で迅速な判断が求められ、またリスクを負いながら利益を獲得するものであるため、取締役には広い裁量が認められます。したがって、取締役の行為が結果的に会社に不利益な結果をもたらしたからと言って、取締役には経営判断に誤りがあり、善管注意義務違反にはなりません(経営判断の原則)。 なお、役員の法令違反行為には、経営判断の原則は適用されません。 2 第三者に対する損害賠償責任 (1) 任務懈怠責任 ア 任務懈怠責任の概要 取締役などが任務懈怠によって会社に重大な過失があったときは、取締役などは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条1項)。会社債権者が、倒産した会社の取締役などに対して損害賠償請求するのが典型的な例です。 会社法429条1項の責任は、第三者保護のための法定の特別責任です。取締役などは、民法の不法行為による損害賠償責任(1-6P参照)を負わないときであっても、この規定により損害賠償責任を負うことがあります。 イ 任務懈怠責任の要件 第三者は、取締役などの悪意または重過失を任務懈怠について証明すればよく、第三者に対する加害について証明する必要はありません。民法の不法行為責任とは要件が異なります。 また、損害には、直接損害(例、取締役が会社のお金を支払う能力がないにもかかわらず、会社を代表して第三者と売買契約を締結したため、第三者が代金を回収不能となった損害)と、間接損害(例、取締役が著しく不合理な業務執行を行ったために会社が破産し、第三者が回収不能となった債務)の両方が含まれます。 ウ 名目的取締役 実質的には経営にタッチする(い)ことがない名目的取締役であっても、代表取締役の業務執行を監視しなかったことを理由として、第三者に対する損害賠償責任を負うことがあります。 しかし、近時の裁判例には、監視義務を尽くしていたとしても、代表取締役の業務執行を阻止することができなかったため、任務懈怠と第三者の損害との間に因果関係がないという理由で、名目的取締役の賠償責任を否定する るものもあります。 (2) 計算書類などの虚偽記載による責任 取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(会社429条2項1号ロ)。虚偽記載の計算書類を信用して融資した銀行が、回収不能額について損害賠償請求するのが典型的な例です。 取締役は、虚偽記載について注意を怠らなかったこと(無過失)を証明することによって責任を免れます(同条2項柱書)。直接担当の事項ですが、取締役は、軽過失でも責任を負いますし、第三者ではなく取締役が証明責任を負います。情報開示は重要であり、また、計算書類などが虚偽の場合には大きな危険をもたらすため、取締役には過失責任及び無過失の証明責任が課されています。 COLUMN 1 会計参与 (1) 会計参与とは? 会計参与は、会社の役員であり(会社329条1項)、取締役と共同して、計算書類などを作成する権限(会社の意思決定をし、あるいは会社の運営に携わる者)です(会社374条1項)。特に中小企業において計算書類などの信頼性を高めるために設置されます。 会計参与の設置は、原則として、会社の任意です。 (2) 会計参与の資格 会計参与は、公認会計士もしくは監査法人または税理士もしくは税理士法人でなければなりません(会社333条1項)。 (3) 会計参与の損害賠償責任 会計参与は、会計参与の本務(1)及び第三者の本務(本節の1(1))に対して損害賠償責任を負うことがあります。 例えば、会計参与の職務執行を行うに際して、職務の執行に際して不正行為または法令・定款に違反する重大な事実を発見したときは、監査役(監査役非設置会社にあっては株主)に報告する義務を負うため(会社375条1項)、報告を怠ったときは任務懈怠となり、会社に対して損害賠償責任を負うことがあります。 また、会計参与は、計算書類などの虚偽記載について、無過失である場合を除き、第三者に対して損害賠償責任を負います(会社429条2項2号、本節の8(2))。 (4) 報酬の課税関係 会計参与が会社から受け取る報酬は、所得税法上、給与所得として課税されます。事業所得ではありません。 COLUMN 2 監査役の責任に関する最近の判例 監査役の任務懈怠により、従業員による継続的な横領等の発見が遅れて被害が生じたとして、会社が監査役に対して損害賠償を請求した事件がありました。横領した元経理担当の従業員は、発覚を免れるため、預金口座の残高証明書を偽造するなどしていました。 最高裁令和3(2021)年7月19日判決・裁判所Webは、「計算書類等が会計基準等と異なる会計処理に基づき作成されるものであり(略)、会計基準以降取締役等の責任の下で正確に作成されるべきものである(略)ことや(略)、会計基準等の内容が正確であることを当然の前提として計算書類の監査を行ってよいものではない。監査役は、会計基準が信頼性を欠くものであることが明らかでなく、計算書類等が会社の財産及び損益の状況を全ての重要な点において適正に表示しているかどうかを判断する場合には、計算書類の内容が会計基準等に適合するか、又はその基礎資料を確かめるなどすべき場合があるというべきである」、「そうすると、会計方針を決定した上で、計算書類を確定し、会社債権者に開示してよくなるものであることを明らかでない限り、計算書類が会計基準に適合していないこと自体が会社の内部に開示していることを確認したとすれば、常にその任務を尽くしたと認められるものではない」と判示しています。 税理士は、顧問先から監査役への就任を依頼されることもあるため、監査役の責任内容については注意が必要です。 COLUMN 3 株主代表訴訟 会社が取締役などから取締役などに対する損害賠償責任の追及を怠る可能 性があるため、株主が会社のために代表訴訟を提起することが認められています(会社847条)。 株主代表訴訟の確定判決は、勝訴・敗訴を問わず、会社に対して効力を有します(民訴115条1項2号)。会社のために訴訟を提起するのであり、勝訴の場合の損害賠償は、株主個人ではなく、会社に対して支払われます。 株主が勝訴した場合において、責任追及の訴えに係る訴訟に関する費用を支出したとき、または弁護士費用を支払うべきときは、株主は、会社に対し、相当と認められる額の支払いを請求することができます(会社852条1項)。全額を請求できるわけではありません。 一方、株主が敗訴した場合には、悪意(わざと訴訟して会社に権利を失わせる意図など)があったときを除き、株主は、会社に対し、訴訟によって会社に生じた損害(例、訴訟対応費用、信用毀損)を賠償する義務を負いません(同条2項)。 POINT 1 取締役などは、会社に対し、任務懈怠によって生じた損害を賠償する責任を負う。任務懈怠とは、会社に対する善管注意義務及び忠実義務に違反することである。 取締役の判断の内容及び過程に著しく不合理な点がない限り、善管注意義務違反にはならない。 取締役などは、任務懈怠について悪意または重過失があったときは、任務懈怠によって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。 取締役は、計算書類などの虚偽記載をしたときは、虚偽記載について注意を怠らなかったときを除き、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

書名: 税理士業務で知っておきたい法律知識